小説 第1話「ふんわり、はじめまして」
春の午後、まだ少し制服のブレザーに慣れない新入生たちが、校舎を行き交う。入学式から数日。部活動紹介も終わり、部室棟にはいろんな部の見学者が訪れていた。写真部の部室にも、何人かの1年生が訪れていたが、来てはすぐに去っていく。一ノ瀬みゆは、カメラを片手に窓際に座りながら、誰もいない部室をぼんやりと眺めていた。「ま、写真部なんてこんなもんか~」小さくため息をついたそのとき、部室の扉が”こんこん”と控えめにノックされた。「…はい、どうぞ」ドアがゆっくり開く。現れたのは、柔らかな金髪ショートに、真っ白なブラウスとスカートを身にまとった、ひときわ小柄な女の子だった。「えっと…こんにちわ。写真部、まだ見学できますか?」「もちろん。今ちょうど空いてるよ」みゆは立ち上がり、柔らかく微笑む。女の子はぺこりと頭を下げてから、そっと部室に足を踏み入れた。「わたし、星野あかりって言います。写真、あんまり詳しくないんですけど…好きなんです…」「うん、それで十分。私も最初は”なんとなく好き”から始めたから」そう言ってみゆは、カメラをあかりに渡す。「これ、触ってみる?撮ってみたいって思ったら、それがきっかけだよ」あかりはカメラを両手で大事そうに受け取り、少し照れくさそうに窓の外を向けた。シャッター音が、小さく響く。「撮れた…。けど、なんかうまく撮れたのかよくわかんないです」「ううん、いいと思うよ。なにげない校舎の風景だけど、夕日のオレンジの色使いとか、別れの挨拶を交わしてる生徒とか、いろいろと物語が見えててわたしは好きだよ」「そうなんですか」「うん」「シャッターボタン押したとき、なぜかわからないけど、今撮らなきゃっと思ったの」「それ、すごくいい感覚だよ」その日から、あかりは少しずつ写真部に顔を出すようになった。新しい光が差し込んできたようなーーそんな始まりだった。