第一章
~手に入れし能力~
あの日の僕らはどうかしていた。
マッピーはそれを奇跡と言い、僕はそれを、運命だと見なした。
僕はあのとき17歳だった。学校の帰り、練馬の駅前に立っていた。なぜその日、僕が練馬の駅に立っていたかについては、自分でも良くわからない。あの、いまいましい第3次カバラ戦争と関係していたのかもしれないし、あるいはメイメイが僕を呼んだのかもしれなかった。
僕はただ、人の往来を忍者のように冷ややかな視線で眺めていた。覚醒する事を忘れた愚鈍な人間達。どうせ今晩も鍋なんだろう。そして、どうせ明日も、その次も鍋なんだろう。
そろえるだけ揃えた調理器具が、煮込みハンバーグに取りかかる日は もう来ないのか。
こんなハズではなかった。人間は、料理にはバラエティが存在するという事実を忘れていた。
醤油以外の調味料が存在するという事実も消えた。
地球は、ここまで成り下がったのか。
「あれーっ、そんなとこで、なにしてんのッ?」
急に、間の抜けた声が聞こえた。クラスメイトのマッピーが目の前に立っていた。
マッピーはおじいさんのように歯が一本しか生えておらず、そのためいつももぐもぐしていた。無垢な笑顔がかわいかった。
「いやー、定期券落としちゃってサ!今ちょっと探してるとこ。ワンワン ニャオ~~ン」
僕は咄嗟に適当な茶目っ気ある受け答えをした。
ここでマッピーに、僕が駅前に何の目的も無く立っていた事に付いて知られるのは非常に危険だと察したからだった。
虫の行進のように往来している人々の中には、その意味を感じ取った人も少なからずいたようだった。いや、しかし、バレる筈はないのだが。いや、しかし。
僕は「しまった、またいつもの癖でやってしまったな……。」と思い、咄嗟に舌を出し、首を傾げた。そしてビスの付いたお気に入りのジャケットを頭上で大きく振り回してマッピーに飛びかかって行った。
それは一瞬のことだった。
僕がジャケットを振り回した瞬間、よく晴れた空に粉雪が舞った。
それはマッピーを魅惑的にふんわり包み、スカルプDはシャボン玉に成って空に放たれた。
そしてお気に入りのコモディイイダのパート斉藤さん(46)の家のほうに向かってきらめきながらほわほわ飛んだ。
スパンコールが、瞬いた。犬がワンと鳴いた。
その刹那、ぼくの狂おしい地球は大きく鼓動し、僕の背後で男体山が崩れていく音が聴こえた。
ひどい地響きと共に崩れてゆく男体山は、第3次戦争つまりはカバラ戦争の勝利で指揮をとったモズラート田中軍曹の讃えて建設された銅像を巻き込み、僕の激しい胸の痛みとともに地底の奥深くに沈みこんでいった。
そして何もなかったように、人々は、また行進を繰り返している。
練馬の駅はこうして一瞬にして全て無くなってしまったと言うのに、顔色一つ変えないんだな。
あのやわらかい、平野レミのビーフシチューさえ忘れてしまった人間達。
まるで大名行列だな、と僕は昔NBAの補欠選手だった頃にコーチをしていたフレディーの言った一言を口の中で呟いたと思ったら全部口に出ていた。ちなみにフレディは、NBA以前はシルクドソレイユに在籍していた。
「もう~、痛い! 痛いよ! ほんと、相変わらずだね!」
僕の振り回したジャケットの遠心力により発生した粉雪で一気に300メートルほど飛ばされてしまったマッピーは、きらきらとしたグリッターをぬぐいながら心の声を使って僕の心に直接話しかけてきた。
僕が「ごめんごめん! マッピー、ごめんだにゃ~ん!」と返事をしようと思った刹那、飛ばされたはずのマッピーは僕の向かいに立っていた。
いつものように口元をもぐもぐさせながら、残り少なくなった髪の毛をなびかせていた。
「ムヤ、ムヤムヤムヤ?」
首を傾げたマッピーが何を言っているのか、はっきり言って全然わからなかった。が、相変わらずかわいい。それでもかわいい。はっきり言ってクラスのみよちゃんの次にかわいい~~~~ッ!!!
