彼岸と此岸の、狭間にある…
三途の川の、ほとりに…
薬師如来と千手観音が、経営する…
喫茶店が、ある。
喫茶店な理由は、誰もが馴染みがあるからで…
それ以外の理由は、無い。
「無いよりは、あった方が良いだろう。」
その考えで、存在している。
この喫茶店には、特別な常連がおり…
名を「哲人てつじん」と言う。
引っ越し好きで、転々としていたが…
ある時、郊外の安アパートに引っ越し…
住み続けて、住み続けて…
いつの間にか、仏の喫茶店の存在に気がつき…
そして、常連となっている。
なぜか、困り果てた様子の人間が飛び込んでくる場所で…
初めは様子を見ていただけの、哲人が…
「それにつけても、奇妙なことが多いですね。」と…
「あなた方はまるで、神様か仏様のようですね。」と…
「従業員」に話しかけたら、神では無い方ですと…
返事を、されたので…
彼らが仏だと、知っている。
そして「あなたも、似たようなものですよ。」と、言われ…
「よく分からないですが、では参加して良いですか?」と、返事をし…
以降は、喫茶店に飛び込んでくる…
「困り果てた客」に…
哲人なりのアドバイスを、するようになり…
それが、定着している。
あくまでも、客なので…
多くの場合は、飲食をして…
代金を、普通に払っていく…
ただの、常連客だ。
ひたすら本を読んでいることも、多く…
仏に話しかけないことも、多い。
仏もまた、その様子を…
どこか嬉しげに、眺めていたりする。
「面白き こともなき世を 面白く」
その…
おそらくは、一番平穏な方法であろう…
「一人静かな趣味時間」の、風景を…
楽しんでいるかのようでもある。
その2:
「我ながら、仕事ができる方だと思うんです。」
「はあ。」
今日は、哲人の前に…
キャリアウーマン風の女性が、座っている。
実際、キャリアウーマンだということが…
たった今、分かったところだ。
哲人が毎回、不思議に思うことに…
「相談客」には、初対面の哲人を前に…
赤裸々な相談を、することを…
「全く、不思議に思っていない。」が、ある。
以前、仏に聞いたところでは…
相談したがっていたから、ここに引き寄せられたのだと…
だから、当たり前だと…
哲人的には、答えになっていないが…
「仏が言うなら、そうなんだろう。」
そう、納得している。
だが…
不思議は、不思議だ。
特に、今回のような…
誰にも弱みを、見せたくないと…
気を張っていそうな、キャリアウーマンなどが来ると…
「やはり、不思議だな。」と、思わずにいられない。
それでも、口が重かったのは…
やはり、個性が出るのだろう。
不思議には、思っていなくとも…
「問題とは、自分で解決するもの。」
そういう思い込みが、強いのだろう。
女性は一口、コーヒーを飲むと…
とても嫌そうに、言葉を続けた。
「人に教えるのも、得意だと思うんです。
段取り良く、ミスしにくく教えるのが…
私は、得意だと思うんです。」
「はあ。」
「…なので、イライラしてしまうんです。」
「何にですか?」
女性の眉間に、深いしわが出来た。
そして、ため息をつくように言った。
「後輩の、凡ミスにです。」
「あー…」
「仕事に慣れていないのは、分かっています。
ですからノーミスで仕上げるべきとは、思っていません。
でも…
見直せば、すぐに分かるミスを…
どうして見逃したまま、作業を続けてしまうのかと…
そう思うと、怒りたくて仕方がなくなるんです。」
「まあ…
先輩に怒られて、良くなる後輩は少ないですからね。」
哲人の言葉に、女性はキュッと口を結び…
絞り出すように、つぶやいた。
「だから、分かってはいるんです…
でも指摘だけでは、全然直らなくて…
3度めには、口調がキツくなってしまって…
後輩が萎縮しているのも、分かるんです…」
「ですよね。」
「…仕事って、トータルだと思うんです。
後輩がいる状態で、全体でパフォーマンスが高くなければ…
それは、上の責任だと思うんです。」
「はあ。」
だから…と、女性は続けた。
「私は実は、仕事が出来ないのかもしれないと…
このまま、職場に居続けて良いのかと…
悩んでいるんです。」
「すごくマトモな、正しい悩みですね。」
「え?」
「『それならば、そうだろう』の、見本みたいな悩みです。
『そこで悩まないなら、逆に問題だろう』な、悩みです。」
「そ、そうなんですか?」
「そうです。
それで、ですね…
あなたは、部下や後輩がいるのが…
きっと、苦手なタイプなんですよ。」
「え?」
「俺から見ると、良くいるタイプなんです。
いわゆる『職人気質』って、タイプなんです。」
「『職人気質』…ですか?
