ついに再登場❗️なかよしトリオの傑作リレー小説
続き ちょっぴり愛の日《北海道編》
文と絵  桜田淳子・岩崎宏美・伊藤咲子
文・伊藤咲子 絵・桜田淳子
春のあったかい陽射しを浴びて、桜美咲は千川に沿った小道を歩いていた。去年の夏、真二と初めて心打ちとけて語り合った想い出の川辺だ。北海道へ去っていった真二の面影を求めて、美咲はこのところよく千川へやってくるのだった。青葉女子学園を卒業した美咲は、4月から希望どおり都心のある英語学校に通い始めている。英会話をマスターして、通訳の仕事をする夢なのだ。真二のほうも、函館の高校へ転校してから、めざしていた道南大学の獣医学部畜産科に見事パスしたのだった。
五月にはいって、かぐわしい新緑に心はずむころ、美咲は学校の研究旅行で北海道へ旅することになった。……〈連絡しないで、突然行って驚かしちゃおう!真二クン、びっくりするだろうなぁ…。フフフ〉美咲はもう、旅立ってからも、逢ったときのことを想いめぐらし、かんじんの英会話の勉強がちょっとおろそかになったりするほどだった。…五月の北海道の空は、どこまで青く澄みわたっていた。新鮮な空気を胸いっぱい吸って、美咲はとっても幸せな気分にひたっている。
大学のいちばん南側に牧場があった。
「あのう、すみません。1年生の潮真二(うしお しんじ)さん、いらっしゃいますか?」美咲は、可愛らしい仔馬の世話をしていた学生にたずねた。
「えっ、潮ですか?あいつは、襟裳岬(えりもみさき)へ行ったよ。その近くの日高種畜(ひだかしゅちく)牧場へ畜産の勉強と遊びを兼ねて、一週間ぐらい滞在するって言ってたなあ。今朝、発ったばっかりだよ。」
「今朝…。そうですか…」美咲は、拍子抜けしてしまった。〈こんなことなら、あらかじめ、連絡しておけばよかったわ。つまんないなぁ〉
「キミ、もしかして、美咲さんかい?」
「エッ、そ、そうですけど、どうして?」
「いやぁ、潮のやつが、しょっちゅうキミの話ばっかりするもんでね。確かに、おめめパッチリの可愛い女の子だなぁ!」
美咲は、急にポーッと頬が熱くほてるのを感じた。面と向かって言われて少し恥ずかしさは
あったが、真二がそんなに自分のことを考えてくれてるとわかって、とてもうれしくなったのだ。〈襟裳へ行ってみよう!どうせ旅行のあと3日間、学校は休みなんだから〉美咲は、すぐ札幌に引き返して、襟裳へ向かって汽車に飛び乗ったのだ…
ここより 文・岩崎宏美 絵・伊藤咲子
何しろ、苫小牧(とまこまい)で乗り換えて日高本線の終着駅の様似(さまに)に着いたら、もう夜中の11時。もちろん女の子のひとりたびなんて、美咲にははじめて。困っちゃったのです。運よく駅前の旅館の電気がまだついていて、なんもか泊めてもらったのです。
「牧畜の見学のために、東京から来ました」
ウソばっかり言っちゃって。その晩、美咲はなかなか眠れませんでした。ひとり旅の心細さもあったし、それに明日、真二にあったら、最初になんて言おうか、もうとてもドキドキしちゃっているのです。
ほんとは何も言わないで、おたがいの目が合ってから、両者ともにツツッと走り寄って、パッと抱き合っちゃって、真二がボソッと、やさしく言ってくれるのがいちばんいいんです。美咲は前に映画でそんなシーンをみて、涙を流しちゃったのを想い出しているのです。でも、そうならないなあ…。そんな気持ちのほうが強いのです。だからやっぱりドキドキしちゃうのです。
翌朝、まだ薄暗いうちに美咲はめをさましました。気がついたらGパンをはいたまんま。思わずプッとふきだしちゃったのですが、やっぱりまたドキドキです。牧場には朝の8時に着いてしまいました。サイロがあって、赤い屋根のお家があって、草を食べてるたくさんの馬。まるで絵ハガキみたいな光景です。でも絵ハガキにない眺めがひとつ。…
「あー、潮クンなら、向こうの馬小屋にいますよ」美咲はもう走っていました。あけはなされた馬小屋の入口に立つと、奥の薄暗いところに、ヘルメットをかぶって手ぬぐいのマスクをして、汚れた作業服を着た男の人が、大きなホークでせっせとワラをかき出していました。〈潮クン、頑張っているんだな。それにとてもたくましくなって〉ツカツカッと彼の背中に近づくと、美咲は大きな声でハッキリと「潮クン!」なつかしい言葉をかけたのです。…
「美咲さん!」
背後から、あのわすれもしないなつかしい声がしたのは。ハッとわれにかえった美咲。
「潮クン!」「美咲さん!」「潮クン!」
「おめえらどうでもいいけど、こんないい天気の日に、こんな馬糞くさいとこでゴチャゴチャやってないで、牧場に出ろや。外は春の風だべさ」
久しぶりの真二は、とても頼もしそうで男らしくなった感じ。
「馬はいいですよ。かわいいしきれいだ、ハハハ。ぼくは道南大の獣医学部に入って、ほんとによかったと思っているんだ。ぼくがいままで知らなかった、ほんとうの自然や愛がわかるような気がしてきたんですよ、ハハハ」
ハハハという妙な笑い方がちょっと不自然でイヤだったけど、美咲には真二がとてもステキになったように思えたのです。
〈ますます私好みになっちゃった、ハハハ。あっ、うつっちゃいそう〉美咲も思わずニコニコして真二を見つめかえしたとき、真二の表情がフッと暗くなったのを、美咲は見のがさなかったのです。「ところで美咲さん、ぼくは、ぼくは!」


3人にももういちどペンをもらい