● ACT-1
はじめてその街に訪れたのはもう20年以上も前、16歳の時だ。
高校生だった当時、オートバイ欲しさに学業そっちのけで中華料理店でアルバイトをしていた。
学校が終わって自転車を飛ばし、17:00~深夜0:00までみっちり働いた。
無論奴も一緒だ。
「どっちが先にオートバイを買うか」などとくだらない話で盛り上がっていた。
ある日その中華料理店の店主が
「お前らはよくやってくれてるから、本場の中華料理を食べさせてやる」
とこの街に連れて来てもらった。
当時のバイブル
「あいつとララバイ」の舞台の街・・横浜・・・
「行ってみたい」と思いつつも行く術を知らなかった。
今では住んでる街から電車で1時間半くらい・・通過はするが訪れたことはここ数年なかった場所。

● ACT-2
1月にしては暖かい日。
港から来る潮風もまた暑い日とは違いベタつかず心地よい。
「そう、この匂いだ!」
独特の匂い、遠い過去が思い起こされる・・・
最初に就職した会社で初めての勤務地が横浜だった。
木を扱う商社だったので、本牧ふ頭近くに営業所があった。
会社の寮は高島町・・バスで本牧ふ頭まで通っていた。

振り向くと・・マリンタワーがあった。
自分の中では忘れていた建造物。
「今でも登れるのだろうか?」
直進し山下公園の正面へ・・
気が付かないうちに山下公園入り口にある電話ボックスを探している自分に気が付いたが
その電話BOXはそこにはもうなかった。

公園内に入り・・
山下公園からのマリンタワー。
この景色は恐らく20年前とまったく一緒だ。

無かったものは、かすかに見える横浜ベイブリッジ・・
少し歩こう・・・そうだ・・中華街だ。

HOTEL NEW GRANDの前を通り、

中華街に入る・・・
● ACT-3
昔・・そうこの時期僕は華僑の人と付き合っていた。
当時彼女は高島町の古いアパートに一緒に来た友達3人と住んでいた。
6畳一間の風呂、トイレなし。
今の女性には到底無理だろう。
彼女の職場は中華街の小さな料理店。
彼女もバスで中華街まで通っていた。

中華街入り口に程近いホテル。
一度ここで食事をしたことがあった。
そのホテルを背にして裏路地を進む・・
下町のように入り組んだ裏路地だ。
恐らくここ中華街の人しか通らないだろう道。
目指したのは彼女が勤めていた料理店。
観光客相手ではなく、客はほぼ地元の人間のみ。
場所は鮮明に覚えている。
迷いなく到着したその店は名前を変えた料理店になっていた。
経営者が変わったか・・それとも名前を変えただけか?

入り口付近に立つ女孩的玩偶だ。
これはあの時からここに立っている。

隣の家は新築になったみたいだが、この辺は圧倒的に古い建物ばかりだ。

少し広い通りに出て、

右に曲がると

彼女が最後に住んでいた場所・・
まだ現存している。
外見はあの時のまま・・
● ACT-4
横浜には2年くらい住んでいた。
その間いろいろな人と出会った。
横浜というだけで、地元の友達は車で
ドライブがてら良く遊びに来てくれた。
しかし奴は違った。
どんなに寒くとも奴はオートバイで来た。
そう、1000ccのフラッグシップだ。
裏門から中心に再び向かう途中・・

この建物を見てもうひとつ思い出した事があった。

オリエンタルホテル・・まだ営業しているのだろうか?」
そういえば・・
その頃よく来た場所・・
「まだあるか?いや・・もうないだろう・・」
記憶を頼りに再び駒を進める。
忘れかけていた事が、忘れてはならない過去が・・完全に記憶の中に埋もれていた物が・・
開かなかった机の引き出しの中にあった昔書き留めたメモを一枚一枚慎重に捲る様に・・

公園の中にお寺がある場所・・を横切る。
少し右に曲がり・・すぐ左・・
この通りだ!
歩いていくと・・・・・・・やはりなかった。
確かこの辺だったがと思う場所には新築のマンションが建っていた。
「もう20年以上前だし・・」
諦めて帰路に着こうと思ったその先の路地を曲がった時だった。

いやこっちの通りだ、今度は間違いない。
横切った公園が見える・・
ゆっくりと歩く・・建物を一軒一軒確認しながら・・

あった・・・・・・
店の外見はほぼあの時と変わらず・・・・・・
何も変わっていなかった・・
ここまで来て入るか入るまいか・・迷っている自分がいた。
勇気を出して店のドアノブに手を掛け扉を開ける。
ドアに付いた鐘が
「カランコロン」と音をたてる・・
そこには老人の店主が居た。
店に入って驚いた。
店の内装はまったくといって良いほど変わっていない。
テーブル席もカウンターも・・
彼女ともよく来たし、奴ともよく来た場所・・・
彼女と来た時は奥のテーブル席だったが、奴とはカウンターが多かった。
奥のテーブル席に近いカウンターに腰掛け、ブレンドを注文した。
サイフォンに水を汲み豆をミルに掛けた時、店主はカウンターにそっと灰皿を置いた。
「俺はやめたけど吸うんだったら・・まだ時間かかるから」
僕は「吸っていいんですか?」
他のお客さんもいる、しかも女性客。
店主は「吸う吸わないは自分の勝手だが喫茶店で煙草を吸えないのはだめだ!」
もうそれ以上はお互い干渉しない。
店主との20年ぶりの会話もここまでだった・・
鞄の中から、煙草と奴の息子から預かったライターを出し
遠慮なく煙草に火をつけた。

ここは何も変わらない・・あの時のままだ・・
この珈琲の味、この煙草の銘柄・・そしてこのライター。
間違いなく20年前のこの場所に今日と同じようにこのカウンターの上にあった。
そしてこの店主と僕もこの場所に居た・・・・
ただ違うのは・・奴と彼女が居ないこと・・それだけだ。
店にはその時と同じように有線から小さな音でロカビリーが流れていた。
「お互いに生きている間にもう一度来ます・・その時自分が一番愛している人を連れて・・」
僕は心の中でそう店主に言って店を出た。
1月とは思えない暖かい風がその通りを抜けていった。
「もうすぐマジックアワーだ、暗くなる前に帰るとするか。またな!」
奴は1000ccにまたがり大通りのほうへ走り抜けていく。
僕は排気音を聞きながら、大通りへ向かって歩く。
● LAST
中華街の門をくぐりぬけ、みなとみらい線元町・中華街駅の入り口まで来ると
山下公園のほうから吹く風に乗って
「あの匂い」
が身体を包み込んだ。
今思ったことがあった。
「彼女に電話しなくちゃ」
しかし公園前にあったその電話BOXはもうなかった・・・・・・
fin
camera: Nikon FE(jank)
lens: Ai35mmF2.8
film: Fuji NEOPAN SS 100
labo: popeye camera
Special Thanks: K.M.PhotoPress.INC / Master MioMori
My memorial day 2014.05.23 It publishes again to a sake.
I love you Ami