あの…
手仕事は、苦手なんです。
オフィスワークや営業が、得意なだけで…」
「ああ、違うんです。
あくまでも、タイプのことです。
目的があって、努力する気もあって…
成し遂げることに、喜びを感じるタイプって…
一人でコツコツ頑張るのが、好きなんですよ。
そういう意味で、職人気質なんです。」
「!!
か、考えたことも、ありませんでした!」
「現代病ですからね。
多くの人が、同じ悩みで…
きっと、困っているでしょう。」
「そうなんですか…
職人気質…」
「きっとね、距離感が難しいんです。
後輩の範囲は、後輩の責任。
キッチリ教えていて、何度も指摘しているなら…
『もう、手は離した』で、良いと思いますよ?
自分の仕事を、気持ちよく頑張って…
もし、余裕があるなら…
『無関係だけど、大丈夫?』と…
軽く、確認したらどうですか?」
「!!」
「以前は、自分がやっていた仕事なんでしょう。
だから、まだ…
『範囲のリセット』が、出来ていないんですよ。」
「お、おっしゃる通りです…
考えてみれば、まさにそんな感じです!」
「ですよね?
お仕事なんて、ストレスが溜まるんです。
こまめにリセット癖を、つけないと…
ストレスの元が、増える一方なんです。
ぜひ『後輩の方を見ない』を…
試してみてください。」
「ええっ⁈
で、でも…
無視しているとか、嫌っているとか…
それこそ後輩が、悩み出しませんか?」
「うん、うん。
優しいですね。
その問題は、キッチリ挨拶をしていれば…
後輩の方は、気にしないと思いますよ?」
「あ…」
「最初と最後。
『おはよう』と『また明日』。
これだけで、安心すると思いますよ。」
「そ、そうですね…」
「さらに、残業しそうなら…
『大丈夫?』と、一言…
言ってあげれば、完璧です。」
「…それって、一緒に残業しろと?」
「違いますって!
『困ってます』と、言ってきたら…
段取りを、また…
教えてあげれば、良いだけです。
『じゃあ、頑張って!』と…
帰っちゃえば、良いんです。」
「そ、それ…
ありなんですか…」
「むしろ、なぜ無いんですか?
尻拭いをさせたわけじゃ、無いんでしょ?」
「あ、はい。」
「じゃあ、大丈夫ですって!」
ほう…
と、息を吐いた女性は…
もう、眉間にしわはなく…
むしろ、柔和な顔つきになって…
薄く、微笑んでいる。
そして、二人分のコーヒー代のレシートを持って立ち上がると…
哲人に、深々とお辞儀をして…
「助かりました、ありがとうございました。」
そう言うと…
当たり前のように勘定をして、喫茶店を出て行った。
これが、もう一つの不思議で…
哲人が先に来ているので、一人分のコーヒー代のレシートだったはずなのに…
相談客が帰る頃には、二人分のレシートに代わっていて…
「友人と来て、一緒に帰る。」かのように…
去って行くことだ。
一期一会…かな。
哲人は、ボンヤリとそう考え…
仏に、ご馳走様と言って…
「無料コーヒー」の日を、終えるのだった。
その3:
「こんな世界に、いるはずじゃないんだ!」
「はあ。」
今日の、哲人の目の前にいるのは…
ごく普通の、中年のサラリーマンだ。
だが、まるでヤクザ映画を見てきたばかりの…
いきがりたい盛りの、若者のようだ。
哲人は、そう思ったが…
だが敢えてズラして、こう質問した。
「こんな世界に、いるはずじゃないって…
この喫茶店に、いることですか?」
「ああっ⁈
そんなんじゃねえよ!
喫茶店にいるのなんて、普通だろうが!!」
やはり「相談者」は…
日常の延長線上で、この「仏が経営する喫茶店」に、来ているようだ。
では、同じように…
「個々人の悩み事」に、応じて…
別の形の「場」が…
用意されているのかもしれない。
だがそれは、あくまでも…
「健全な日常への復帰」のために、違いない。
哲人の、これまでの人生で…
「日常と違う別の場所」とは、この喫茶店しか経験がなく…
さらに「喫茶店で、他人の相談に乗る」が、異常なだけで…
哲人が勝手に仏と定めている、従業員たちは…
「私たちは、神ではないです」としか、答えていない。
俺もまた、少し…
世界に、誤解があるのかもな。
そう哲人が、逡巡していると…
目の前のサラリーマンは、哲人の沈黙を曲解したらしく…
声を荒げた。
「お前、俺をバカにしているだろ⁈
俺を低学歴だと、バカにしているだろ!
いいか、よく聞け。
学歴なんてのは、知能のほんの一部の証明だ!
俺は、天才なんだ。
天才クラブの、メンバーなんだ!」
「バカにはしていません。
誤解させたなら、申し訳ありません。
恥ずかしながら、この喫茶店に…
近所に住みながら、長年気がつかなかったので…
あなたもそうかと、思ったんです。」
「え⁈
あ…
そ、そうなのか。
す、すまん…
そういえば、そうだな…
この喫茶店は、来たことがなかった。
わ、分かりにくい場所に、あるものな!
