遠い昔の話になるなぁ。
高校時代
2年か3年のときに体育の選択授業で剣道と柔道を選んで授業を受けられるのがあった。
俺は剣道に興味がなかったのと、貧乏な家庭だったため、金のかからない柔道を選んだ。
柔道を選択した奴はなんとなく柔道っぽい奴ばかりで本気でやるのめんどくせーとか考えていた。
最初の段階の授業は受け身の練習だった。
昔は有名人だったらしい先生に丁寧に教えてもらった。
初歩の初歩といった感じで、まず前廻り受け身。
意外と面白い授業になるかもと思い始めた3回目くらいの授業だったか、
先生から、
「今日は前廻り受け身のテストだ」
楽しんで授業を受けてはいたが、真剣ではなかったので軽く焦った。
でも少し練習できて体も慣れてきた。
そしていざテスト。
出席番号順に一列に並び、一人ずつ、先生の前で受け身をとる。
右からと左からの2回だけだ。
前廻り受け身は右回りの時は左手をついて右ひざをついて右肩から転がる。
左回りの時はその逆といった感じで基礎中の基礎となる。
一人ひとりテストを受けていく中、だんだん俺の番が近づいてくる。
終わった奴らがワイワイ話している。
誰もミスらないのでけっこう緊張してきた。
あと3人
あと2人
あと1人
その間ずっと軽く体を動かしてイメトレ。
よし、俺の番
「次!」先生の声が聞こえた
「はい!」一応、声を張って返事をして足を前に出した瞬間
前廻り受け身が脳みそから全部吹っ飛んだ
やべぇ!真っ白だ!
でもやるしかない。
3歩前に進みながら前傾していって左手を着いて右左の順番でやるのだが、
もうわけがわからなくなっている。
1、2、3と足を進めた
どっちだ!どっちだ!
右で回る時はどっちの手だ!
忘れた
とりあえず、疑問のまま前傾して左手を着こうとしたとき、
いや、右だ!!
頭の中での葛藤が体に伝わり…
両手を着いた…
うわー!
前傾してるから膝も着いた
しかも両膝
更に、勢いもついてるから前傾を立て直せずにおでこも着いた。
「ズズッ」とおでこが擦れる音がした。
当時、中途半端な坊主頭だったおれは
中途半端な形の土下座スタイルで2秒静止していた。
その一瞬にして、ガヤガヤしていた柔道場に物音ひとつしない静寂の時が訪れた。
2秒間静止している間、どうしていいか、どうごまかそうか、さらにやっちまった感が頭の中で渦巻いた
それから自然に、そのまま腰をおろし、正座をして軽く笑ってごまかして、真っ赤になったおでこを手で擦った。
ふと先生の顔を見ると、
口が開いていて、目が大きく見開いていて、瞳孔が開いていて、俺を見て固まっていた。
続いて、廻りを見たら、同級生は全員先生と同じ顔をして俺を見て固まっていた。
「すんません」と、ごく小さな声で言ったら、
固まっていた先生が「プッ!」
と吹き出し、笑いながら真剣さをアピールして「も、もう一回だはっ!」とチャンスをくれた。
その声で、固まっていた同級生たちが溶けて、ここが柔道場とは思えないほどの大爆笑の渦となった。
恥ずかしかったが、新しい友達が30人くらいできた思い出深い授業となった。
