ジェイジェイ雑誌 1988年1月号
対談 劇的恋愛のススメ 
時任三郎「いつかは〝ローマの休日〟みたいに…。」
大竹しのぶ「愛って駆けひきを考えないこと」
時任「いやぁ~、佐世保に42日間とじこめられて、死ぬほどリハーサルやらされて(笑)。ようやく今回の映画が出来上がったわけだけど、この『永遠の½』っていう作品、僕は久々に純粋な恋愛っていう気がするんだけど。」
大竹「うん、私もそう思う。安全な恋愛作品。で、普通、恋愛映画っていうと、三角関係があったり、不倫があったりとかして(笑)、とてもドラマチックなんだけど、この映画は、すごく日常的でしょ?」
時任「そう、そう。日常的なリアルな恋愛風景っていう感じ。競輪場でコーヒーこぼしたっていう、全然ロマンチックじゃないきっかけから恋が始まって…。」
大竹「特に盛り上がりもなく、簡単にひっかかつちゃって(笑)。」
時任「で、結婚ってドラマチックな山場も、センセーショナルな別れもない。なんとなく出会って、なんとなく中途半端なまま恋愛関係が続いていく。」
大竹「すごくリアルでしょ。」
時任「リアル、リアル。現実の恋愛って、じつはそんなにドラマチックじゃないし、かっこいいものでもないもんね。やっぱり女がモーツァルトを聴いているわきで、男はプロ野球ニュース観てるとかさ。」
大竹「現代っぽい、自然な恋愛映画っていえるんじゃないかな、って思う。」
時任「でも、個人的な話をすると、僕ってさ、実はとってもドラマチックな恋愛に憧れてるタイプなんだのよね。」
大竹「映画じゃなくて、現実で?」
時任「モチロン。『ローマの休日』のような恋愛を実際に体験してみたい!好きなんだよね、あのドラマチックなパターン」
大竹「もう少し詳しく(笑)。どの辺に憧れちゃうわけ?」
時任「まず、二人の間に乗り越えられない大きな壁があるじゃない。1国の王女と、単なる新聞記者って身分の違いとかさ。一緒にいられる期間は、たった数日間しかないとかいう時間の問題とかさ。でも、その壁をなんとか乗り越えようとして、恋が盛り上がっていく!でも、結局、ラストでは、その壁によって別れ別れになってしまう。
大竹「すごくドラマチック!」
大竹「結婚って、結婚することが目的でするものじゃないものね。この人が好き、いつも一緒にいたい。だから、それが自然に結婚っていうカタチに結びつくんだと思うし。この人と、ずっと一緒にいたい、と思える人って、一生に一人か二人、絶対にいる信じてるし。」
時任……(話に聞き入る)。
大竹「う~ん、どうしようかな、この人と結婚したほうがいいかな?って迷うような関係の人とだったら、私は結婚しないでほしいと思う。🎵タンタタタ~ン、ってウエディング・ベルを鳴らすのは、やっぱりすごいことだと思うし。〝絶対にこの人〟って気持ちがあるから、結婚するわけだし。そのくらいの気持ちがないと、結婚に対して失礼だし。〝一度してみようかな?〟くらいの気持ちだったら、むしろやめてほしいな。」
時任「どうも、僕はまだ結婚に関しては、よくわからない。なにせオクテなもんで。」
大竹「私だって、24歳くらいまでは、キチンと人を好きにはなれなかったの。気軽に〝好き〟って言える人はいたけど、その人がいざ近寄ってくると〝やっぱりいらない〟みたいな。その頃って、自分は恋愛ができないんじゃないかとさえ思ってて、このまま一生ひとりで仕事をして、誰にも知られず、白黒テレビのついた部屋で寂しく死んでいくのかなぁ、って思ってた。」
時任「そんな時期が、あったの?」
大竹「うん、本当にキチンとした恋愛ができなくて。でも、その反面、結構寂しくて。一人で何にもすることがなくて、そういうときに限って電話もならなくて…。で、そんなあるとき、仕事場へ行ったら、監督さんが私の方に背を向けて、テレビのモニター観てたのね。その人は、別に好きでなんでもない人だったんだけど(笑)。でも、その人の背中を見た途端〝あっ、男の人の背中って、よさそう!〟って、思ったのね。
時任「へ~ぇ」
大竹「なぜか不思議とその瞬間に、〝女の人って、男の人が必要なんだ〟って、しみじみ思って。男の人の背中に寄りかかったらラクだろうなぁ、って。で、自分にもそういう人が、早く現われないかなぁ、って思ったの。」
時任「美しい話だなぁ。」…