カイが好きになった人。

それは、同じギルドの人だった。


わたしたちよりも更に数ヶ月遅れて入ってきた人。

名前は、さくらさん。


春のさくらのように明るい空気の人で、

ギルドにもあっという間にとけこんでいた。

どちらかといえば人見知りなわたしより、

彼女の方がギルドの一員っぽかった。


* * *


このゲームには、プレイヤーひとりひとりの小部屋があって、

みんな、思い思いにその部屋を飾る。

飾った部屋には、仲間を呼ぶことができる。


カイは部屋の模様替えが好きで、いつも家具を探して冒険に出ていた。

模様替えしたのを人に見てもらうのが好きで、色々な人を部屋に呼んでいた。

わたしも呼ばれたことはあった。


彼は、さくらさんの部屋を気に入ったみたいで、

頻繁に訪れていたみたい。

わたしも入ったことのある彼女の部屋は、

飾り気はないけどシンプルに整えられていて、センスがよかった。


* * *


自分の気持ちを自覚したのはよかったけれど、

普段の彼女の人柄と、その部屋のたたずまいで、

わたしは早々にあきらめた。


彼女に勝てるはずはない。

ゲームで出会った人を好きになるなんて周囲が見えてない。


そう自分を戒めて。


ある日、いつものようにログインしたら、
わたしより先にカイがいた。

珍しく歯切れが悪い。
それに、普段なら彼が帰ってこられる時間ではないはず。

体調が悪いのかと思って話を振ってみた。

薫:「今日どうしたのー、なんか妙に早いじゃない」
カイ:「仕事が手に付かなくってさあ。定時で帰ってきちまった」
薫:「なになに、恋わずらいでもしてんの?w」
カイ:「・・・そーみたい」

ありゃ。

その瞬間、わたしはなんだか違和感を感じた。
思えばそこからが全ての始まりなのかもしれない。

そんなカイと、どうやって仲良くなっていったのか、
正直わたしはもうあんまり覚えていない。

ただ、ギルドの中で活発に活動している人がそう多くない中、
二人とも、ほぼ毎日決まった時間にログインして、決まった時間にログアウトしていた。
ログイン時間はわたしの方が全体に長く、
わたしがログインしている間にカイがログイン・ログアウトする感じだった。

* * *

時間が合う、それはとても偉大なことで。
わたしたちは、ギルチャでよくしゃべった。
耳打ちでも話す機会が増えたように思う。

あとから聞くと、この頃カイはわたしのことを男だと思っていたらしい。

それは仕方の無いこと。
ネット上では、相手の実性別が女とわかると、
途端に纏わり付くようになる人種は少なくない。
それを避けたくて、わたしは敢えて性別を感じさせないようにしていた。

* * *

この頃、わたしはカイに対して友情を感じていた。
カイは今までわたしが関わった人の中で、
人間的には、トップクラスの常識人だったから。
(いわゆる一般常識となると、人間誰しも抜けているものなので、敢えてノーコメント)

* * *

[ログイン]
ゲームに参加すること。
[ログアウト]
ゲームから離脱すること。
[ギルチャ]
ギルド・チャットの略。
同じギルドに入っている人だけで話す機能。
[耳打ち]
特定の相手と1:1で話す機能。