先日、レッスンに行くためにバスに乗った。
免許を持ってない私の移動手段はバス一択で。
バスに乗る前に、唐突な土砂降りに見舞われ傘を持っていなかった私はそれなりに濡れた。
5分ほど遅れて来たバスに乗り向かっていると、私が乗った次の次のバス停で乗ってきた男性客に思いっきり肩をつかまれた。
二十歳の私。
本当に驚いて、5分くらいフリーズしてしまった。
一番前の席に座っているのに、
セクハラ?
いや、会社じゃないからハラスメントじゃないか?
嫌悪感と驚きと。
恐怖と。
ずっと、ざわざわしながら乗っていて。
私よりも早くその男性客は降りていった。
運転手はものすごく無愛想で、マイクすら付けておらず無口。
ため息ばかりして、乗客に何か聞かれても怒っているようなすっごい小さい声で答えていて。
極めつけは、杖をついたおばあちゃんが降りるとき、バス停に止めていた他の車両の真横に付けて20㎝もない隙間で降ろさせたのだ。車道に。
後ろに幅はいくらでもあるのに。
本当についてない。
外出しなければ良かった。
もう二度と、バスに乗りたくない。
この世界の全てを恨んで、嫌いになって、それでもどうすることも出来ないのだと、諦めた。
それから五日後。また同じ系統のバスに乗ることに。
行きは本当に嫌で嫌で、両親に送ってもらった。
先日あったことは、親にいらぬ心配と嫌悪感を抱かせることになりそうで言っていなかったが、察してくれたのか送ってくれた。
問題は帰り。
バスに乗ろうと、バス停に着いてモヤモヤしていたら稽古場の裏口を閉め忘れていることに気づいて慌てて戻った。
そしてダッシュでまたバス停に戻り、またも、なんてついてない日だと思った。
ギリギリでバスに間に合い、ビクビクしながら乗り込む。
運転手さんは良さげな人で、ちゃんと一つ一つ丁寧に話していた。
が、「バスのドアが閉まります。ご注意ください。」とバスが発車した途端、バス停で座っていたおじさんが急にバスのドアを叩いてきたのだ。
バスは発車して動いているのに。
なに?またなにか変な人?もういやだ。
そんなことを思っていたら、運転手さんがドアを開け、「どうしました?」と聞いた。
おじさんは、「誰か水筒を忘れているよ。今乗った人たちじゃないか?」と。
え?
と思っていたら、私の前に乗り込んでいた家族連れのお母さんが、「あぁ!すみません!ありがとうございました!」と受け取った。
感動した。
こういう人たちが、ちゃんと報われて、良いことが沢山ある人生であって欲しい。
お礼を言う、謝る、丁寧に説明する、思いやりのある行動をする。
当たり前のようだけど、出来ていない人と出来てる人がいて。
その割合はもしかしたら、後者の方が少ないのかもしれない。
この世界にも、良いことを出来る人がいる。
この世界の全てを恨んで、嫌いになって、それでもどうすることも出来ないのだと、諦めた。
けど、一瞬で救われたのだ。
私はバスの一番前の席で、一人静かに泣いた。
この世界にも、生きてて良かったと思える景色がまだあるのだ。