
女性セブン 1991年4月11日発行

リハーサルで見せた意外意外のパフォーマンス

「とにかく、とても明るいんで……びっくりしました。あんな明菜ちゃんを見るのは久しぶりでしたよ」(あるテレビスタッフの話)
3月22日、中森明菜が久しぶりに、テレビに出演した。
この日、出演したのは『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)。テレビ出演そのものは、3月3日の『歌謡びんびんハウス』(テレビ朝日系)以来だが、歌番組となると、昨年12月28日、松田聖子との共演で話題となった『ミュージックステーションスペシャル』以来、なんと3か月ぶりのこと。

久しぶりの歌番組出演ということもあってか、先のスタッフが話すように、テレビで見る明菜は、まさに天真らんまんといった感じだ。司会のタモリや生島ヒロシに紹介されて登場する際には、手を上げ、腰を振るしぐさを見せた。
番組中のトークコーナーでも、この前日までロケに行っていたタイのバンコクの話で大いに盛り上がり、歌のスタンバイに向かうため、話を途中で中断しなくてはならなかったほど。

微笑雑誌 1989年7月29日号
明菜がデビューしてからのベアトップ・スタイルにご注目。ふっくらとしいた肩に、骨が浮きだしてくる経過がありあり。やっぱりやせるならダイエットよりも、〝恋やつれ〞が効果的みたい。第一、そのほうが色っぽいもんネ。
3月25日には新曲『二人静~「天河伝説殺人事件」より』が発売され、久しぶりのドラマ出演となる『中森明菜メロドラマ』(フジテレビ系)も無事ロケを終え、28日にオンエア。そんな仕事の順調さが明菜に笑顔をもたらすのだろうか。
「所属事務所のこととか、いろいろ騒がれましたが、明菜ちゃん自身、ようやく本格的に仕事をやろうという気になったんじゃないですか。もちろん、久しぶりの歌番組のスタジオが楽しい場だったと努めて明るくしようとしていたんだと思いますよ」(ある芸能関係者の話)

テレビに映ったシーンだけでなく、この日の明菜は、舞台裏でもいままでとはかなり違った表情を見せていたという。
明菜は仕事に対しては常に完璧さを要求する。そのため、彼女のリハーサルは常にピリピリとした雰囲気の中で行われてきた。周りのスタッフもミスひとつしないように張りつめた緊張感をもって仕事にあたっていた。

ところがこの日、番組スタッフのミスで、リハーサルの際、伴奏の音程がくるってしまった。
「スタッフがあわてて、〝すいません〟と謝ると、明菜ちゃんがにっこり笑って〝気にしないでください〟といったんです。それだけでも、めったにないことなのに、リハーサルが終わると、照明さんに〝いろいろご迷惑をおかけしてすいません〟って謝ってたんです、そんなこと、これまで一度もなかったので、スタッフはみんなびっくりして、唖然としてましたよ」(前出・スタッフの話)

リハーサルのときには、本番さながらにスモークがたかれるのだが、これを明菜は以前から嫌っていたという。
のどを痛めるというのだ。しかしこの日は、そのスモークにもいっさいクレームをつけなかった。なにかいわれるに違いないと思っていたスタッフは、またあっけにとられた。そんななか、今度は明菜がこんなことを始めた。

リハーサルの間、スタジオのシャッターは閉められている。明菜のリハーサルが終わるとそのシャッターが開けられたのだが、つかつかとそのシャッターの所に歩いていくと、明菜がそこで、シャッターをバーに見たてて、リンボーダンスを始めた。
「ほんとうなら、そんな危険なことは、スタッフが注意してやめさせるはずなんですが、そんな暇もなかったって感じですね。周りの心配をよそに、本人は〝ほ~ら、私にもできた〟なんて、はしゃいじゃって……。ぼくたちは、バンコクで、よっぽどいいことがあったんだろうね、なんて話し合っていたんですよ」(スタジオに居合わせた芸能関係者の話)

ところが、こんなこともあった。明菜が、本番で、テレビでは初めての披露となる、復帰第2弾シングル『水に挿した花』(ワーナーパイオニア)をうたい始めたときのことだ。
明菜は右手にマイク、左手には一輪の花をもっての熱唱だったが、花をもつ手がぶるぶると震えだし、目には涙が浮かび始めたのだ。
テレビの画面でも、その様子は手にとるようにわかった。
「ぼくたちもびっくりしたんですよ、そのときは。ついさっきまであんなにはしゃいでたのに…と思うと、いったいどうしてって、不思議に思いましたよ」(前出・スタッフの話)
じつは、明菜はリハーサルのときも、この曲をうたいながら涙を浮かべていたという。感情移入のなせるワザだったのか。

明菜が、この日、本番で手にした花はピンクのバラ。しかも、どういうわけか、このバラを逆さにして歌をうたい続けていた。
ピンクのバラの花言葉は〝恋の誓い〟。
もしかすると涙の理由はこのあたりにあるかも。
(1989年 「AKINA NAKAMORI BestⅡ 」ワーナー・パイオニア
私は、レコード店でCD を3200円買いました。大切にしまって置きます。)