落第就活1
3月。街中では袴を着た卒業生達が、友達と楽しそうに会話をしている。大学4年生だろう。「付き合ってきた友人との会話も楽しそうだけど、どことなくこれからの新生活のことを考えて、心ここにあらずという感じ、かな。」2階のカフェの窓際の席から行き交う人達を見つけては、そんなことばかり考えている。本当は、就活の企業研究をしなければいけないのに、一向に進まない。飲んでいたラテも飲み干してしまったが水で粘るしかない。就活でバイトに入れないので、お金がほとんどないに等しい。この時期のカフェは私と同じように就活をしている、就活生の姿を異様に見かける。「どこにエントリーしたの??」とか話しかけたい気もするが私にも余裕がないし、面倒くさい。少しすると、「千夏ー!」という声ととともに、親友・恵美の姿。階段を勢いでかけ上ってきたのか、やたらぜいぜいしている。「千夏!聞いてよ。こないだの企業説明会でさ、めっちゃカッコいいイケメン社員がいてさ・・」と恵美はいつもこんな感じ。会社説明会の社員のイケメン探しか、就活生のイケメン探しばかりしている。恵美は容姿端麗で、留学経験もある。一流ホテルでバイト経験もあって、どうやらCAの仕事に就きたいらしい。今受けているのも航空会社をメインに受けているとか。「恵美、いつもそんなこと言ってて、企業研究とかちゃんとやってんの??」自分のことを棚に上げて人のことを言ってしまう、悪い癖。「当たり前じゃん。航空業界のこととか、ちゃんと調べてるよ。そんなこといって千夏はどうなの??行きたい業界見つかったん?」と逆質問。痛いところを突かれた。四季報で直前に見ていた大手印刷会社の日半印刷とノイズ製菓、飲料メーカーのマリンの3社を思いつきで答えた。「大手ばっかだね。業界とか軸とか絞らないの?」と言われたが、私は恵美のように行きたい業界もやりたいことも一切ないのだ。内心はそんなことを思いながら、口に出すのも恥ずかしい。「とりあえず知っている会社を受けてみて、就活する中で絞っていこうかなって思う」と伝えた。すごく居心地が悪く、来たばかりの恵美を残して、「ごめん。私そろそろ行くわ」と言ってカフェを立ち去る。本当は企業研究をしないといけないのに、3時間カフェにいても一向に進まなかった。進まないどころか、どこの会社も同じように見えてくる。それだけではなくて、自分のやりたいことなんて一向に見えてこなくて、自分がなんの価値もないような人間に思えて来る。カフェに行くと帰り道はこんな感じで、欠乏感でいっぱいになるのだ。つづく..