「それなら、もう一度やり直してみない?

一生かかって罪を償う気持ちがあるのなら、いっしょに暮らしていたって出来るはずだよね。

私ももしたっちゃんが本当に今回の事を済まないと思って心から反省して、もう二度と同じ失敗を繰り返さないと言うのなら、それならやり直せるような気がする。

子供達の為にも二人で頑張ってやり直してみない?」

「千鶴がそれを望むなら、許してくれるなら、やり直せるかもしれないな。」

「そうだよ、諦めてしまうのは早すぎるよ。頑張ってみようよ。」


そんなわけで私達は何とか離婚の危機を乗り越えた。

とりあえず・・・・・


これからどうなって行くのか?

私達夫婦は何処へ向かって行くのか?

そうそう私はまだ社長になると言う課題を抱えたままだ。

今年中に・・・の筈だ。

奇跡は起こるのか?

2005年も残すところ後1ヶ月を切ってしまった。

この一年は本当に様々な事があった。

思い悩みいろいろな体験を経てここまで来て一つ言えるとしたら何だろう。

 

希望を持って!

必ず光がさす時が来るから・・・

人生って素晴らしいものだから、本当は。


私は幸せだ。

幸せって心の状態なんだろうな。

家族がいて健康でこうして今現在平和に暮らしている。

そんな毎日に心から感謝しつつ、感動しながら、日々を丁寧に生きていく・・・それが幸せな事なのだろう。

毎日のそうした思いの積み重ねが明日の幸せを作っていく。

私は幸せだって先ほど言い切ってしまったけど、完璧に幸せって訳じゃない。

でも自分の目指す幸せに向かって日々努力をしてゆきたい。

人と比べる事はない。

幸せは人それぞれ違うから。

私は私の幸せを追求するだけ。

そして私の幸せを一番身近な夫に子供達に分けてあげよう、幸せを、愛情を。

それが出来たら両親に、友達に、周りに、そして世の中の人々に。

みんなに幸せを、愛情を注げたら、みんながお互いに幸せを、愛情を注ぎあえたら、その時はきっと素晴らしい世の中になるんだろうな。

その時私はこう言いたい!


人生って本当に素晴らしい!






「千鶴は俺が平気で居たって思っているかも知れないけど、俺は正直凄く苦しかった。

職場にも借金の催促の電話がかかってくるし、とにかく支払いをしなければならなくて追い詰められて切羽詰っていた。

夜も布団に入っても寝られなくて、動悸がしてきて。

しまいにはもうどうでも良くなって。

あの夏はもう限界だったんだ。

千鶴が俺の兄貴に手紙を書いたけど、実は俺、夏休みに一度沖縄に帰って兄貴達にその話をしようと思っていたんだ。

話をして何とかお金の援助をお願い出来ないかと考えていた矢先の事だったんだ、千鶴が実家に帰ったのは。」

「そんなに切羽詰っていた素振りも無かったじゃない。」

「ん・・・見せたくなかったのかな、弱みを。

よく、借金を抱えて自殺するって言うけど、何か解るよ。本当にさ、もうこのまま死んじゃったらどんなに楽だろうって考えてしまうんだよね。」

「その気持ちは私もよく解るよ、私も同じ思いをしたから。」

「普通にしていたけど本当は、例えばテレビで金融のコマーシャルをやっているのを見ているのも辛かったんだ。」

「・・・・・」

「こんな思いをしたから、俺はもう借金なんて作るつもりもないしもちろん生涯カードを持つつもりも無いよ。」

そんな思いをしていたなんて・・・初めて聞いた。


「千鶴はもうこんな俺を許せないだろう?

言い訳に聞こえるけど、あの頃の俺は本当にどうかしていた。

人間って追い詰められると、網破れかぶれになるって言うかもうどうにでもなれってどうでも良くなってしまうんだよね。あのスーツの件で千鶴に問い詰められた時がそう。

やけっぱちになって嘘がいくらでも出てくる。」

確かにあの頃のダンナは人が変わった様だった。

「前によく二人で話したよね。

気持ちが通じ合わなくなったら、いっしょに暮らす意味が無いって。

こんな風に暮らしていっていつかお互いの気持ちが通じ合う日が来るのかな?