(BGM perfume 「チョコレイト ディスコ」)
「やれやら、シルクドソレイユでの修行も、まったく無駄ってわけじゃなかったってことか……。」
僕はあの頃を思い出してちょっと笑ってしまい、マッピーはそんな僕を見て嬉しそうに笑っていた。
シルクドソレイユ時代の修行によって、無意識に身体に叩き込まれているパフュームのダンスを全力で踊り終えた僕らは顔を見合わせた。
「ところで、マッピー、君は一体こんなところで何をしているんだい?」
そう尋ねようと思い「どうせあらかたいつもの街頭でのウサマビンラディンの実演ショーでもやるところだったんだろう。つまらん男だ」と思いながらも僕は五体投地のポーズをやめて身体を起こした時だった。
マッピーの身体の後ろから、目も醒めるような、いや、丸で夢のような、後光がさしていたんだ。
「あ……ああ……!」
僕はそれ以上の言葉を失った。
そしてその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
人はあまりに驚くと、動くことはおろか、叫んだり喚いたり出来なくなるものだ。
僕はただただ、マッピーの伏し目がちで弥勒菩薩のような表情に魅入っていた。
マッピー、いや、正確にはさっきまで僕のクラスメイトであり、シルクドソレイユ時代の同期であり、少女時代の友達でもある僕の良きライバルだったはずの彼、、、。
その彼が、今やこの世のものとは思えない妖艶で神聖な美しさを放ってそこに佇んでいた。
あの忌まわしい過去、、美輪明宏との契約が、、、今、、、、今現実のものに成ったというのか。
そうだ、彼は、、、彼は、、、。
僕は、シルクドソレイユ時代に起こった悪魔とマッピーの契約をついうっかり忘れていた。ついうっかり忘れて、マッピーに萌えていたのだ。なんたる失態。
空は青く晴れ渡り、流れてゆくような雲がとても白かった。
僕の意識はすうっとひいていった。
第二章「その名をちずおと名付けよう」
「ねね、カズヤ君っ!もしかして、ひとり? 私ね、あのね、すっごい先生を知ってるの!!
今日の放課後、、、先生の所に行くんだけど、一緒にいかない??きっと会えばわかると思うの。先生はね、なんでも見えちゃうのよ。一目見ただけで一発で、カズヤ君のオーラの色とかぁ、前世、そして犬派か、猫派とか、珈琲に砂糖を何杯いれるかとか。」
「ああ、そうなの、、へへ、、へぇ、僕、興味あるなあ。。」
僕はみよちゃんにできるだけさりげなく受け答えする風体を装いつつ、そのスカートからちらとはみ出るふくらはぎを舐めるように見た。
見てしまった。ああ、なんというおそろしい罪。なんという贖罪。僕は罪深き男です。
母上、父上、どうぞお許しください。
最近、クラスメイト達は盛んに僕を誘う。今までは汚いものを見るように遠くからちらと眺めるだけで、決して話しかけてこなかったクラスメイト達。それが突然一体、どうしたというのだ。
ついに、ついに、時代が到来したというのか。
すでに友人達の親切な勧めで、最高級のマイナスイオン羽毛布団をなんと50万ポッキリ、スイッッアランドの奇跡のわき水も30万弱で購入する事が出来たのだ。
しかも、彼等の優しい計らいでそれぞれ月6900円の分割払いにもしてくれた。
そして そして今日は、ついにクラスのマドンナ、みよちゃんからの誘い。
この波に今乗らなくて、いつ乗る。カズヤ、男に成れ。
「じゃ、放課後、下駄箱の前で待ってるから。あ、今日も印鑑持ってきてね。じゃ、また後でね。」
「う、うん」
ああ、みよちゃん。君のまぶしいポニーテールを 僕は何度 横目でうっすらと視界の端から脳裏に焼き付けようと試みた事か。
そして放課後僕はあの、憧れのみよちゃんと、、、あのみよちゃんと先生の元へ会いに行くのだ。
午後の授業は身が入らなかった。 歴史の教師が、ポツダム宣言のくだりを激しく興奮しながら和太鼓のリズムに乗って解説していたようだった。
