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70&80年代アイドルが放ったアキウタと言えば、それこそここに書ききれないほどに名曲や傑作が多かったもの。それらは当然の如くヒットチャートを賑わし、僕らを楽しませてくれたものである。しかしながら、ハイクオリティなアキウタでありながらも…残念ながらイマひとつ光があたらなかったチューンなんてのもあったもの。まぁ、あれだけの数のアイドルがうようよと存在していたあの時代…売れない人が出てきてしまったのはいた仕方ないことだったのかもしれませぬ。

そのようなワケで今回は、あまり光があたらなかったけれども良質なアキウタとして、その存在感をキラリと放つという、あの方が放ったこの1曲をレビュってみたいと思うのでありまする。ちなみにこの方のことを書くのは当ブログお初の試み…だったりもする。(笑)

表題の「オータム・リップス」は浅倉亜季ちゃんのシングル第2弾として、1986年9月21日に発売されたチューンである。浅倉亜季ちゃんと書いても「憶えてない~」なんてコメントをしこたま頂戴しそうな気配がムンムンとするので、まずは彼女について少しばかり補則を入れ込みまする。

【浅倉亜季】

本名:大倉亜季
デビュー曲:「南の風・夏少女」
デビューのきっかけ:「ミス南ちゃんコンテスト」優勝
おもな出演歴:ローソンのCM、月曜ドラマランド「ナイン」「タッチ」(フジテレビ)

こんな方だったのでゴザイマス。ここまできてようやく「あっ、あの子かぁ!」と古い記憶がムクムクと甦ってきたわん!なんて方も多いことかと思われ。

1986年当時と言えば、あだち充さんのマンガ「タッチ」が異様な人気を博しまくり、ソレのアニメ版で浅倉南役をアテレコした日高のり子さんまでもがC級アイドル→A級声優へまさかの再生をカマしたのを皮切りに、そのアニメの主題歌を担当した岩崎良美さんまでもがこれまでのアイドル人生で果たせなかった20万枚の壁超えを達成するなど…とにもかくにも「タッチ」フィーバーが巻き起こっていた頃である。アニメ「タッチ」を放映したフジテレビは、なんと同局の報道枠で「南ちゃんを探せ!」なるコーナーを設ける悪ノリっぷり。まぁ、それだけ「タッチ」がお茶の間において話題の的になっていたということになる。

そんな中で「真の浅倉南ちゃんを探してアイドルにしよう!」と躍起になった(←金儲けを企んだ?)のかなんなのか…1986年3月に「ミス南コンテスト」なるオーディションが開催されることになったのである。この大会で約10万人の応募者の中から白羽の矢を射止めたのが、本レビューの主人公である浅倉亜季ちゃんだったのでゴザイマス。

彼女のアイドルデビューは1986年5月21日。えっ?ということはコンテストで優勝してから僅か2ヶ月ほどで歌手デビューをカマしてしまった…ということになる。コレはちょいと前の時代では考えられなかったことか。なんせ昔は厳格なセンセイの下、みっちりとレッスンを積み、その苦しみに耐えながらやっとこさデビュー…ってのが定番コースになっていたもの。しかし時代は1986年…そう、あの‘素人女子集団’がソレまでのアイドル像をガシャ~ンと打ち砕き、大嵐を巻き起こしていた頃である。しかも本レビューの主人公、亜季ちゃんの所属レコ会社はその集団と同じ…

ポニーキャニオン

とキたもんだ!コレなら早急デビューに関してはご納得事項…でゴザイマスよね。(笑)

さて、そんな亜季ちゃんのシングル第2弾「オータム・リップス」は、作詞を売野雅勇氏が手がけ作曲を芹澤廣明氏が担当した1発。このコンビと言えば…そう、中森明菜さんの「少女A」を皮切りにした一連の青い性モノをウブな女性アイドル達に歌わせて当てまくった…というコンビである。ということは亜季ちゃんのこの曲もソレに沿わせたような...

あ~ん、秋(亜季?)のくちびる…もうウレウレなのよん!

といったことをモンモンと訴える作品なのかと思いきや、これがかなり意表を付く作品になっていたりもするからビックリコンコンなのである。

イントロの時点から「うおっ!」っと思わせてくれる、実にポップな印象のメジャー調。このコンビにおける女性アイドル作品としては、こういう曲調はめずらしい方だったりもする。しかも単にポップなだけじゃなくってよ。当時のアキウタとして必須条件だった‘切なさ’感だってちゃんと注入されてるんだから。

♪学園通りの並木 あなたの後ろを歩く
 制服の胸が 苦しいの

♪今日はあなたの視線が少し 
 怖くて並んで帰れない

こうして字ズラだけ見ると、いつもの定番‘売野’作品といった風情が無きにしも非ずなのだが、こうした歌詞に意外なほどに明るいメロを宛がった芹澤氏。亜季ちゃんと言えば、そのチャームポイントは…

