久しぶりに誠二くんの部屋に来ていたある日のこと。
「え、アメリカに?」
予想外の誠二くんの言葉に私は思わず聞き返す。
「おー…まあちょっと本社に顔出してくる程度だし、あっという間に帰ってくるけどな」
なんでも、誠二くんの会社で小さなトラブルがあり、明後日から本社に戻らなければいけないということだった。
「そっか…どのくらい?」
「はっきりとは言えねーけど…まあ二週間くらいだろうな」
(二週間…)
たったそれだけの期間がなんだかとても長く思えて、つい気持ちが落ち込む。
すると、誠二くんが私の髪をくしゃっと撫でて、困ったように笑った。
「バカ、そんな寂しそうな顔すんな」
「あ…ごめん」
慌てて笑顔を作ると、誠二くんが首を振る。
「いや…俺こそ急で悪い。なるべく早く帰れるようにすっから、いい子で待ってろよ」
「うん…」
私が頷くと誠二くんが私の肩をそっと抱き寄せて、あやすように触れるだけの口付けを落とす。
(こんなに想ってもらってるんだから、寂しいなんてことないな…え、でも二週間後って)
私はあることに気づいて、あっと顔を上げた。
「どーした?」
「その…誕生日には帰ってこれる?」
そう、明後日から二週間後はちょうど誠二くんの誕生日だった。
私の言葉に誠二くんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「だから二週間で帰ってくるっつったんだろ。今年の誕生日は死守するって約束したじゃねーか」
言いながら誠二くんが私の頬を愛おしげに撫でた。
(去年の誕生日の最後に言ったこと…覚えててくれたんだ)
「うん…!じゃあ誠二くんが帰ってきたら真っ先にお祝いするからね。お仕事頑張って」
「おー。楽しみにしとく」
そう言って顔を見合わせて笑い合うと、どちらからともなく顔を寄せる。
幾度となくキスを交わし、いつの間にか寂しいと思う気持ちは消えていた――。
* * *
そして10月24日。
昼前の便で帰ってくる誠二くんを出迎えるために空港へ向かった。
(もうすぐだよね…帰ってきたら一番になんて言おう?というか、なんだか誠二くんに会うのすっごく久しぶりな気がする…)
あれこれと思いを巡らせながら、私はそわそわと到着ロビーの電光掲示板を見上げる。
ところが――
予定時刻を一時間近く過ぎても飛行機が到着しない。
(途中で何かあったのかな…?ただ遅れてるだけならいいんだけど…)
誠二くんとしばらく離れていたせいか、いつもより心配症になっているようで、不安な気持ちに襲われる。
ロビーで待つこと二時間、いよいよ心配になってきた頃にやっと誠二くんが乗っている飛行機の到着アナウンスが流れた。
そろそろ入国審査も終わって出てくるだろうという頃に到着ゲートの前へ向かうと、ちょうど誠二くんがこちらに向かって歩いてくるところだった。
「誠二くん…!」
私は思わず走り寄って、迷わず誠二くんの胸に飛び込む。
「今日はやけに大胆だな。そんなにご主人様の帰りが待ち遠しかったのかよ」
誠二くんは呆れたように笑いながらも、ぎゅっと強く抱きしめ返してくれた。
「だって、たったの二週間だったのになんか寂しくて…」
つい本音を零すと、誠二くんが優しく私の髪を撫でる。
「寂しい思いさせて悪かったな。帰りも向こうにハリケーン接近してて遅れてたんだ。連絡できなくて悪かった」
「そうだったんだ…ううん、よかったトラブルとかじゃなくて」
私はほっとして誠二くんを見上げると、今度こそにっこり微笑んでみせる。
「おかえり、誠二くん」
「ん、ただいま」
誠二くんがこの上なく優しく笑って、私たちはそっと触れるだけのキスを交わした――。
「そういえば誠二くん、荷物は?」
出口に向かって歩き始めたところで、出かける時に持っていた大きなスーツケースがないことに気づく。
「ああ、家に届けてもらうように手配しといた。それよりお前連れて行きたいとこあるんだ、付き合えよ」
「うん、もちろん…!でもどこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみだな」
そう言って誠二くんはにやりと笑うと、私の手を引いて歩いていく。
そしてバイクの駐車場に着くと、私にヘルメットを渡した。
「去年約束しただろ。来年はお前後ろに乗っけてツーリングしようなって」
「覚えててくれたんだ」
「当たり前だろ。ほら、しっかり掴まっとけ」
言いながら誠二くんが私の腕をしっかり自分の腰に回させる。
密着した距離にドキドキしながらも、私は幸せな心地で誠二くんの背中にそっと額を重ねた――。
バイクで走ること約二時間。
「ほら、着いたぞ」
誠二くんがバイクを止めて、私の手を取って降ろしてくれる。
「わぁ…!綺麗…」
高台から見える夕日の美しさに、私は目を細めた。
「この辺は学生時代によく走りに来てたんだ。人全然いねーし穴場なんだよな。久しぶりに来たかったってのと…そのうちお前とこの景色見たいと思ってたからな」
言いながら誠二くんが私を後ろから包むように抱きしめる。
「そうだったんだ…連れてきてくれてありがとう、誠二くん。それから…お誕生日おめでとう」
私は体を反転させて誠二くんと向き合うと、にっこり笑って言う。
すると、誠二くんが少し驚いたように目を見開いてから、優しくふっと笑った。
「おー。ありがとな」
そして私の髪をくしゃっと撫でる。
それからそのまま私の頬をそっと包むと、口を開いた。
「結局半日になっちまったけど…今日お前と過ごせてよかった。隣にいてくれて…ありがとな」
誠二くんのまっすぐな言葉に、思わず目頭が熱くなる。
「っ、うん…私こそ、いつも誠二くんの側にいさせてくれてありがとう。大好きだよ」
「バーカ」
憎まれ口を叩きながらも、私を見つめる誠二くんの視線はどこまでも優しくて。
誠二くんがそっと唇で私の目尻の涙を拭ってくれると、そのまま額に頬に、そして唇にもキスが降ってくる。
唇が離れると、私たちは額をこつんとくっつけて笑い合った。
「…まだ誕生日終わりじゃないからね?家に帰ったらプレゼント渡すから楽しみにしてて」
私がそう言うと、誠二くんがにやりと笑う。
「へぇ…『私がプレゼント』ってやつか?下僕のくせして随分大胆になったな」
「ち、違っ…そんなんじゃなくてちゃんと用意したんだからね!」
「冗談。楽しみにしてる」
そう言って優しく笑うと、誠二くんが私の肩を抱き寄せてまた唇が重なる。
大好きな人の誕生日を一緒に過ごせる幸せを噛み締めながら、ゆっくり沈む夕陽を背に私たちは何度もキスを交わした――。
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-あとがき-
こんにちはお久しぶりです。ちゃなです。
更新毎度毎度遅くなってしまい本当に申し訳ありません(土下座)
かなーり過ぎてしまいましたが、誠二くんバースデーに書いたものをこちらにもあげておきます。
大好きな誠二くんのお誕生日に間に合わせるために猛スピードで書き上げたので…ほんの少し修正かけてあります。
このあといちゃいちゃしてるエピソードもあるんですが、一応R-15指定付けてしまったのでpixivにのみあげています。もしよければお越しください(笑)
最近イケシリ以外でもSSに着手しつつあります。
色々書けるようになりたいなーと思う今日この頃です。
アメブロの更新もできるだけスピードアップできるように頑張ります(笑)
長文お読み頂きありがとうございました:)
ちゃな。