(一方その頃、サティアンでは、かつてのシルクドソレイユのパートナー、マッピーが、舌なめずりをしながらカズヤを待ち構えていた。)
~手に入れし能力~
あの日の僕らはどうかしていた。
マッピーはそれを奇跡と言い、僕はそれを、運命だと見なした。
僕はあのとき17歳だった。学校の帰り、練馬の駅前に立っていた。なぜその日、僕が練馬の駅に立っていたかについては、自分でも良くわからない。あの、いまいましい第3次カバラ戦争と関係していたのかもしれないし、あるいはメイメイが僕を呼んだのかもしれなかった。
僕はただ、人の往来を忍者のように冷ややかな視線で眺めていた。覚醒する事を忘れた愚鈍な人間達。どうせ今晩も鍋なんだろう。そして、どうせ明日も、その次も鍋なんだろう。
そろえるだけ揃えた調理器具が、煮込みハンバーグに取りかかる日は もう来ないのか。
こんなハズではなかった。人間は、料理にはバラエティが存在するという事実を忘れていた。
醤油以外の調味料が存在するという事実も消えた。
地球は、ここまで成り下がったのか。
「あれーっ、そんなとこで、なにしてんのッ?」
急に、間の抜けた声が聞こえた。クラスメイトのマッピーが目の前に立っていた。
マッピーはおじいさんのように歯が一本しか生えておらず、そのためいつももぐもぐしていた。無垢な笑顔がかわいかった。
「いやー、定期券落としちゃってサ!今ちょっと探してるとこ。ワンワン ニャオ~~ン」
僕は咄嗟に適当な茶目っ気ある受け答えをした。
ここでマッピーに、僕が駅前に何の目的も無く立っていた事に付いて知られるのは非常に危険だと察したからだった。
虫の行進のように往来している人々の中には、その意味を感じ取った人も少なからずいたようだった。いや、しかし、バレる筈はないのだが。いや、しかし。
僕は「しまった、またいつもの癖でやってしまったな……。」と思い、咄嗟に舌を出し、首を傾げた。そしてビスの付いたお気に入りのジャケットを頭上で大きく振り回してマッピーに飛びかかって行った。
それは一瞬のことだった。
僕がジャケットを振り回した瞬間、よく晴れた空に粉雪が舞った。
それはマッピーを魅惑的にふんわり包み、スカルプDはシャボン玉に成って空に放たれた。
そしてお気に入りのコモディイイダのパート斉藤さん(46)の家のほうに向かってきらめきながらほわほわ飛んだ。
スパンコールが、瞬いた。犬がワンと鳴いた。
その刹那、ぼくの狂おしい地球は大きく鼓動し、僕の背後で男体山が崩れていく音が聴こえた。
ひどい地響きと共に崩れてゆく男体山は、第3次戦争つまりはカバラ戦争の勝利で指揮をとったモズラート田中軍曹の讃えて建設された銅像を巻き込み、僕の激しい胸の痛みとともに地底の奥深くに沈みこんでいった。
そして何もなかったように、人々は、また行進を繰り返している。
練馬の駅はこうして一瞬にして全て無くなってしまったと言うのに、顔色一つ変えないんだな。
あのやわらかい、平野レミのビーフシチューさえ忘れてしまった人間達。
まるで大名行列だな、と僕は昔NBAの補欠選手だった頃にコーチをしていたフレディーの言った一言を口の中で呟いたと思ったら全部口に出ていた。ちなみにフレディは、NBA以前はシルクドソレイユに在籍していた。
「もう~、痛い! 痛いよ! ほんと、相変わらずだね!」
僕の振り回したジャケットの遠心力により発生した粉雪で一気に300メートルほど飛ばされてしまったマッピーは、きらきらとしたグリッターをぬぐいながら心の声を使って僕の心に直接話しかけてきた。
僕が「ごめんごめん! マッピー、ごめんだにゃ~ん!」と返事をしようと思った刹那、飛ばされたはずのマッピーは僕の向かいに立っていた。
いつものように口元をもぐもぐさせながら、残り少なくなった髪の毛をなびかせていた。
「ムヤ、ムヤムヤムヤ?」
首を傾げたマッピーが何を言っているのか、はっきり言って全然わからなかった。が、相変わらずかわいい。それでもかわいい。はっきり言ってクラスのみよちゃんの次にかわいい~~~~ッ!!!
