
ジェイ・ジェイ 1990年 5月
クローズアップ 原田知世 はらだともよ
1967年11月28日生まれ 長崎県出身
1982年 ドラマ「セーラー服と機関銃」でデビュー。以後映画を中心に活躍。
1989年「彼女が水着にきがえたら」に主演。
1990年5月21日 ニューアルバム
「TEARS OF JOY」(フォーライフ)発売。

旅行じゃなくて、ホームステイしたいとずっと思っていたの。『彼女が水着にきがえたら』の撮影後に休みがとれることになったんです。
日本にいてもボーッとしてしまうだけ、でも海外へ行けば、気分転換にもなるし、何か見えるかもしれない。
女のコが海外留学を考えるときって、3つのパターンがあるんだって。
①このままの状態が続いていいのか悩む時
②彼氏にふられた時
③彼氏がいっしょに行こうと言った時。
これってわかる気がするなあ。
自分の新しい面を発見したい、変身願望って誰にでもある。

私の場合、英語にもっと慣れ親しみたかったし、自分のことを誰も知らない未知の場所にも行きたかったし、学生生活にも憧れていたから。それに今しかできないことをやりたいなって。
留学するイギリスって思った。NY は刺激はすごくあるけれど、みんなすごい勢いで歩いてあわただしく味気ない感じ。パワフルな人は、それを呼吸できるんだろうけど、フーッて疲れたときに、それを癒せない街だと思う。
イギリスは、古い歴史や伝統をいい形で残しながら、新しいものもすごく近いとこらにあって、それらがバランスがとれているから好き。

ロンドンから電車で1時間ちょっと、そこが私のステイ先、バース。王室の人も保養にくる、日本の軽井沢みたいなところです。有名な観光地もあるけれど、かわいい町でした。
1か月の短期であっても、いざ留学となると自分でも不安な点もあって、みんなにも大丈夫?やれるの?って言われて、長崎から上京した8年前を思い出しちゃった。女優をやるーって決めて、受け入れ側もみんないい人なのはわかっているけれど、いざ上京したら、なんか寂しかったりしたことをね。

でも、ホストファミリーのオマラさん宅に着くと、すでに私の部屋ができていたんです。パステルの花柄のカーテンに、お揃いのベッドカバー、とってもかわいい部屋で大感激。でも、最初は話せないし、しょうがないからわからなくて。どれくらい入ってどのくらいひいていいか、距離感がつかめなかった。この家から、1時間かけて小さな英語学校に通いました。うちのクラスなんか4人しかいなくて、授業によってはマンツーマンになったりする。日本人は二人だけ。朝は7時に起きて、コーンフレークの朝食。そして、ピーナッツバターを塗ったサンドイッチを作って、りんごや野菜スティックを持って、電車とバスに乗って学校行くの。

9時から授業で、中庭や近くの公園でランチタイム。本当にサンドイッチを売っているサンドイッチマンがいて、チーズとハム、パイナップルをはさんだブラウンブレッドがすごいおいしかった。午後の授業は3時まで。終わったら、友達とお茶して、帰宅して予習復習、日記をつけて、10時には寝ていました。たまにディスコとか行って楽しかった…。
スペイン人の友達とか、ものすごい巻き舌で英語をしゃべるから最初わかんなくて、でもいろんな話したなあ。彼のこと、脱毛の話。腕はしても足はしないとか、あそこの国では全身するとか…(笑)。音楽のカセットを聞いたり、日本から持参したサザンは人気でした。

そんな毎日。事件なんかないから、日記に書くことも同じ(笑)。こんなのんびりとした生活ができるなんて不思議だった。
事件と言えば、「あした、あいてますか?」なんて、バス停でイギリス人の男のコに声をかけられて…。遠い異国の地で、生まれて初めてナンパされちゃいました。家が遠いからどうのこうの言ってるうちに、ちょうどバスが来てくれて、ゴメンナサイ、ゴメンナサイって。
日本にいたら、ナンパされることってまずないでしょ(笑)。でも外国へ行けばあるわけ。あ、私が女性として見られているんだわ、うれしい!って、とても新鮮だった。

日本に帰ってきたら、すごいやさしい顔してるって、のびのびした顔になったって。人にも自分に対しても、おおらかな気持ちで接していけるし、完璧主義者だったのが、こまごましたことにはこだわらない人間になったみたい。そして英語より何より学んだことがあります。向こうで暮らして、みんなが個々人、精神的に自立している姿を目のあたりにして親子、夫婦、男女の関係とか、いろいろ考えさせられた。みんな18歳になったら独立するでしょ。それが普通。同棲している人も多くて。あたし、同棲って、いいんじゃないかな、必要なことかもしれないって、本気で思えるようになりました。

遊び半分は絶対よくないけど、一緒に暮らして初めてわかるみたいなところあるでしょ。スタイルではなくて、お互い全部さらけ出してわかった時に、この人だ、と思う人は絶対間違いないって思うの。
親子の関係も個々で「私のだんな様にあなたそんなこと言わないで」とか母親が娘に言うの。

娘も独立しているから「ごめんなさいね、あなたのだんな様に」みたいに平気で言えるのよ。日本の場合だと、まず母、子になっちゃうのにね。
オマラさんのお宅では、だんなさんが単身赴任していて週末しか帰ってこないの。でも、結婚30年になるのに毎日電話してくるんですよ。なんでも話し合えて、支え合っている。見えないところ、気持ちの部分で支え合う、すごくいい関係で、すごくいい夫婦の見本を見せてもらったみたい。