そういうことなら、悪かった!」
「いえ、いえ。
私こそ、早とちりをしました。
なるほど「天才クラブ」ですか。
それは、すごいクラブに所属しているんですね。」
「そ、そうなんだ!
…あ、いや…
そのはずなんだけど…
そこで、働いてもいるはずなんだけど…
気がつくと、サラリーマンで…
上司や顧客に、怒られてて…
それがまた、酷くバカにしたようで…
腹が立って、仕方がないんだ…」
「ああ、なるほど…」
「…なあ。
俺は、おかしいのかな…」
「少なくとも、お話しをしている感じでは…
普通の方だと、私は思います。」
「そ、そうか…」
「多分ですけど…
少なくとも、サラリーマンであるときに…
天才クラブの時の、言動をするので…
そのギャップが、周囲には奇妙なので…
それで、バカにされたような気持ちになるのでは?」
「!!」
「なんであれ、周囲はサラリーマンな人と話しているので…
天才クラブのメンバーとは、話していないので…
それこそ『自分をバカにしているのかな?』と…
先に、ムッとしたのかもしれません。」
「か、考えてもいなかった…
た、確かに…
『仕事で話している人間が、偉そう』だったら…
そ、そりゃあ…
腹が、立つよな!」
「そうです、そうです。
分かっていただけたなら、良かったです。
それで、ですね…
あなたは今、サラリーマンです。
ここにいて、大丈夫ですか?
私と話しをしていて、大丈夫ですか?」
哲人が、そう水を向けると…
サラリーマンは、ハッとして…
顔を赤くしたり、青くしたりしながら…
「初対面の方に失礼をして、申し訳ありませんでした」と、謝罪して…
「コーヒー代は、支払わせてください」と、申し出て…
慌てて会計をして、出て行った。
本来は、大通り沿いにあり…
見落とすはずがない、大きな喫茶店を出て…
その先の道は、どこに繋がっているのだろうと…
サラリーマンの行く先に、思いを馳せながら…
仏に「ご馳走様でした」と、言って…
ついでに、公園でも散歩しようと…
哲人は、仏の喫茶店を後にした。
その4:
「神様を、お守りしているんです。」
「はあ。」
今日の哲人の前に、座っているのは…
まだ学生に見える、若い女性だ。
神学校にでも、通っているというのだろうか?
仏教系なら、仏様だろうし…
それにしても「守る」とは?
「守っていただいている」なら、分かるんだが…
そう哲人が、首を捻っていると…
「哲人が理解していない」と察した女性が、説明を始めた。
「神様は、お一人なんです。」
「ああ…
そういう考え方の宗教は、多いですね。」
「多いではなく、お一人なんです。」
「そうなんですか。」
「なのに、色んな宗教施設で…
バラバラな対応をされて、困っているんです。」
「神様が、ですか?」
「神様が、です。」
「それは、面白いですね。」
哲人がうっかり、口を滑らせると…
女性はキッと、哲人を睨んで…
「こういう人がいるから…」と呟いてから、言った。
「面白いわけが、ありません!
神様は、困っていらっしゃるんです!
そして、毎日私に…
『どうにかして欲しい』と、お願いにいらっしゃるんです!」
「毎日、神様が…
あなたを訪ねに、来ているんですか?」
「そうです!
お姿は、見えませんが…
お声は、ハッキリと聞こえます!」
「具体的に、神様はなんと仰られているんですか?」
「え?
えと…
あの…
とても、断片的なんですが…
『あれは、困った』とか…
『やめて欲しいんだが』とか…
そういう、困ってお願いされている感じです。」
「それはとても、人間らしい…
具体的な、困りかたですね。」
「そうです!
そう思いますよね?
なので、私は…
宗教施設で、神様が困ってらっしゃると…
お伝えしているのに、邪険にされるんです!」
「それは、どなたにですか?」
「え?」
「宗教施設には、色んな人が行きます。
私だって、行きます。
感じの良い場所が、多いので…
私でも、行きます。
そこで、あなたに会ったら…
あなたに、今の話しをされたら…
『何を、どうしろと言うのですか?』と…
お聞きするしか、無いです。
どなたに、お話しされているのですか?」
「え、えと…
大体は、木々の手入れをしている方です。」
「植木屋さんですか?
植木屋さんの仕事は、敷地内の木の剪定で…
他は、仕事の範疇ではないですが。」
「え?