千鶴は俺の事を許せるようになると思う?」

「・・・それは解らない・・・

でもまだあれから3ヶ月だよ。答えを出すのは早すぎるんじゃない。」

「今ならまだ千鶴も40歳、やり直しがきくと思う・・・でもこのままの状態で後10年とかいてやっぱり駄目だったってなったら・・・」

「そんな事言って、明日香と茂はどうするの?

明日香は今が大変な時期だし、茂だってこれからいくらでも父親が必要じゃない?

二人とも何だかんだ言ったってお父さんの事が大事なんだから。」

「それは俺だって二人の事は何より大事だよ。

でも逆にこんな状態で暮らしている方が二人の為にもならないんじゃないのかな、なんて思うんだ。」

「・・・・・」

「俺、毎日普通に会社に行っているみたいに見えるけど、会社でも宮里さんはいつも明るくていいねえ、悩みなんて無いんでしょう。なんて言われているけど、実は必死になって会社でテンションあげているんだ。

いつも奥さんの愛妻弁当、いいわね。愛されてて。なんて事務のおばちゃんたちに言われると、否定も出来ないし笑っているけど、正直辛くて。

普通に仕事はこなしているけど、いい仕事は出来ないよな。

よく家庭がゴタゴタしているといい仕事は出来ないって言うけど、本当だよな。

もちろん甘えた気持ちは捨ててやっているし、きちんとやってはいるさ。

でもそこまで。それ以上の仕事は出来ないよな。」


そんな状態だったなんて、初めて知った。

私も苦しかったけど、ダンナも辛かったんだ。

初めて初めてダンナの真意を知った。




ダンナとはいぜん平行線のまま時ばかり過ぎて行く。

私は何だか諦めモードになってしまっている。

もう元のさやに戻ることは無いだろう・・・絶望的な気分になってしまう。

だとしたら一体何時までこんな状態で暮らしていけばいいのだろう。

ダンナも何だか家に帰ってくるとムスッとしてしまって、話をしてもギクシャクしてしまう。

挙句には何かいつも言い合いになってしまう。悪循環だ。

息苦しい・・・もう3ヶ月になる。

何の進展も無い。一番身近な人とこんな冷たい関係だなんて悲しい。

いつもダンナに対して私の心は怒りがこみ上げてくる。

涼しい顔をして、私がどんな思いでいるか私の気持ちが分かっているのか?

人に対して優しく接したい・・・最近特にそう思う。

なのに・・・同じ屋根の下で暮らすダンナに対してこんなマイナスの感情になるなんて。

このままじゃ駄目だ! このままじゃ自分が壊れてしまう。いけない、何とかしなければ!


ある夜私は感情が爆発してしまった。

限界だった。

「貴方はそうしていて平気なんだね!

一体貴方に何が解ると言うの?

私が貴方に裏切られるたびにどんなにつらい思いをしたか・・・

実家に帰った時だって平然と居た訳じゃない。

私も辛かったし、私の両親だって、どんな思いをしたか。

こっちに帰ってくる時にお金の無い親が私に5万円を渡して、

『お金があったらいくらでも援助出来るのにそれが出来なくて悲しい』

って言った。その時私がどんなに情けなかったか、あんたに私の気持ちが解るかぁー」

私はそう叫ぶと号泣した。声を出して大声で泣いた。

こんな泣き方をしたのは一体何時以来だろう。


ダンナは黙って聞いていた。

そして静かに話し始めた。

「本当に千鶴には申し訳ないと思っている。

それから千鶴の両親はもちろん、俺の兄貴達には迷惑をかけてしまって、それに関しては何の弁解の仕様もないし俺の中では一生をかけて償って行くつもりではいるから。もちろん金銭面のこともあるけどそれ以外の意味でもね。」

