どれ位、前の事だっただろう。

僕が、その盲導犬に。
初めて会ったのは。

彼女は黒のラブラドールレトリバー。
まだまだパピーで。
美しく滑らかな被毛は、ピカピカに光ってた。

人懐こくて。甘えん坊。目はうるうる。
待たされると、寂しくてクンクン鳴いて。

父も母も盲導犬。そんな彼女は。
あの時まだ、正式に盲導犬になる、訓練中だった。

数年経って、再び目にした彼女は。
それは立派な盲導犬になっていた。

何にも気を散らさず。もちろん鳴かずに。
立派な伏せで、いつでも主を待っていた。
真っ直ぐで透明なその目は。
成犬盛りの、生き生きしたものだった。

あれから何年経ったのか分からない。
今日、久々に彼女に会った。

彼女の真っ黒な被毛には。
かなり多くの白髪が交じり。
穏やかで静かな、老犬の眼差しだ。

トイレを失敗したようで、戸惑っていた彼女に。
少しの不安と悲しみが見えた気がした。

人に尽くした一生。それでもきっと、彼女は。
自分の仕事が誇らしかっただろう。
どんなに厳しい訓練も。
褒められるのが嬉しくて、頑張ったんだろう。

飼い犬とは段違いの訓練を受けたであろう彼女。
トイレの失敗なんて、仔犬の頃以来かも。

彼女の戸惑った目が、僕から消えない。

どうか。彼女が誇りを失いませんように。
どうか。彼女が誰より幸せでありますように。

主の愛が、条件付きの愛なんかじゃないのだと。
彼女の心に、しっかり届きますように。

たくさんの愛が、永遠に。
永遠に。彼女を包みますように。