だ、だって…
『庭師』さんですよね⁈」
「庭師、ですか…
随分と、古風な言い方です。
敷地内の植物全般の管理をする業者は、いるでしょうが…
多くは、危険な枝を切り落としたり…
伸びすぎた枝を、整えたりの…
もっぱら、木の管理をする人です。
宗教施設自体には、関係ないですよ。」
「そ、そうなんですか⁈」
「そうです。
また、宗教施設内でも…
建物の修理は、外の業者がしていますし…
専門の清掃業者も、入っているかもです。
ここは、関係者では無いので…
私には、分かりませんけれど。
大きな建物なら、直接関係者だけでは…
とても管理できる規模では、無いですから。」
「そ、そんな…
では私は、どうすれば…」
「一つ、私の考えを…
話しても、良いですか?」
「あ、はい…
どうぞ。」
「私は、神仏のシステムは分かりません。
なので『一つの存在である』か否かも、分かりません。
ですが、あなたの仰る通りだとすると…
『あまねく存在するお方』だと、思うんです。」
「あ、はい!
それは、そうだと思っています。」
「そうですか。
では…
常に、あまねく存在するお方が…
『宗教施設のことで、困っている』は…
少し、おかしくはないでしょうか。」
「え…?」
「私の知っている範囲では、宗教施設とは…
人間のために、存在しています。」
「え、え?」
「人間は、すぐに困りだすので…
困りながら、日常を過ごすので…
自力で解決できない、困りごとを…
『誰かに、助けて欲しい』と、願い…
そのお願い先として、宗教施設を建設し…
半分は、自助努力で…
もう半分は、努力ではどうしようもないことを…
『神様、お助けください』と…
お願いするために、あると…
私は、認識しているんです。」
「え…
!!
ま、まさか⁈
私…
神様ではなく…
困っている人間の、愚痴を…
聞いているって、ことですか⁈」
「そこは、分かりませんが…
でも、面白いですね。」
「な、何が面白いんですか!」
「あ、すみません。
私の、口癖なので。
あなたは、全く同じ事象を…
相手が神様なら、助けなければと思い…
相手が人間なら、愚痴られたと…
そう、変換するのですね。
そこを、面白いと感じたので…
つい、言ってしまいました。」
「だ、だって!
当たり前じゃ、ないですか!
人間なんて、無数にいるんですよ⁈
そんな、無数にいる…
どこにでもいる存在に、愚痴られたら…
堪ったものじゃ、無いです!」
「本当に、そうですね。
神様も、そうかもしれないですね。」
「え?」
「結果的に、あなたは…
神様の愚痴を、聞いたのかもしれませんね。
『てんで勝手に、愚痴られたって…
何を、どうしろと言うんだ?』ってね。」
「ほ、本当ですね。」
「ですよね。
人間の困りごとの多くは、人間同士の問題なので…
いわば、正反対の願望が存在するので…
『あちらを立てれば、こちらが立たず』な…
矛盾する願いが、されまくって…
とてもでは、ないですが…
願いを聞くことなんか、出来ないでしょうね。」
「わあ…
本当ですね…
でも、それでは…
神様はずっと、お困りになり続けるのでしょうか…」
「これまた、私の考えですが…
というか、古くから言われていることなんですが…
『足るを知る』を、人間全てが理解したとき…
人間同士の問題は、消えると思っています。」
「『足るを知る』…ですか?」
「はい、そうです。
例えば、日本国内なら…
全ての人が、生活保護世帯と同じレベルの生活に…
切り替えるだけで、貧富の差は消失します。」
「せ、生活保護レベルですか⁈
そんな、無茶な!」
「なぜ、無茶なんですか?」
「だ、だって…
満足出来る生活は、無理になるじゃないですか…」
「誰もが憧れる生活は、無理ですが…
文化的な生活は、保証されているんですよ?
衣食住に、困らない上に…
学びや遊びの機会も、保証されているんですよ?」
「う…」
「こう言っては、なんですが…
私は、ほぼ生活保護レベルの生活をしています。」
「え?
だ、だって…
喫茶に、来てますよ⁈」
「生活保護を受けている人を、どんな目で見ているんですか…
質素倹約に暮らす人よりは、はるかに豊かな生活ですよ?
修行のために、暮らしているのではなく…
人間らしい暮らしを、保証するものなので…
喫茶店くらい、来ますよ!」
「それって、恵まれすぎでは?」
「…
あのー…
神様は、信じてらっしゃるんですよね?」
「あ、はい。」
「金銭に、困窮した人が…
普通の暮らしになるのは、良いことでは?」
「あ、はい。」
「それは、誰かとは…
矛盾しない願いでは?」
「そ、そうですけど…」
「『働かざる者食うべからず』…ですか?」
「そんな感じです。」
「失礼ですが、あなたは…
現在、お仕事をなさってるんですか?」
「え?
いえ…
今は、学生なので…
アルバイトも、していませんが。」
「では、失礼ですが…
生活保護を受けている人と、同じでは?」
「!!」
「あなたは、現在…
『家族に養われている』状態です。
生活保護世帯は、国に養われている状態です。
では、同じでは?」
「か、考えてもいませんでした!」
「そうですか。
では、これからは…
そう、考えたらどうですか?