く・ち・び・る

でゴザイマシタよね。もちろん「ミス南コンテスト」で優勝をかっさらった方だもの…「タッチ」の南ちゃんに雰囲気が似てる!ってのも売りだったのだけれどもネ。く・ち・び・ると言えば、他にも同じ場所で売っていたお方が若干1名。そう、1984年に「H-i-r-o-s-h-i」という曲で華々しくアイドルデビューを飾り、新人賞の筆頭株(←最初はネ)として気を吐いた渡辺桂子ちゃん。その彼女と亜季ちゃんはなんとなくイメージがカブるというか…やはり口元がよう似てはりましたもの。でもってデビュー曲は両方とも売野センセイの作品、しかもセカンドシングルだって両方とも彼。しかも桂子ちゃんはデビュー曲のB面で「夢見る唇」という曲をカマし、亜季ちゃんはセカンドで「オータム・リップス」だものねぇ。要は共通点がしこたまなお二人さんだったのでありまする。ワタクシメだって最初に亜季ちゃんをテレビで観た時は‘桂子の再来’をビビっと感じたものでゴザイマシタ。

そんな‘く・ち・び・る’がチャームポイントならばと…売野センセイはソコにこだわりまくり、こんな歌詞を。

♪秋の唇は夕陽の赤より
 切なく燃えてます
 キッスをした夢を見るたび涙が
 色づくのね オータム・リップス

いつものオドロオドロで攻撃的なマイナー調でもイケそうな歌詞?と言われればたしかにそうなのだが、前出の桂子ちゃんでソレをカマして失速を招いたことだし…って皮算用?コチラはあくまでも明るくてポップで…でもそれでいてちょぴっと哀愁味を感じるメロ。桂子ちゃんの失速を招いたのは他センセイの作曲によるものだったが、芹澤センセイはそうした過去の似たキャラにおける失敗をも顧みてこの明るいメロを…?要は売野センセイ独特の青い性っぽさを歌詞中にどことなく秘めながらも、あくまでもポップさを追求し、純度の高いアイドルポップスに仕上げました~と言わんばかりの作風が◎だったりもする。

浅倉亜季ちゃんはデビュー曲も同コンビによる作品だったが、ソチラでもあくまでもさわやかさをいの1番に追求…といった形が取られており、このコンビにおける‘いつものコース’を歩まされることはなかった彼女なのでゴザイマシタ。

この曲は新人賞レースの参加曲としてあちらこちらでもお披露目されたチューンなので、ここまで読んで「思い出した、この曲!」という方も多いかと思われ。ベレー帽を被りキュートにコレを歌う亜季ちゃんが、なんとも可愛かったものである。メディアではそこそこのお披露目もあり、楽曲自体の出来もなかなかだったにもかかわらず…この曲がヒットした形跡は見当たらず。どうやらレビュー冒頭で記述った「あまり光があたらなかったアキウタ」そのものになってしまったようでゴザイマス。

アイドルとして活動中の亜季ちゃんは、とにもかくにも‘あだち充’づいていたもの。ワタクシメが記憶してるだけでも…

●デビュー曲「南の風・夏少女」はアニメ「タッチ」の挿入歌
●フジテレビ「月曜ドラマランド」で「タッチ」「ナイン」にご出演
●ミュージカル「タッチ」のヒロイン役
●アニメ「陽あたり良好」の主題歌をそのまんまの題名でリリース

などなど…どれもこれもがあだち絡み。まぁ、南ちゃんとして選ばれた時点であだち絡みなお仕事契約がてんこもりになっていた…のかもしれませぬ。それにしてもこんだけプッシュされ、ビジュアルだってなかなかイケてた(←もちろんく・ち・び・るもネ)亜季ちゃん。なのにあんまり話題になることもなく、あっさりと芸能界から去ってしまったのは…やっぱりおニャン子一色という‘時代’のせいだったのか。まさか亜季ちゃん自身も…

♪今日はあなたの視線が少し怖くて並んで帰れない

あの幅を利かせた集団により、アイドル界では隅に追いやられてしまったのかしらん。(笑)

亜季ちゃんは所属レコ会社だってポニキャニ、だったらいっそのことおニャン子にネジ込んで売ってあげたらよかったのにぃ。そしたらこの曲だってかる~くオリコン1位の座を頂戴できたであろう…おニャン子のソレラと比べたって全く遜色ない出来栄えの「オータム・リップス」なのでありまする。ちなみに亜季ちゃんが優勝した「ミス南コンテスト」において準優勝の座に甘んじたのは、おニャン子の生稲晃子ちゃん。なんだ…じゃあ亜季ちゃんは準優勝しておニャン子入りしてた方が結果オーライだったんじゃないのさ!優勝の意味ないですがな「ミス南コンテスト」ったらば…プンプン!

☆作品データ
作詞:売野雅勇 作曲:芹澤廣明(1986年度作品・ポニーキャニオン)