2014.01 sky

この世界に願い事を許されるなら

スケート靴を頼むだろう

凍った水さえ見つければ

たちまち思う存分にほほえみ

笑い 踊り 歓声をあげることができるから


思い描くのは氷の世界

しっかり凍って揺らがない世界

境目のはっきり見て取れる世界

境目さえあれば 私は安全

生暖かい水からも守られ

視線からも守られ

とろける思考からも

破れ、こぼれる思考からも 

守られる


そして私は世界にも

一緒に滑ろうと誘うだろう

私の掴んだ喜びが

いかほどのものか見てほしいから

だって私は

もう何も恐れずともよいのだから。


そんな日がきたならば

誰もがその人らしく生きられるようになるだろう

無縁かと思えたものたちも

意外に似ているとわかるだろう

霧は晴れ 混乱は静まり

真の理解が私たちをやさしく

包んでくれるだろう


2014.07.30 cat


私にはどんなにがんばっても

二つの世界を目立たぬように

行き来することができなかった


一方には標準的な人々の住む世界があり

他方には不揃いの人々の住む世界がある

どちらか片方の世界を離れ

もう片方の世界に入ったとたん

私は決まって大声で到着を宣言してしまっているようなのだ


標準の世界を訪れるときはまだいい

自分にも比較的自信を持っていられるし

たいていは冷静さを保つこともできる

ただその代わり、いつよそ者と見破られるか

常にはらはらしていなくてはならないけれども


ところが、一歩横に踏み出して

不揃いの世界に入るともういけない

これまで自分を固めていた糊がゆるみ

ちょっとくつろいだ気分になったかなと思っていたら

何の前ぶれもなく生の神経たちが

舞台の中心におどり出て

今すぐにめんどうを見ろと騒ぎ出す


こちらはその手当に追われて

舞台の上でなら使えたはずの

対話のテクニックもボディーランゲージも

何一つ思い出せない


この奇妙な異変が起きると

幼い頃によく行ったあの場所に

逃げ込むしかできない

周囲で起きていることのいっさいから

意識をそらすしかない

みんなの暖かい笑い声や冗談も

互いの近況や計画を語り合う声も

応援や励ましのことばさえも

締め出すしかない


そんなことより

とにかく頭をからっぽにすることに

専念しなくてはならないのだ

くり返しくり返し数字を唱え

どこか静かな場所

どこか騒音の追ってこない場所に

ひたすら焦がれるしかできなかった


あれはもしかしたら

感覚刺激の負担が限度を越えてしまったのかもしれない

あるいは次に何が起こるか予測できないせいで

神経がすり減ってしまったのかもしれない

いや、単に、狭い空間で

慣れない人たちのすぐそばにいる感覚が

悪かっただけかもしれない


とにかくはっきり言えるのは

あれが恐ろしい体験だったことぐらいだ

みんなの顔と顔が混ざり合い

人々の声は調子っぱずれに聞こえだす

自分の五感がさっぱり当てにならなくなる

周囲のできごとはスローモーションになり

やがてストップしてしまう


どこか静かな場所、誰もいない部屋を見つけて

自分を立て直すまでは、元には戻らない

ここまでことが進んでしまうと

自分をとり戻すのは容易なことではなくなるが

時間をかけることさえ許されるならば

必ず元に戻ることはできるものだ


2014.09.01 flower


おおぜいの人の前に立って話すのは

一方通行のコミュニケーションだけに

相手のボディランゲージなど

ことば以外の表現形式にまどわされなくてすむ


仮にどちらかをとれと言われたら

一人や二人を相手に話をするより

おおぜいの前に立って話す方を選ぶだろう


少人数のグループで会話をしていると

神経はまるで凍った歩道を竹馬で

歩いているような感じになる


会話の流れ、話題の移り変わりを見失う

ほかの人の発したことばを踏んづける

自分の頭の中の考えにつまずいて

前のめりに転ぶ

それがほとんど毎回なのだ


少人数の会話となると

一人芝居や朗詠のときのようにいかない

演技の方が簡単だった

舞台では、つまずくことなんて絶対になかったのだ



私にとって舞台に立つのは救いであり、解放だ

舞台で語っていると

一日じゅう頭からふり払うことのできなかった

思考内容がすっかり出て行ってくれる気がした


人の生についての奇怪な観察所見も

脅迫的に私を悩ませていたおかしな疑問も

すんなりと私の意識を離れ

誰かほかの人の頭に住みかを移す


頭の中の考えを声に出して発音してしまうことで

私はようやく意識を切り替えて

別のことを考えられるようになったのだ