こんにちは。ミニチュアドールハウス作家の谷本朋子です。

私の工房「ミニチュアドールハウスRUNA」には、時折、言葉にするのも震えるほど切実で、温かな「祈り」が届くことがあります。

今日は、あるお祖父様から託された、特別なオーダーについてお話しさせてください。

 

■ 届かなかったはずの「入学式」

ご依頼をくださったのは、若くしてお孫さんを病気で亡くされたお祖父様でした。


「もし元気に生きていたら、今年が小学校の入学式だったんです」と、静かに語ってくださいました。

お話の途中で、ふと声を詰まらせ、目に涙を浮かべながら、「孫のことを話そうとすると、どうしても涙が出てしまって…言葉が続かなくなってしまうのです」とおっしゃいました。

その一言一言に、深い愛情と、計り知れない想いが込められていました。

 

その言葉の奥にある、計り知れない喪失感。お祖父様は、革職人さんに頼んで小さなお孫さんのための「ミニチュアのランドセル」をあつらえておられました。そして、そのランドセルを飾るための「学習机と椅子」をあちこちの家具屋さんへ相談されたそうですが、「小さすぎて作れない」と断られ続け、ようやく私に辿り着いてくださったのです。

 

私自身、十数年前に次女を交通事故で亡くしています。 「なぜ、自分ばかりが……」という暗闇を知っているからこそ、お孫さんのために仏壇の側に居場所を作ってあげたいというお祖父様の想いは、痛いほど私の胸に響きました。

 

■ ミニチュアの世界に宿る「本物の質感」

ミニチュアで「木製家具」を作るには、特有の難しさがあります。 一つは、「薄く、丈夫な板材」がなかなか手に入らないこと。そしてもう一つは、木の「木目」です。普通の木材を使うと、ミニチュアの世界では木目が大きく出すぎてしまい、不自然な印象になってしまうのです。

 

幸いなことに、私共は日頃からお世話になっている地元八王子の工務店(健組)さんとのご縁があり、今回の制作にぴったりの、繊細な木目を持つ上質な板材を入手することができました。

 

大切な記憶を預かるからには、細部まで妥協はしたくありません。お孫さんがそこに座っている気配を感じていただけるよう、丁寧に、形にしていきました。

 

 

■ 小さなサプライズに込めた願い

制作を進めるうちに、私の心の中にお孫さんの姿が浮かんできました。 

 

「ランドセルがあるなら、勉強道具も必要だよね」そう思い立ち、サプライズで机の上に載せる教科書、時間割、そして小さな文房具も手作りでセットさせていただきました。

 

私の作品にはあえて人形を置きません。 それは、見る方の心に「想像の隙間」を残すためです。その隙間に、ご家族の皆様が、お孫さんの楽しそうな笑い声を自由に描き込んでほしい。そんな願いを込めて、机の上を彩りました。

 

 

■ 涙とともに、止まっていた時間が動き出す

お引渡しの後、お祖父様から涙の出るようなメッセージをいただきました。

 

「机が届き、娘の家のカウンターにちょうど収まりました。仏壇に手を合わせ、涙が止まりませんでした。小物がとても可愛くて……。無理を言って申し訳ありませんでしたが、本当にありがとうございました」

 

写真には、仏壇の側で、ランドセルを載せた学習机が写っていました。

 

「人は話すこと、そして形にするこ     とで救われていく」のだと改めて確信した瞬間でした。ミニチュアという小さな窓を通じて、天国のお孫さんへ「おめでとう」の気持ちを届けるお手伝いができたのなら、作家としてこれ以上の幸せはありません。

 

「知られていないことは、存在しないことと同じ」

 

失われた景色や、叶わなかった未来を形にすることで、誰かの新しい一歩の背中を押す。私はこれからも、あなたの大切な思い出を手のひらサイズにしてお届けし続けます。

 

もし、あなたも心の中に「残したい景色」や「届けたい想い」をお持ちでしたら、どうぞ私に聞かせてください。一緒に、物語を形にしていきましょう。