働くように、なっても…
生活保護レベルの収入があれば、どうにかなると…
そう考えては、いかがですか。」
「ええっ⁈
だ、大学まで行っているのに…
そんな低収入で、我慢するんですか⁈」
「…
神様を、信じているのでは?」
「あ、はい。」
「では、どうにかなるのでは?」
「う…」
「少し、意地悪を言いすぎましたね。
人間には、個性があるので…
『我慢出来ないレベル』は、あります。
『慣れていないので、怖い』とかね。
だから、現在…
世界は、良い感じには整っていないんです。
こればかりは、神様でも…
どうしようも、ないでしょう。」
「…」
「ダイエットって、したことがありますか?」
「え?
い、いえ…」
「そうですか。
スリムな方なので…
食べ過ぎは、しないんですかね。」
「あ、はい!
もう少し、食べたくても…
スタイルは、守りたいので。
甘いものも、我慢しています!」
「ふふ…
では、そのうち…
違うことも、整うかもです。」
「え?」
「失礼ですが、私から見ると…
あなたは、全体的には…
バランスが良くないように、見えるんです。
ですが、良くなろうと思い…
その努力も、している人なので…
後は、地続きで…
自分なりに、気づきを増やしていくことで…
バランスが、整っていくでしょう。
神様の、力ではなく…
あなた自身の、力でね。」
「あ…」
「これは、推測なんですが…
日常で、何か…
上手く行ってなくて、困ってたのではないですか?
そして、どうして良いか分からなくて…
気がついたら『神様を守る』ことを、始めたのではないですか?」
「!!」
「どうやら、当たりですね。
今も…
同じ問題を、抱えているんですか?」
「い、いえ!
そう言えば…
去年、私の問題は解決しています。
…
…
やだ…
私、もしかしたら…
やり場のない気持ちを、神様のせいにしていたのかも…」
「あなたは、聡明な人ですね!
真っ直ぐに、問題に取り組むので…
気がつけば、健やかになりやすいんですね。」
「は、恥ずかしい…」
「とんでもないです。
立派です。
人間は、成長すると…
綺麗事に、逃げがちです。
自らの見落としや、誤解を…
認めることを、嫌がります。
その点、あなたは…
素直で、真っ直ぐです。
それは、美徳だと…
私は、思います。」
「あ、ありがとうございます…
でも…
やっぱり、恥ずかしい…」
「気持ちは、分かります。
私も、そうなりますし。」
「あ、あなたもですか?
…
…
あ、あれ?
え、えと…
あなたって…
だ、誰です…?」
「ふふ…
面白いですね。
私が、席に座っていたら…
あなたが、向かいの席に座ったんですよ?
待ち合わせでも、していたように。」
「ご、ご、ご…
ごめんなさい!
わ、私ったら…
は、恥ずかしい!!」
そう言うと、女性はガバッと立ち上がり…
ペコペコと、頭を下げると…
レシートを、引っ掴むようにして…
二杯分のコーヒーを支払い、飛び出して行った。
相当、恥ずかしかったんだろう。
可愛らしいな…
そう思い、微笑んだまま哲人は…
哲人が仏と思っている「従業員」に、ごちそうさまと言い…
近くの神社でも、お参りして帰ろうと…
「仏の喫茶店」を、後にした。
その5:
「俺は、国外逃亡中なんだ。」
「はあ。」
今日の哲人の、目の前にいるのは…
どこからどう見ても、日本人に見える男だ。
だが、東アジア人なら見分けも難しい。
日本語が流暢な、東アジア人かもしれない。
なので、哲人は…
「どこの国の方ですか?」と、聞いた。
すると男は、ムッとして言った。
「日本人だ、当たり前だろ。」
「私の、認識では…
ここも、日本なはずなんですが。」
「分かってるよ!
でも、国外逃亡中なんだ。
そうとしか、言えないんだ。」
「分かりませんが、分かりました。
それで、なんですか?」
「だから…
これからどうしたら良いか、分からないんだ!」
「もし『認知的に、国外逃亡中な気分』ということなら…
認知を変更して『無事に帰国後』としたら、いかがですか?」
「そんなに簡単じゃ、無い!
帰国しているなら、俺はお終いなんだ…」
「何か、犯罪を起こしたんですか?」
「ちが…!
いや、そうだな…
言ってみれば、そんな感じだ。」
「では、犯罪を犯したとして助言しますと…
『国内で潜伏中だった』と、同じなので…
その犯罪の時効まで、年数が経っているのなら…
もう、ただの一般人ですよ?」
「え…?」
「というか、ですね…
どこかに、潜伏していたんですか?