長い沈黙の後、ダンナが言った。

「千鶴は、千鶴は俺と暮らしていて楽しい?」

とっさの質問に私は戸惑った。

「正直言って楽しくはないけど・・・」

「俺さ、来年になったら今の仕事を辞めて家を出ようかと思うんだ。」

「えっ・・・・・」

「どこかちょっと遠くへ行って仕事しようかと思っているんだ。」

「・・・・・」

「このマンションはそのまま千鶴が子供達と住んでいればいいから・・・もちろん仕送りはちゃんとするから。

子供達が大きくなるまではちゃんとするつもりだから。

だからそれなりに仕送り出来る様に、力仕事でも何でもするつもりでいる。」

「・・・それって別れるって言う事?・・・」

やっとの思いでたずねる。

「離婚した方がいいんじゃないかと思って。」

「・・・・・」

まさに青天の霹靂だった。

私はずっと別れたいって思っていた。

でもまさかそれをダンナが思っていて切り出すなんて・・・


待って・・・落ち着け、落ち着いて考えよう、どうしたらいいのか・・・





娘の明日香は高校に行ったらバイトして自分の小遣い位は自分で稼ぐ、なんて言っているけど悪い事ではないと思っている。

もちろん経済的な理由もあるが、部活に燃えるのも素晴らしいが、仕事を通じて学ぶべきものもとても大きいと思う。

私は日頃から娘に言っている。

「もし仕事をしたらたとえどんな仕事だろうがきっと学ぶべき事はある。

常に自分は何が出来るか?

自分と社会とのつながりを見つめ、いつも考えなさい。世の中の為になること、人々の為になること、それでいて自分にとっても楽しいと思えること。それらを常に頭において光の指す方向に向かって進んでゆきなさい。

そうすれば必ず道は開けるから。」と・・・


最近よく、会社は誰のもの? と言う議論が盛んだが正直とても難しい問題だ。

例えば個人でやっていることなら自分のものと言い切れるかもしれないが、もし会社が大きくなって従業員を抱えるようになってきたら、その時はそれがたとえ一人であっても自分のものとは言えなくなるだろう。

まして株式で上場などしたら・・・会社は株主のもの、顧客のもの、そして社員のもの、よくどれが一番先に来るか?などと言うがとても難しい問題だ。どれをとっても大切な財産だ。


私の知人の会社でこんな会社がある。

従業員を数十名抱える中企業なのだが、社長一代で築き上げた会社だ。

その社長はとても素晴らしい人で皆が尊敬している。

しかし最近跡取の事が問題になっている。

社長には一人息子がいて社長は彼に会社を継がせるべく準備を始めている。

この一人息子がとんでもなく出来が悪い上に、わがままで世間知らずときているらしい。

昔から社長を支えてやってきた主力メンバーの面々は会社の未来に希望を見出せないで次々に辞めて行ったそうだ。

難しいところだ。

身内を2代目にと思ったとたん守りに入ってしまう・・・どんな出来た社長でもやはり人の親だから。

あの本田宗一郎氏も息子には直接ホンダを継がせず別会社を作った。

会社が大きくなればなるほど個人のものでなくなるから。

 

私はよく娘に言う。

「近い将来会社を作っても、あんたには継がせないから、ごめんね。自分の力で頑張ってね。」と・・・

娘はその度に答える。

「はぁ、何言ってんの?全然継ぐつもりないから。」

・・・今の私の気持ち・・・

変わることがあるのだろうか、この先?




「ぜんぜん面白くない。」

ボソッと明日香が言う。

「そうだろうなぁ、数学なんてぜんぜん分からないって言うんだものな。」

アンケートを見ながらダンナは答える。

「でも勉強は面白くなくても高校は行きたいんだ?」

「ん・・・」

「何で?おまけに志望校がK高校? これおまえK高校の子達にいくら何でも失礼だぞ。K高のレベル知ってるの? 大体行きたい理由がバイトが出来るからって・・・こんな理由で、K高の生徒よけい怒るわ、これ!」

まあ、理由がバイト可なのは私のせいかもしれない。日頃からお金が無い、無いって明日香がどこか行く時、お金が要りようの時につい口にしてしまっているから。「だから大事に使うんだよ」ってつい念を押してしまうから。だから明日香はせめて高校に行ったら、自分の事は自分で稼ごうと思うようになったんだ。

うーん、どういうものか?


勉強が出来なくても暖かく見守って・・・なんて思っていたが、さすがに9点を取られるとねえ。

おまけに授業が全然分からないって言うし、こう言う場合親はどうしたら言いのだろう。

親もさすがに中2の数学は教えられない。

娘がガテン系の子で「私はこの道にどうしても進みたいから、だから高校へは行かない。」って言うのならそれはそれで立派だと思うし、親としても応援してあげようと思うかもしれない。

でも、娘は今現在将来の夢などなくてでも高校へは行きたいけど、でも勉強は分からない。

どうしたものか?

