ラースが彼女と思い込んでいるのはダッチワイフのビアンカ。
彼を心配する兄夫婦が、精神科医のアドバイスから人間として
受け入れ始め、やがて街全体が彼女を認めていく。
ビアンカを通して、ラースを取り囲む街の人たちの優しさに
ほんのりできる作品。
ラースがどれだけ愛されているか、
街の人から大切にされているかが、
観ている人にもジン、と伝わってきます。
寒い冬にさびしく一人でみているとラースにも感情移入できますし、
一見、無愛想にも感じられる兄にも、
過去の罪悪感による態度だと視聴者にきづかせた後は、
やはり優しさに溢れた人間の一人であると思わせてくれます。
すると、自分も多くの人に愛されているだろう事に
あらためて気づかされる素敵な作品です。
シネスク批評のように、ゆっくりと時間を過ごしたいときに
おすすめできる一本!
<シネスク>
初期設定は面白いが、後が続かない映画は結構ある。理由は、表面的な面白さに囚われているからであり、2時間近くもある映画に対して、その手法では観客の関心を引き続けることは困難だ。そういう作品はイロモノ扱いをされ、駄作の烙印を押されてしまうことが多い。本作『ラースと、その彼女』も初期設定が面白い。心を閉ざした男がインターネット通販で購入したリアルドールを人間の女性と思い込んで恋をするという初期設定は、リメイクだらけでオリジナリティが失われたハリウッドの中でも類を見ないストーリーであり、かなり興味深い。しかし、初期設定のインパクトがゆえに、2時間近い映画作品としては、成立させるのが難しいのではないかと考えていた。しかし、そんな予想は良い意味で裏切られることになった。
ラースは幼い頃からのトラウマで人を寄せ付けずに暮らしている。そんな彼を心配する兄夫婦は何とか彼をまっとうな生活に戻そうと画策するがやはりうまくいかない。そんなある日、ラースがインターネット通販で買ったリアルドールを、生きている人間、しかも自分の彼女だと紹介してきたため、いよいよ危険な状態だと判断した兄夫婦がラースを病院へ連れて行くことになる。ラースを診た医師がこの状態を肯定していくことがラースの回復に繋がるという診断を下したため、兄夫婦は町中の協力を要請して、ラースの彼女を生きている人間として扱うことになる。
序盤のイロモノ展開から温かみのあるヒューマンドラマへ。ここに本作のポイントがある。現代社会では失われてしまいつつある他人に対する愛情や優しさを、本作ではラースと、人形である彼女に対して、彼の周囲の人たちが愛情を持って接するという形で表現している。町の誰もがラースの彼女ビアンカを肯定し、それによって動かされていくラース。冷淡な現代社会に対するパンチの効いた風刺でもありつつ、もっと穏やかで、ふと何かに気付かせるような緩やかな主張を感じながら、過ごす時間は非常に心地良い。