普通に暮らしていたのでは、無いんですか?」
「あ、ああ…
正確には、良くない仕事を辞めて…
ずっと、引きこもっていた。」
「警察とかは、来たんですか?」
「そういうんじゃ、無いし…
実際、来てもいない。」
「では、本当に…
普通に、一般人ですよ?」
「でも、俺の被害者が…
『俺を加害者と思う』な、被害者がいるんだ。」
「なるほど…
弁護士でも、来ましたか?」
「い、いや…
そういうことは、無かった。」
「じゃあ、まず大丈夫では?
『同じ轍を踏まない』と、気をつければ…
問題は、起きないのでは?」
「そ、そうだろうか…」
「もちろん、100%大丈夫とは…
私には、言えませんが…
私もそれなりに『しくじり人生』なので…
でも、永遠には反省していられないので…
自分で自分を、許した時に…
『それは、ダメだろ?』と思うことは、避けて…
普通に、暮らしています。
なので、私の経験から…
『同じようにしては?』と…
言うことしか、できません。」
「…」
「日本にいて、引きこもりで…
うつ病を、発症したのでは?
失礼ですが、国内にいて…
『国外逃亡中』という、認識は…
相当に、心を病んでいますよ。」
「!」
「人間の認知は、柔らかいです。
たった一人で、あれこれ考えれば…
制限の無い、認知の迷宮にだって陥ります。
引きこもってから、外出は…
今日が、初めてですか?」
哲人が、そう聞くと…
男は、弾かれたように立ち上がって言った。
「お、俺…
どうやって、ここに⁈」
「私が、知るわけがないです。
ですが、ああ…
ベランダ用のサンダルみたいのを、履いていますね?
着ているものも、失礼ですが…
『室内着』そのものに見えます。
自分では、出かける気が無かったのかもしれませんね。」
「!!
や、やべ…!
俺、現金…
あ…
いつもネットショッピングに使っている、カードだ…
ポケットに、入っているなんて…
よ、良かった…じゃない!
て、店員さん!
ここって、カードは使えますか⁈」
慌てる男に、仏な従業員は…
微笑みながら「使えます」と、答え…
カードで支払いを、済ませながら…
男の住まいであろう地域は、どちらの方向かと…
聞く男は、まさに普通の一般人に見えた。
なんとなく心配になった哲人が、続いて喫茶店を出ると…
確かな足取りで、帰って行った。
どうやら、喫茶店のある場所は…
男が知っている、場所だったようだ。
昔から。
ずっと。
その6:
「私は死んで、天国にいるはずなんです。」
「はあ。」
目の前の女性は、初老ではあるが…
肌の色艶も良く、生き生きとしている。
だが、敢えて生気を抑えているような…
表情を抑えているような、不自然さがある。
「思い込みが強いタイプかもしれないな…」
そう哲人が、考えていると…
女性は、疑われていると思ったのか…
ムッとしたように、続けた。
「酷い高熱が、出たんです!
身体中が、バラバラになるような…
酷い痛みも、あったんです!
息が苦しくて、溺れているような…
死にそうな思いを、ずっとしてたんです!」
「それで、良くなったんですよね?」
「ええ、まあ…」と…
女性は少し、困った表情になり…
でも、と続けた。
「治ったは、治ったんですけど…
全然、世界が違うんです!
だからここは、天国に違いなくて…
それで、死んだ母に会いたいんです!」
「まず、ですね…
私にとっては、地続きの現実世界で…
これといって、故人とは会ったことがないのですが…
何を根拠に、この世界を天国と思い…
亡くなったお母様がいると、思うのですか?」
「せ、説明なんか、出来ないです!
あなただから、話しているのに…
実家はもう、無いんです。
お墓だって、処分後なんです。
母は、母は…
一体、どこにいるのでしょう…」
「それこそ、天国にいらっしゃるのでは?
家や墓に、い続けるなら…
世間では『迷っている幽霊』と、言われていますし。」
「それは、生前の世界で!」
「いや、ですから…
確かに私も、不思議の経験者ですが…
先ほども、言った通り…
生者には、変わらず会えますし…
死者には、変わらず会えていません。
なんであれ、違うのでは?」
「そ、そんな…」
「ご家族が、もういらっしゃらないんですか?」
「え?
いえ…
夫が、いますけど…」
「なんだ、そうなんですか!
ですが、それでは…
ご主人と一緒に、死んだつもりなんですか?」
「う…!
ちょ、ちょっと…
そこは、分からないです…」
「おかしなことを、仰いますね。
あなたは、恐らくは病気で苦しんで…
そして治ったけれど、感覚が違くて…
それで、ご主人はいらっしゃる。
では…
既存の日常を続けるのが、普通では?