「自分では出来ないし、分からない。塾でも多分ついて行けない。」

明日香は言う。

「ちょっと家庭教師、考えてみるか・・・今のままじゃ明日香どうしようもないしなぁ。」

他に選択肢はなさそう。

「森さんを辞めて何とかなるかな? 

その代わり明日香、あんたも心してかかりなさいよ。うちは余裕がある訳じゃないんだから。」

ついつい又、お金の事だ。でもいいだろう、それを分かって勉強してもらうのは。

夏前の借金状態だったら不可能な事だ。

そう考えると時期が良かったのか?

果たして子供に何処までやってやるものなのか?

何もしなくても出来る子もいるんだけどね。

9点を取ってしまった子の親の気持ちは複雑だ。

親ってまったく因果な商売だね。


家計は苦しいがこんないきさつから明日香に週一回の家庭教師が来る事になる。

そんな事つい先日まで考えもつかなかったのに、9点の答案用紙を貰って来てからガラッと変わってしまった。

おろおろとうろたえている自分がいる。

親って本当にバカみたいな生き物だね。




どうしよう・・・?

「今はお互いに頭に血が上っていて話し合ってもろくな結果にならないだろうから、明日の夜にでもきちんと話し合う事にしよう。」

ダンナは言った。


次の日の朝、ダンナは私に走り書きのメモを渡しながら言った。

「これ、明日香に対する質問事項。悪いけどパソコンで打っておいてくれる。

それを俺が帰ってくるまでに明日香に書かせておいて。

あいつがどう思っているのか、今後どうしたいのかを知らないと話にならないから。」


それだけ言うとダンナは仕事に行ってしまった。

そのメモには、

・今、1日何時間くらい勉強してますか?

・試験前は何時間勉強しましたか?

・学校の授業は分かりますか?

・今後、勉強するとしたらどれを選びますか?  塾 家庭教師 独学で

・ズバリ高校は行きたいですか?

・希望する高校はありますか?

・将来の夢は何ですか?

と言うような内容だった。

私は夜までにそれをパソコンで打って話し合いに備えた。


「それでは、これから第一回の明日香の勉強の話し合いを行いたいと思います。礼!

夜、ダンナが帰ってきてから明日香と三人でテーブルを囲んだ。

真面目とも何とも言えない表情でダンナが号令をかける。

三人で礼をする。お辞儀をしながらちょっと吹き出しそうになる。

ダンナの本来のひょうきんさがこう言う所に出てくる。

世の中には子供の事を全部女房に任せて、一切タッチしない父親もいる。

仕事が忙しすぎたりして・・・

そのくせ何か問題が起きると、「お前の育て方が悪いんだ」とかって責任を全部女房に押し付ける。

まったくもってずるいと思う。

誰の子供なのだろう。二人で育てると言う自覚が無いのだ。

子育ては本当にしんどい。仕事にかこつけて逃げられたら本当に楽だ。

その点ダンナはこうして子供と向き合おうと努力している。立派だと思う。


明日香もこの日ばかりは神妙にしている。

明日香のアンケートを見るとまあ数学9点を取ったのも納得だ。

・1日何時間の勉強か・・・は10分くらい

・試験前は・・・30分くらい・・・だものな。

ダンナは口を開く。

「まあお前が勉強していないのは、分かっていたけどここまでとは・・・

勉強ってのは明日香、×(かける)時間数なんだ。

良い点を取っている友達はみんなそれなりに努力しているって事。やれば絶対に出来る。やるかやらないかだけだから・・・

そう考えるとこんなに勉強しなくてもこれだけ点が取れるって逆に凄いぞ。お前、頭がいいかもな、明日香!」

ダンナは変に感心している。そんなところで感心してる場合じゃないぞ。

だんなの話は続く。

「お父さんも決して頭がいいとは言えないけどまだやっていたぞ。

明日香さ、勉強していて楽しくないか?新しい事を覚えるってワクワクしないか?

