ランドリートの都は、主に三区域に分けられる。ボーグボーデン港を中心とした旧市街、真中より西の官邸や警備団本部などの施設が密集する新市街、それ以外は総じて外街と呼ぶ。
酒場ナーマ・アテネゥは外街に属する場所にあり、入り口は狭いが店内は地下とは思えない程広い。元々この都の地下にあった遺跡群の一部を改築して利用したのだという。
壁付近は二層に区切られ、上はテーブル席、下はテーブルが幾つかとカウンター席。中央は奇妙な空隙が開いている。

カウンターに近づいてみると、そこにはオリオールの姿が。カウンター内の女性に何やら頼み事をして、私を紹介した上で入れ違いに出て行った。女性は女将のフランエリエと名乗った。

軽い食事の後、適当に情報収集してみる。
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聖職者の話。
カンカ寺院の大鐘楼は日に二回、決まった時間に人の手で鳴らしているが、最近、それ以外の時間に独りでに鳴るという。

給仕の女の子の話。
都心大路の方で、最近ヘンな技法を使うバカっぽい娘が、色々騒ぎを起こしているらしい。

盗賊風の男の話。
『幻翼』という、アラセマ常駐軍の輸送団を専門に狙い、荷を根こそぎ奪っていく怪盗がいた。二年前のでかいヤマを最後に行方不明になったという話だったが、最近復活したという噂があり、大騒ぎになっている。

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気が付くと、カウンターのランプの炎が赤ら碧に変化している。夜明けが近いことを示しているそうなので、完全に碧に変わる前に宿に帰ることにした。
ランドリートの都の南縁に広がる巨大な港、ボーグボーデン。
東西南の三大陸に囲まれた芯海に突如『出現』したフローリア諸島に、アラセマ皇国は船舶の中継地としての機能を求めた。島の開発当初から工事に着手された港は、当初余りに巨大に見えたが、低い税率と停泊料のお陰か、今では飽和状態に近い。
その為、ここは大陸間を渡る船のみを受け入れており、フローリア諸島内の他島への船は、島の反対側にある港町ラースナウアで捜す必要がある。
人が集まる場所なら噂話程度でも何か聞けるかもしれない。取り敢えず情報収集してみることにした。

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交易船の前で佇む船乗りが一人。
話し掛けてみると、その船は出港予定日を過ぎているのに、ウリエ船長がチンピラとの喧嘩で捕まり、牢屋で反省中との事。

……仲間が居た(苦笑)。私はオリオールのお陰で事無きを得たが、コネが無い一般人は大変だろう。御愁傷様、としか言いようが無い。

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港を歩いていると、大型の交易船のすぐ傍で釣糸を垂らす冒険者の姿が。
何でこんな場所で? と聞いてみると、本当によく釣れるのだと言う。話している間にも獲物が掛かる程ならかなり良い釣り場なのだろう。

そういえば、商店でフフィッシングツールが販売されていた。たまには釣りも良いかもしれない。

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魚を運んでいる女に話を聞いた。
何でも、アラセマ常駐軍の方で何か大きな問題が起きてるんじゃないかって噂があるらしい。最近市場に出入りする軍の人間が増えて、何かを探している様子だと言う。

興味深い話ではある。
そういえば、オリオールは軍の人間を警戒していたが……。
ランドリートの都の中心地に、中央に大きな噴水を持つ石畳の広場がある。
ガーナ・ニレン中央広場。ランドリートの都は酷く入り組んでいるが、街路のほぼ全てがここに続いている為、『迷った時はガーナ・ニレン中央広場を目指せ』と、地図にも書いてあったりする。
街の中心なら賑わっているかと思いきや、騒がしさとは無縁な、穏やかな空気が漂っている。

情報収集に来ていたらしい冒険者が、軍の旅団への加入を勧めてきた。
所属している旅団の成績が良いと、軍から色々と貰えるらしい。
そういえば、ケンカで捕まった時以来、一度も軍駐屯地に足を運んでいない。冒険者にも色々と便宜を図っているらしいから、この機に行ってみるのも悪くない。

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改めて訪れてみる。
長椅子の一つに座って辺りをぼんやり眺めていたが、ふと、花売りの少女が目に留まる。
暫く経っても殆ど減らない花籠から、風に煽られた拍子に花が一輪こぼれ、転がってきた。くれるというので、そのまま「小さな花」を持ち帰る。

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快活そうな婦人より、子供が北の洞窟で小鬼達の群れを見かけたという話を聞いた。
都から一日と掛からないので、訓練がてら小鬼を狩るのも良さそうだ。

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行商人は、先住民族「キヴェンティ」の話をしてくれた。
アラセマ皇国からの移民とは明らかに価値観が異なり、ランドリート以外の島では移民とキヴェンティとの間で争いが絶えないとか。
しかも、北東に位置するコルトレカン島の方で、キヴェンティ達の動きが活発になってるらしい。

……何やら物騒な話だが……。
仕事のクチには困らないかもしれない。
面倒事に巻き込まれなければ良いが……。