なぜ亡くなったお母様を、探すんです?」
「…
夫とは、上手くいってないんです…」
「それでは、ますます…
あなたは、すぐにでも家に帰って…
あなたの感覚異常を、説明して…
『一緒にい続ける、努力がしたい』と…
申し出るべきでは?」
「い、嫌です…」
「嫌って…
あの、ですね。
『夫婦げんかは、犬も喰わない』んです。
亡くなったお母様を、見つけたら…
味方でも、してもらうつもりだったんですか?」
「!!」
「そういうことですか…
ダメですよ、そんなことで…
静かに眠る故人を、利用しては。」
「う…」
「人間を利用することは、いけないことです。
それは、生きていても死んでいても同じです。
モラルを失えば、道に迷います。
あなたは、絶賛…
迷子中に、見えますよ?」
「そ、そんなこと無いです!」
「本当ですか?
あなたは…
私を、ご存知なんですか?
なぜ、私の座っていた席の向かいに…
当然のように、座ったんですか?」
「え?
…ええっ⁈
わ、わわっ!!」
「充分に、あなたはおかしい状態です。
ぜひご主人に、今日のことを話して…
相談に、乗ってもらうといいです。」
「ビ、ビックリした…
ご、ごめんなさい!
おかしい感じとは、自分でも思っていたんですが…
まさか、ここまでとは思わなくて…
本当に、ごめんなさい!」
「分かってくだされば、良いんです。
帰り道は、分かりますか?
気をつけて帰ってください。」
哲人の、声かけに…
「この辺は、庭みたいなものです」と、女性は言い…
恥ずかしげに、二人分の会計を済ませると…
「また来ます」と、仏な従業員に言って…
あたふたと、帰って行った。
「そういうパターンも、あるのか」と…
新たな展開を、面白がりながら…
哲人もまた、喫茶店を後にした。
その7:
「よく私の呼びかけに、応じてくれました。」
「はあ。」
さて…
このパターンは、初めてだな。
そう哲人が、面白がっていると…
男は、哲人が興味を示したと思ったらしく…
身を乗り出して、話し始めた。
「同志は、募り続けていますが…
迂闊には、誘わないで下さい。
パニックになるような、人だと…
むざむざと敵に、やられてしまいますからね。」
「すみませんが、敵とは?」
「あ、口が滑りました。
敵とは、決まっていないですね。
『電波を受信した』だけですから…
『宇宙人と交信した』だけですから。」
「あー…」
色眼鏡とは、承知しているが…
哲人は、宇宙人と幽霊は「いて欲しい人の願望」と判別している。
なので、どう対処したものかと…
珍しく、困った。
「どう、対処しましょうかね?」
「さあ…
ちょっと、思い浮かびません。」
「困っているのは、間違いないんです。
恐らくは、難民として地球に来たいか…
それが叶わない時は、侵略することも視野に入っているかと。」
「それはまた、どうしてそう思うんですか?」
「え?」
「あなたが受信したのは『困っているようだ』な、感じだけですよね。」
「え?
あ、そうです。」
「じゃあ…
何も、分からないですよ?」
「え?」
「『宇宙人がいる』まで、譲歩するとして…
宇宙人間の交信が、流れてきただけかもしれません。」
「う…
で、でも…
ずっと交信は、続いているんですよ?」
「発煙筒の仕組みは、ご存知ですか?」
「え?」
「発煙筒は、緊急時に…
遠方まで、危機を知らせるために用いるんですが…
一回、作動してしまうと…
長く、危機を知らせ続けてしまうんです。」
「た、確かに…
早く発煙が切れては、発見されないかもしれないですからね。」
「宇宙人同士では『既に助けた場所』と、分かっていて…
そのまま発煙筒は、放置したかもしれません。」
「そ、そんな…
迷惑です!!」
「そうですね、迷惑です。
それで、それが本当かは分かりません。」
「あ。」
「さらに、言うと…
宇宙人からの交信とは、限りません。」
「ええっ⁈」
「『電波障害』は、被害も大きいです。
『電子レンジからは、離れている』
そう、用心する人もいるくらいです。
なんであれ、原因は複数考えられて…
必ずしも宇宙人の交信とは、言い切れないんです。」
「…」
「どうしましたか?」
「なんか…
しっくり、来ないです…」
「それはそうでしょう。
なにせ、分からないんですから。」
「僕は…
どうしたら、良いんですかね…」
「こればかりは、私も分かりませんが…
耳鳴りには、いろんな種類があるそうです。
医者に行くのも、一つの手段ですよ?」
「い、医者ですか⁈」
「原因探しに夢中になると、センサー異常も起こしやすいです。
過敏になったため、そう感じるな…
心身のバランス異常の可能性は、あります。」
「そ、そうなのか…
確かに、ちょっと…
イライラすることが、続いたから…
神経が、ささくれ立っていたかも。」
「『自覚あり』なんですね。
では…
どうせ、原因は分からないので…
『可能性があって、治りやすいこと』から…
試すと、良いと思います。」
哲人が、そう言うと…
男は、パッと明るい表情になり…
「ありがとうございました。
お誘いして良かった。」
そう、礼を言うと…
足取りも軽く、二杯分のコーヒー代を支払い…
鼻歌を歌いながら、帰って行った。
「明るい性格とは、自分を救うものだな…」と…
哲人は、しみじみしながら…
「どこで、どう勧誘した気なんだろう?」と…
首を、傾げながら…
「分からない」を、楽しみながら…
仏な喫茶店を、後にした。
その8:
「お守りが、効かないんです。」
「はあ。」
哲人の前に座る、女性は…
いきなり、紙袋を広げたかと思うと…
様々な神社仏閣のお守りを、テーブルに広げ…
深く、ため息を吐いた。
哲人が見ると、お守りの種類も様々で…
「一体、何を願っているのか?」が…
判別が、不可能だった。
哲人が首を傾げるのを、見て…
女性は、説明を始めた。
「外は危ないので、交通安全と…
無病息災と、満貫成就と…
相手がある場合、相手の頭が悪いかもしれないので…
学業のお守りと、ボケ封じと…
後、このお守りは…」
「ああ、結構です。
理解しました。」
「そ、そうですか。
良かった…
助けてください。」
「…
まず…
お守りは、購入が自由なので…
何をどれくらい買っても、問題は無いと考えます。」
「え?