お父さん、この年になっても新しい事を学ぶって面白いって思うけどな。」

ダンナは理路整然と話す。

そんなダンナを横で見ていて複雑な気持ちになってくる。

あんなに借金抱えて嘘を付きまくっていたあのダンナと、今のダンナがどうしても一致しない。

本当に同一人物かって疑ってしまいたくなる。いや、同一人物なんだろうけど。


ダンナとは相変わらずだった。

普通に生活はしているけど、二人の間には何か壁と言うかもっと薄い膜のようなものがあって、壁ならば蹴破る事も出来るけどこの透明な膜はかなり手ごわい。

決してこちらの世界からそちらの世界へ行くことは出来ない。もちろん向こうからも来る事は出来ない。

こういう事は子供達には伝わっているのだろうか。

彼が帰ってくると変に緊張してしまう自分がいる。

お互いめっきり口数が減った。

本当に必要な話以外していないような気がする。

それにダンナは夜遅いし帰ってきて遅い夕飯を終えると、すぐさまパソコンに向かってしまう。

ヘッドホンをしてパソコンに落としている曲を聞きながら、作業をする。

こちらには背を向けて・・・

分厚いバリアをしている様だ。

私もなんかどうでも良くなってくる。

どうでも良い訳なんか一つも無いのに・・・


明日香の公立中学は前期、後期の2学期制になった。

9月半ばすぎに2年生になって初めての中間テストがあった。

彼女は本当に勉強しない。

今時の学生は勉強をしないって言うけど本当にしない。

する子はしているんだろうけど・・・ここでも二極化か・・・

彼女は小学校の終わりから近所の友達に誘われて、個人塾に行っている。

一クラス五人位のその塾の先生は森先生と言って、50歳くらいの女性の先生だ。

英、数、国何でも教える万能先生だ。とても親身で中学校や受験の事情にも明るく素晴らしい先生だ。

しかし何よりも本人のやる気が無かった。

宿題をやって行かない事が多かったらしく、先生から電話をもらったりもした。

私は怒って本人と話し合った。

結局、やっていた英、数のうち数学を辞めさせた。

家にはそんな無駄金を払う余裕は無い。

本人も納得した、と言うか彼女は自分で勉強するから、と逆に言って来た。


明日香は本当に能天気な性格だ。

お笑い番組が大好きで、よく観ている。

しかし森先生のところで使っている教科書の表紙は落書きだらけだったが、黒のサインペンで大きく

”森さん、フォー!!”

・・・と書かれているのを見た時はさすがにのけぞりそうになってしまった。

「あんたの頭の中はお笑いオンリーか?」

「そうだよ。だってお笑い大好きだもん。」


確かにろくに勉強をしていなかった。

でも彼女の、大丈夫!ちゃんとやるから。の言葉を信じていた。

何時も何時も私は実にあっけなく身内の言う事を信じてしまう。

試験が終わってしばらくしてダンナが言った。

「もういい加減、テストを返して貰ったんじゃないのか?」

「貰って来たけどぉ。」彼女は歯切れが悪い。

「じゃあ、持って来なさい。」ダンナは言う。

「いいけどぉ、絶対怒らない?」彼女は何度も念を押す。

「怒るも、怒らないもいいから見せなさい。」

渋々彼女は持ってくる。

どうせ期待はしていない。

しかし・・・辛うじて習っている英語が68点、後は国語、理科、社会・・・みんな50点満点か?いや違う100点満点なんだ・・・

そして最後に数学、ん?何?

9点?・・・

何度も見直してしまう。

これは10点満点?・・・の訳ないよな。

じゃあ、50点満点か?違う。

100点満点の9点だ!!!

