リンパ腫?と思った時に、可溶性IL-2受容体を出すことがあるのですが、
その正体や意義、検査特性の理解がいまいちだったので勉強
 
1. 可溶性IL-2受容体とは
2. 可溶性IL-2受容体の基準値
3. 可溶性IL-2受容体が上昇する病態
4. 使用上の注意点
 
1. 可溶性IL-2受容体とは
 インターロイキン(IL)は、白血球から産生される物質で、リンパ球や単球、マクロファージなどの免疫反応を制御しています。現在までに30種類以上が同定され、発見された順番に番号が付与されています。
 インターロイキン2(IL-2)は細胞表面に存在するIL-2レセプター(IL-2R)と結合し、細胞内へシグナルが伝達されることで、T細胞やB細胞、NK細胞、単球、マクロファージなどを分化・増殖させる働きを持っています。
 IL-2Rはα鎖(CD25),β鎖(CD122),γ鎖(CD132)の3つのサブユニットで構成されています。中でもα鎖は活性化したリンパ球で産生され、その一部が細胞表面から遊離します。それがヒト可溶性IL-2受容体(soluble interleukin-2 receptor:sIL-2R)です。
 
2. 可溶性IL-2受容体の基準値
 施設や測定方法などによって多少の違いはありますが、概ね
 100~600U/ml 程度です
 
3. 可溶性IL-2受容体が上昇する病態
 検査値が上昇するには、①分泌が増える か②排泄・分解が妨げられている ことが必要です。
① 分泌が増える病態
  1. のような機序で分泌されるため、免疫機構の活性化に伴い血中濃度は上昇します。
  1) リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫
  2) 感染症:肝炎・伝染性単核球症などのウイルス感染症、結核
  3) サルコイドーシス
  4) 自己免疫が関わる病態:間質性肺炎、膠原病、成人Still病、ベーチェット病、潰瘍性大腸炎
  5) 血球貪食症候群
  6) その他:悪性腫瘍、移植後
 また、分泌が低下するのは
 3-i)  腎障害
の時と言われています。
 特にリンパ腫の病勢評価に従来用いられたLDよりも,腫瘍量や病勢との相関性が高く有用性が高いとされます。
 上昇の目安としては、
2,000U/ml以上:リンパ腫,成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)など 
520~2,000U/ml:リンパ腫,ATLL,血球貪食症候群,間質性肺炎,関節リウマチなどの膠原病,成人Still病,肝炎・伝染性単核球症などのウイルス感染症,結核,サルコイドーシス,リンパ性白血病,肺癌などの悪性腫瘍,移植後など
 腎障害での上昇の程度は、リンパ腫に罹患していない慢性腎不全の透析患者を対象とした研究でsIL-2Rが1,000~1,800U/mlであったとの報告があります。
 
 ただ、日本の悪性リンパ腫(以下ML)443例vs.非血液疾患症例1278例を集めた単施設研究(1)では、
・初診時にsIL-2R値は,非血液疾患群と比較してML群のほうが有意差を持って高値で〔ML:中央値1330U/mL(197~84200U/mL)vs.非血液疾患:中央値827U/mL(106~18100U/mL),P<0.001〕
・中でも成人T細胞性白血病/リンパ腫〔中央値12400U/mL(607~84200U/mL)〕の値が高かった。
・ATLLを除いてもT細胞性リンパ腫はB細胞性と比べ高値を示す傾向〔T細胞性:中央値4415U/mL(274~59400U/mL)vs. B細胞性:中央値1220U/mL(197~52300U/mL),P< 0.002〕,進行期であるほどsIL-2R値は高い傾向にあった。
・非血液疾患群では自己免疫疾患,非血液腫瘍,感染症,不明熱,リンパ節腫大の症例においてよく測定されており、sIL-2Rが3000U/mL以上を示す症例が8%、5000U/mL以上の症例も約2%存在した。
・2群に対するsIL-2R値のカットオフ値を高く設定していくと,ML確定診断に対するオッズ比(カットオフ値500U/mLで1.714,5000U/mLで11.195)や尤度比(カットオフ値500U/mLで1.118,5000U/mLで8.825)が上昇し、白血球数,LDH値,CRP値を加えることによりMLの診断確度は上昇した
 以上から,sIL-2R値が高い症例ほどMLと診断される確率が高いということは言えるが、非血液疾患症例でもsIL-2R値が非常に高くなる症例(この研究では最大劇症肝炎18100U/mL)が存在し,重症感染症を併発した症例でも相当数高値の症例を認めました。そのため、高値によって診断確度は高まるが,確定診断は難しいと言わざるをえません。
 
4. 使用上の注意点 
  • 保険適応があるのは、ATLLと非ホジキンリンパ腫の病勢や治療効果の評価,再発の検出の目的で提出された場合のみ。
  • ホジキンリンパ腫の病勢評価にも有用だが,保険適応は前記の2疾患の経過追跡目的に限られている。
  • リンパ腫であっても,増殖の遅い症例や限局期の症例では,基準範囲内の値にとどまることがある
  • 一方,膠原病やウイルス感染症などで,2,000U/ml程度までは上昇することがある

  →リンパ節腫脹を呈する症例では,sIL-2Rの値にとらわれず,症状,身体所見,他の検査所見,経時的変化から総合的に判断してリンパ腫の可能性があれば,リンパ節生検などを行って診断を確定する必要がある

  • リンパ腫が寛解になっていた症例で,2,000U/mlを超えて上昇すれば再発の可能性が高いが,それ以下でも経時的に上昇するようであれば,再発を疑って,必要に応じCTやPETなどの検査を行う必要がある。
参考文献
(1) Tsujioka T,et al:Kawasaki Medical Journal. 2011;37(1):19-27. 

(2) 河合 忠ら, 4-K 可溶性 IL-2レセプター, 異常値の出るメカニズム 第6版. 医学書院. 2013;159-160 

(3) 倉敷中央病院 検査情報システム 可溶性インターロイキン2受容体

(4) シメックス プライマリケア 可溶性IL-2レセプター