亜紀さんは、会社の同期で何回かスキーをやったことがある、って女の子と一緒にうちのクラブのツアーに参加することになった。
「スキーする時って、どんなかっこするの?靴とか、何履いたらええん?」
「ん~、ウエアとか手袋とかゴーグルとか、そのへん一式は誰かに借りれると思うし、板とスキーブーツもレンタルで大丈夫だよね。だから、スキーウエアの中に着るもんだけ用意してこればいいよ。」
「だからあ。そのスキーウエアの中が、みんなどんなかっこしてんのかがわからへんねんてば。スキーブーツって運動靴履いてから履くん?」
さすがに、俺もこけた。スキーやったことない人って、そんなとこからわからないんもんなんだ。
俺は亜紀さんに、厚手の靴下やフリースのトレーナー、脚はスパッツか厚手のタイツでも用意したらいいんじゃないかと教えてあげた。
さて、スキーツアー当日。亜紀さんの友達は、多少は滑れるってことで子供達と一緒のグループに入り、亜紀さんは全くの初心者ってことで、とりあえず初日は指導員の資格を持っている信介さんに一から教えてもらうことにした。それこそ、ブーツの履き方、板の履き方、立ち方から、って感じで。
「じゃあ亜紀さん、スキーの板を履く時は、ブーツの底に雪がついてるとうまく履かれへんからね、まずブーツの雪をちゃんと落とすようにしてください。こんな風に、ストックでこんこん、ってブーツ叩くと雪が落ちるから。」
亜紀さんは、言われて申し訳程度にブーツを叩いているがとても雪が落ちるような叩き方ではない。まあ、初めてのことだからそんな力加減もわからないんだろうけど。
スキー板を履こうとするけれど、ブーツに雪がついたままだから、当然うまく履けずにもたもたしている。
「あ~、まだ靴に雪がついてるんやわ。足、ちょっと見せてみ。」
親切な信介さんは、かがんで亜紀さんの足をかかえ、靴の裏についている雪を落としてやっている。まるで、じいやだ。
しばらく平地で板の扱いに慣れさせた後、信介さんは亜紀さんを初心者コースのリフトに連れて行った。
リフトの乗り降りは実はスキー初心者にとっては最初の難関だったりする。乗り場や下り場は微妙に傾斜だったりするし、通路の幅もせまくて人が前後にいるから、初心者には身動きとるのも難しい。
案の定、亜紀さんはリフト乗り場に続くちょっとした傾斜で立ち止まって順番を待っていることができず、ずるずるとずり落ちていってしまう。あんまり運動神経がいい方ではないらしい。信介さんが必死で抱きかかえるようにして亜紀さんをひきづり、リフトに乗せていた。
「全くの初心者って、大変だよなあ・・・信介さん、面倒見がいいから大丈夫だけど」と俺はちょっと離れたところから様子を伺っていた。
リフトから下ろされると、一応亜紀さんはよちよち歩いてコースの上までやってきた。
「亜紀さん、ほしたら、そこで足をハの字に開いて立ってみて。」と、ボーゲンから教えるつもりで信介さんが声をかけた。
「ハの字、ですね?」
亜紀さんは、ちょっと斜面から乗り出しすぎた。でもって、多分、どこをどうふんばったら斜面で止まっていられるのか、全く感覚がつかめていなかったに違いない。
亜紀さんが板をハの字に開いて下を向いて立ったたとたんに、板が滑り出してしまった。
「げっ!?」「まずいんちゃうん?」俺は亜紀さんの後ろに立ってた信介さんと顔を見合わせた。
びゅーっ。板をハの字にしたまま、亜紀さんの体は直滑降でどんどん斜面を滑り下りていってしまう。
「お~い、亜紀さん、止まれ~!!」
信介さんが叫んだが、無理な話である。ここで止まれるくらいなら、最初から滑り出しちゃったりはしないだろう。
亜紀さんは、直滑降のまま、転ぶことも曲がることもせずに斜面の一番下まで滑っていってしまった。
それ以上滑っていくと、レストハウスにぶつかりそうな勢いだ。
「ぶつかる!」と俺達が思った瞬間、亜紀さんが転んだ。足をとられて、とか、つまづいて、とかって感じではなく、まるでスライディングでもするかのように横っ飛びに転んだ。
信介さんと俺は慌てて亜紀さんのところに滑って行った。
「亜紀さん、大丈夫!?」
亜紀さん、開口一番
「スキー、めっちゃおもしろい!びゅーって滑るん、めっちゃ気持ちい!!」
信介さんが恐る恐る聞く。
「転んだけど、大丈夫か?足、ひねったりしてへんか?」
「大丈夫やよ。だってちゃんと自分で転んだから。私、止まり方わかれへんからさ、こりゃ転ぶしかないなあ、と思って。転んでも痛くなさそうなとこ選んでわざと飛びこんでん。」
「・・・」
「なあ、最初っから転ばんとこんなに滑れるなんて、私もしかしてスキー向いてるかもしれへんなあ?」
本人はニコニコご満悦な様子だが、俺や教えていた信介さんは冷や汗もんだ。
「よし、亜紀さん。まずは止まり方から練習しような。」
気を取り直して信介さんが言う。
「あ、ついでに上手な転び方も教えてください。」
まあなんにせよ、亜紀さんが初スキーを楽しんでくれてるみたいで俺はほっとした。
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