なにぃー。

ダンナも私も言葉を失う。私も昔、ずいぶんひどい点数も取った事もあったが、一桁は無かった・・・

「明日香さぁ、学校で授業、分かってんの?分かんないでしょう。」

明日香はうなずく。

ちゃんとやっている、って言う言葉をすんなり信じてしまった。

「これは、悪いけど怒る、怒らないのレベルではないぞ、明日香。」

ダンナは心底呆れている、私だって・・・

ガックリきてしまう・・・問題はこれからどうするかだ。




長くて短い子供達の夏休みも終わった。

相変わらず何が変わった訳ではない。

私は相変わらずカレー屋で働いているし、ダンナとの関係も相変わらず溝は埋まらないままだ。


9月の初め、仕事が休みの日久々、佐伯ママを呼んでお茶した。

ダンナとの事は私が実家から帰省したすぐの頃、子供達といっしょに花火をやった際多少話はしていた。

「その後、ダンナさんとはどう?」

佐伯ママが聞いてくる。

「相変わらずなんだよね。」

私は答える。

「分かっている。ダンナがやむを得なくした事。決して浪費とかギャンブルとかで無いって事が。

分かっているけど、でもどうしてあんな風に嘘をついたのかって考えるとねぇ。どうしても許せない自分がいるんだよね。」

「宮さんのダンナさん真面目だし心配させたくなかったんだろうね、宮さんを。」

「分かっている、それは分かっているんだけど。

私はね、自慢じゃないけど結婚して一度だってダンナに嘘を言ったり騙したりした事はないんだ。

私はいつも誠実でいたいと思っていたし、まして自分の夫にはなおの事、だからどうしても彼の事が理解出来なくて、正直しんどいんだよね。」

話しながらだんだん熱くなっていく。

「宮さんは、まっすぐで男っぽいところがあるからね。」

「正直、これからどうなって行くのか分からない。

お互いに理解し合えない結婚生活なんて、私には考えられなかったからねぇ。」

「難しいよねぇ。」

考え込んでしまう。


それから又数日後、私は夫が買ってきたパソコンの雑誌についていた付録の本 ”初心者の為のブログの本” を眺めていた。

ずっと気になっていた。

もともとパソコンの知識もそんなにないし、ブログの存在もつい最近知ったばかりだ。

読んでみる。

私に出来るかな。知識もないし難しそう。

読み進むといろいろな事が分かって来る。

ひとくちにブログと言ってもいろいろなサービスがある。

あと話題のアフィリエイト、これも出来る否がある。

やってみようか。

パソコン音痴の私に出来るかな?

色々サービスの違いなども読み比べる。

何処が良いかな。

さんざん比べてようやく決めた。

必死で慣れない操作をする。

なんせパソコンはそんなに得意ではない。

本当はそんなに大変ではないのかもしれないけど、四苦八苦してしまう。

内容は・・・

もちろん自分の事だ。私のさりげない日常、私の思い、私の日々感じている事、悩み、そう言った事をブログを通して発信していこう。

読者はつくだろうか?

分からない、でもやってみよう。

これで読者がついてアフィリエイトで多少でも小遣い稼ぎにでもなれば、等とかなり不純な動機もあるが、取り合えず何とかセッティングは出来た。


これはおよそプチ起業とはいえないかもしれないが、もしこれで少しの収入にでもつながればそれはそれでビジネスと呼べるのではないのだろうか。

凄いこじつけだ。

窓の外を見る。残暑が厳しい。ラクダ公園の木々の緑は深い。相変わらずセミの鳴き声はけたたましい。

(これはまだ夏だよね。)

夏の間にプチ起業を、何とか始めた!・・・事にしよう。


社長には有能な右腕になる人物が必要か?


中田女史はその役目をになっていると思う。

社長は立派だと思う。中田さんも立派だと思う。

要はバランスなのではないか。

ベクトルの法則とでも言うのか。

目標が、目線の行き先がいっしょである事は大切だろうが、要は行き方。

右から行こうとする社長をちょっと引っ張って、右腕となる人物が軌道修正してあげるくらいでないと。

この場合、その役目は中田さん。

社長が体育会系なら、中田さんも体育会系。

引っ張るどころかむしろ押している感じ。

皆働け、働けでもって体育会系でやっても、会社に懸けている一部の人達を除いてはやはり不満が出てしまうのでは・・・

働いた分の正当な報酬。

働く時は必死で働く、でも休息も大切。

社長はともかく社員にとって会社は生活の手段。

もちろん自己実現の場でもあり、成長の場でもある。

でももし正当な報酬も無く、休みもままならない、生活の全てが仕事になってしまったら、付き合う人間の全てが会社の人のみになってしまったら、それは不自然で極めてバランスの悪い状態になってしまうだろう。