(BGM perfume 「チョコレイト ディスコ」)
「やれやら、シルクドソレイユでの修行も、まったく無駄ってわけじゃなかったってことか……。」
僕はあの頃を思い出してちょっと笑ってしまい、マッピーはそんな僕を見て嬉しそうに笑っていた。
シルクドソレイユ時代の修行によって、無意識に身体に叩き込まれているパフュームのダンスを全力で踊り終えた僕らは顔を見合わせた。
「ところで、マッピー、君は一体こんなところで何をしているんだい?」
そう尋ねようと思い「どうせあらかたいつもの街頭でのウサマビンラディンの実演ショーでもやるところだったんだろう。つまらん男だ」と思いながらも僕は五体投地のポーズをやめて身体を起こした時だった。
マッピーの身体の後ろから、目も醒めるような、いや、丸で夢のような、後光がさしていたんだ。
「あ……ああ……!」
僕はそれ以上の言葉を失った。
そしてその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
人はあまりに驚くと、動くことはおろか、叫んだり喚いたり出来なくなるものだ。
僕はただただ、マッピーの伏し目がちで弥勒菩薩のような表情に魅入っていた。
マッピー、いや、正確にはさっきまで僕のクラスメイトであり、シルクドソレイユ時代の同期であり、少女時代の友達でもある僕の良きライバルだったはずの彼、、、。
その彼が、今やこの世のものとは思えない妖艶で神聖な美しさを放ってそこに佇んでいた。
あの忌まわしい過去、、美輪明宏との契約が、、、今、、、、今現実のものに成ったというのか。
そうだ、彼は、、、彼は、、、。
僕は、シルクドソレイユ時代に起こった悪魔とマッピーの契約をついうっかり忘れていた。ついうっかり忘れて、マッピーに萌えていたのだ。なんたる失態。
空は青く晴れ渡り、流れてゆくような雲がとても白かった。
僕の意識はすうっとひいていった。
第二章「その名をちずおと名付けよう」
「ねね、カズヤ君っ!もしかして、ひとり? 私ね、あのね、すっごい先生を知ってるの!!
今日の放課後、、、先生の所に行くんだけど、一緒にいかない??きっと会えばわかると思うの。先生はね、なんでも見えちゃうのよ。一目見ただけで一発で、カズヤ君のオーラの色とかぁ、前世、そして犬派か、猫派とか、珈琲に砂糖を何杯いれるかとか。」
「ああ、そうなの、、へへ、、へぇ、僕、興味あるなあ。。」
僕はみよちゃんにできるだけさりげなく受け答えする風体を装いつつ、そのスカートからちらとはみ出るふくらはぎを舐めるように見た。
見てしまった。ああ、なんというおそろしい罪。なんという贖罪。僕は罪深き男です。
母上、父上、どうぞお許しください。
最近、クラスメイト達は盛んに僕を誘う。今までは汚いものを見るように遠くからちらと眺めるだけで、決して話しかけてこなかったクラスメイト達。それが突然一体、どうしたというのだ。
ついに、ついに、時代が到来したというのか。
すでに友人達の親切な勧めで、最高級のマイナスイオン羽毛布団をなんと50万ポッキリ、スイッッアランドの奇跡のわき水も30万弱で購入する事が出来たのだ。
しかも、彼等の優しい計らいでそれぞれ月6900円の分割払いにもしてくれた。
そして そして今日は、ついにクラスのマドンナ、みよちゃんからの誘い。
この波に今乗らなくて、いつ乗る。カズヤ、男に成れ。
「じゃ、放課後、下駄箱の前で待ってるから。あ、今日も印鑑持ってきてね。じゃ、また後でね。」
「う、うん」
ああ、みよちゃん。君のまぶしいポニーテールを 僕は何度 横目でうっすらと視界の端から脳裏に焼き付けようと試みた事か。
そして放課後僕はあの、憧れのみよちゃんと、、、あのみよちゃんと先生の元へ会いに行くのだ。
午後の授業は身が入らなかった。 歴史の教師が、ポツダム宣言のくだりを激しく興奮しながら和太鼓のリズムに乗って解説していたようだった。
(一方その頃、サティアンでは、かつてのシルクドソレイユのパートナー、マッピーが、舌なめずりをしながらカズヤを待ち構えていた。)