表紙 ガラス・ペインティング  岩崎宏美
1977年明星2月号付録
なかよしトリオの傑作リレー小説
『続・ちょっぴり愛の日《北海道編》』
《これまでのお話》
青葉女子学園に通う桜三咲は、ちょっぴり三枚目だけど、笑顔のかわいい18才。
やがて、新学期が始まり、ふたりはそれぞれ充実した高校生活最後の秋を送っていた。そんなある日、美咲は、真二から突然、父親の仕事の関係で北海道へ転校せざるをえないことを打ちあけられた。ふたりは、お互いの愛を信じあっていた。逢えない時間が愛を育てると…。別れのくちづけを美咲の頬に残して、真二は旅立った…。
「置き手紙をして帰ろうか」
ここより 文・桜田淳子 絵・岩崎宏美
(ワァ、ひどい宏美ちゃん。こんなところで私にタッチするなんて!後半は苦労するワ)
「ぼくはいま悩んでいるんだ」「なぜ?」
「実は下痢なんだよ」「馬鹿」と、美咲は顔を赤らめながら、〈なんて無神経な人〉と心の中で叫んだ。
「ちがうよ、そうじゃないよ。ほらさっき見なかった、かわいい栗毛の仔馬を。けさから横になったままで、カイバをやっても消化できないんだ。」と真二が話してるあいだも、薄暗い馬房からウヒーン、ウヒーンと弱々しいなき声が聞こえた。
不安な表情でふたりはボーッとたたずんでいた。すると背後から「ど・う・し・た・の?ウーちゃん!」とパッと真二の腕にとびついた女性がいたのだ。「あら、ごめんなさい、お友達?」とジロッと美咲をにらんだ女──この牧場の娘、宏子である。赤いチェックのウエスタン・シャツにサロペット、赤い長靴。ちょっと濃いめよ口紅をのぞけば、まるで西部劇に出てくる野性的で色っぽい女そのものだ。
〈なによ、なれなれしくウーちゃんだなんて、潮クンだからウーちゃん…くやしい!〉と美咲は無理に笑おうとすればするほど、自分の顔がこわばっていくのを感じた。そんな美咲の気持ちにはおかまいなしに、宏子は真二の腕をひっぱって「さあ、馬を牧場に放さなくちゃ、手伝ってよ」とさっさとふたりで出かけていってしまった。サイロの陰から、宏子と真二のふたりの笑い声が聞こえる。「ハハハー、ハハハー」
おいてきぼり…美咲はもう東京へ帰りたくなってしまった。
「朝日のなかで2人は…」
美咲はすぐ眠りについたが、恐い夢を何度もみた。暗い海辺で迷子になって、白い波頭が大きな怪獣が歯をむきだしたように襲いかかってくる。汗をびっしょりかいて、美咲は目覚めた。まだ夜明けには間がある。ギイーッ、バタン!
こんな夜中に誰かがでてゆく。美咲は急いで窓に顔をおしつけた。「あっ真二クンだ」美咲は何か悪い予感がした。〈ひょっとしたら、あの宏子さんと…〉いやなこととはわかっていながら、美咲は真二のあとをつけた。そうしないでは、いられなかったのだ。……
「ねぇ、ウーちゃん」と美咲は甘えてみせると、「バカだなァ、宏子のマネなんかして。あの娘とはなんでもないんだよ。ぼくの好きなのはキミだ!」といって、真二は美咲をしっかりと抱きしめた。そして再会のくちづけを、今度は美咲の唇に……。