会社が新興宗教に近くなってしまう。かなり危ないように思う。

私は当事者でなくあくまで一歩退いた場所から見て、間接的に話を聞いているだけなので違っていたら申し訳ないのだが。


私が理想とする会社とは、バランスの良い会社。

バランスの良い会社とは、色んな価値観の元に働く人々がいる会社。

年齢、性別、言ってしまえば国籍も、例えば結婚の有無、子供の有無。

ぶちまけて言えば若い人もいる、年配の人も、独身の人もいれば、結婚している人、子供のいる人も、いない人も、或いはシングルマザーも、障害のある人もいるかもしれない。

・・・そう社会の縮図の様な会社かもしれない。

世の中には様々な生き方、考え方、価値観が存在している。

自分のものさしで計りきれない様々なものさしが存在している。

他の価値観を受け入れて各々の持っている力を発揮できる会社。

そしてそれは生活の一部であって、全てではない。

様々な価値観の元に成り立つ会社。

当然、社長の周りにもイエスマンばかりではない。

違った角度、違った視点から物事を捉えて意見を言う人々、そういう人々が社長の周りにいるかいないかが大切な事なのかも。

それがバランスの良い会社なのでは・・・

難しいよね。この資本主義社会で、厳しい食うか食われるかの時代で、理想ばかり並べても生き残るために世の中の社長達は精一杯なんだものね。

でも会社に限らず人間にとってバランスって大切だよね、どんな場合でも。





世の中は常にバランスだと思う。


人間関係も家族の在り方も、特にバランスが大事なのは企業なのでは。

会社における人間関係、自分自身の仕事にかける情熱の度合い。

難しいところだ。


社長ならともかく、社員の大半に会社に全てをかけろ・・・の様な姿勢は無理があるのでは。

私の所属している会社がそう言う傾向にあると思う。

パートの立場はいいが、社員の大半は独身で生活の殆どを仕事に費やしている。

独身がまずいのではない。

要はバランスの問題ではないのか。


以前、アルバイトで30歳ちょっと前の男の人が働いていた事があった。

もちろん3ヶ月の試用期間の後、彼は本採用になる筈だった。

真面目で仕事熱心でやる気のある若者だった。

3ヶ月が経っていざ本採用になる時、社長と中田女史とで話をした。

その時彼は社長に釘をさされた。

「これからとにかく3年間は会社に尽くせ。休みもないものと思え。もし彼女がいるならその事を話して十分理解をしてもらう様に。しばらくはあまり会えなくなるけど覚悟する様に。」


彼は悩んだ。悩んだ末に会社を辞めた。

彼女がいた訳ではない。彼女とは別れたばかりだったから。

だけど30歳を目前にして、彼には会社に自分の明るい将来像を見出せなかった。

ここで仮にがむしゃらに頑張って3年経ったとしよう。

でも3年経って果たしてどうなるのか。

会社にお手本になる様な生活をしている人物がいるだろうか。

例えば幸せな結婚生活をしているような人が・・・

社員は皆、相変わらず休みもままならない状態で仕事漬けの日々を送っている。

忙しすぎて恋も出来ない。

いや、仕事に恋していたのかもしれない。

それはそれで素晴らしい事だろう。

でも人間皆それぞれだ。温度差がある。

上の人達はそれでいいのかもしれないが、皆が皆そんな気持ちで仕事が出来るわけではない。


結局、その彼は辞める理由を架空の彼女のせいにした。

誰かが責められるの防ぎたかったからだろう、律儀な人だった。

再度、彼は中田女史とさしで話合いをした。

2時間以上は話合いをしていただろう。

戻ってきた時の彼は何だか憔悴しきっていた。

いっしょに来た中田女史が私に言った。

「今日で彼はこの会社を辞める事になりました。

挨拶してください。」

彼女は怒っていた。

彼女を前にそんな挨拶って・・・私は「お世話になりました。頑張ってください。」と言うのが精一杯だった。

慌しいも本当に嫌な別れ方だった。

彼が出て行くと、中田さんは私を呼んで言った。

「宮里さん、彼は会社を取るか、彼女を取るかの決断で彼女を取りました。

そう言うのどう思いますか?」

ヒステリックに彼女は言った。

どう思うって・・・私はそれが嘘なのを知っていたし、彼が悩んでいた事も知っていた。

「俺、社員になるべきか辞めるべきかスッゲ悩んでいるんっすよね。」

私は他のパートの人と、

「とりあえずやってみて、もし駄目なら3年て言われているけど別にこだわらなくてもいいんじゃないんですか。もし自分にとってもっと良い世界があるのならいつ転職したって。」

なんてアドバイスしていたけど。

彼は中途半端になるのが嫌だったのだ。


社長は凄い人だと思う。

会社を起してここまでにした。

社員を雇って、パートを雇って新たな事業を展開して、会社を発展させて。

何よりカリスマ性がある。

この社長の為に、と思わせる強いものがあるのだろう。

私は内部事情はよく知らないが、社長は社員を引き付ける何かがある、立派な人だろう。

そして凄く体育会系。

後半に続けたい・・・