ええ…
それは、そうですよね。」
「ですが、あなたのお守りの購入の仕方が…
私の知っている、一般的な購入目的とズレています。
なので『効きにくい』気持ちにも…
なるのだと、思います。」
「え?
私が、間違っていると言うんですか?
だって…
『交通安全』でしょ?
『ボケ封じ』でしょ?
それと、これは…」
「ええ、ええ。
仰っている意味は、理解しました。
『交通安全』は、私の認識と同じです。
車を運転する場合も、購入したりしますが。」
「ええ、知っています!
道を歩いていても、車を運転していても…
事故が怖いのは、同じですから!」
「ええ…
そこまでは、共通理解なのですが…
特に『ボケ封じ』は…
意味が通じていないので、お守りとしても効かない気がします。」
「え?
なぜですか?」
「『交通安全』のお守りは、別の用途でも購入すると言う意味です。
『外では気をつけて歩いて、事故に巻き込まれないようにしよう。』な、時と…
『車を運転するのだから、事故を起こさないように気をつけよう。』な、時です。
どちらも、自分自身のためのお守りなので…
矛盾も、無いんです。」
「え?
ええ…
そうですね。」
「一方の『ボケ封じ』の、場合は…
お守りを持っている人が、ボケないことを祈願しています。
『ボケ封じのお守りも持っているし、しっかりしよう!』な、感じです。
不特定多数の、誰かを相手に…
『誰であれ、ボケないでください!』と…
祈願するためのお守りでは、無いんです。」
「ええっ?
そ、そうなんですか⁈」
「お守りとは、基本的に…
願掛けする、本人のためのものです。
『範囲はあくまでも、自分自身』な、ものです。」
「そ、そんな…
あ、でも!
『家内安全』って、家の中全部でしょう?」
「それは、まさしくそうですね。
でも、それならば…
家の中に、置いておきませんか?」
「へ?」
「別に、持ち歩いても構わないでしょうが…
『あくまでも効能は、家の中だけ』なのでは?」
「!!
そ、そうかも…」
「まあ、そういうわけで…
お守りの範囲は、わりと限定的だと考えます。
それと、これは推測なのですが…
お守りに頼りすぎて、注意散漫では無いですか?」
「え。」
「神様への願掛けは、大勢の人がしていますが…
自助努力をして、それでも不安で…
『自分も頑張ります、見守っていてください。』と…
それこそ、お守りとして…
無駄に不安にならないために、あると思うんです。」
「…」
「お守りも、なんでもすがれば結構な量です。
いつも、持ち歩いているなら…
普通の荷物を持つ、支障にもなるでしょう。
忘れ物とか、しやすくないですか?」
「!!
お、おっしゃる通りです…
私…
頑張る方向を、間違っていたのかもしれません…」
「当たり前の危機感が、強過ぎる状態なのかもしれないですね。
一度、お守りを全部置いて…
用心して、近所を歩いてみては?
それこそ、車に用心して…
自転車なんかにも、気をつけてね。」
「そ、そうですね…
や、やってみます!
怖いけど…
頑張ってみます!!」
女性は、そう言うと…
慌てて、お守りを紙袋に戻し…
深々と、哲人に礼をして…
コーヒー二杯分の支払いをして、出て行った。
「こういう常識は、皆あるのが面白い。」
哲人は、そう考えながら微笑むと…
仏な従業員に、ご馳走様を言い…
近所の神社のお守りは、何があるのかと…
神社に立ち寄ろうと、喫茶店を出た。