第二話
私が教室に戻ったのは、四時間目が終わった後の昼
休み開始直後だった。
「香恋!大丈夫?」
すぐに美帆が駆け寄ってきてくれて、ボールのぶつ
かった箇所をなでてきた。
「ちょっとタンコブ出来たくらい。だから平気だよ
」
「下山兄弟がすぐに連れてったからさ、すごい不安
だったんだけど、先生に行かなくていいって言われ
たからさー」
美帆は不満そうな顔をして唸っていた。その時、い
つものように千暁が教室に入ってきた。
「あ、もう平気なの?」
私を見つかるや否やこちらに話しかけてきた。非日
常的な事態にクラスのほとんどがこちらに注目する
。
「えっと、あ、うん。大丈夫…です」
「ははっ、また敬語!タメ語にしようよ!!」
クラスのみんながこちらを見ている。注目されるの
が苦手な私は黙り込んでしまった。冷や汗が流れる
。
そんな私を察して美帆が前に出てくれた。
「香恋に手なんか出してないでしょうね!千暁も七
生も!!」
「ちょっと話しただけ、ね、七生」
千暁に促されて七生は頷く。大声で話していて注目
は集めているものの、私からは目がそれていた。そ
れで私はホッとしていた。
「そういや香恋さ、まだ体育着じゃん。着替えに行
こ。付き合うよ」
「ありがと、」
美帆に肩を押されて教室を出ていく。
「まったねー」
軽く手を振って千暁と七生が送り出してくれる。い
つのまにこんなに仲良くなったのかな……
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「いつの間に仲良くなったの?」
美帆から私自身の疑問を投げかけられた。
「さっき、保健室でちょっと話したくらいだけど…
。私もなんでこうなったのかわからない。」
「何それ」
呆れたような笑いで美帆が話を聞いてくれる。
着替えながら気になるとこを思い出した。
「美帆、七生君が喋ったところ、見たことある?」
「あるわけないじゃん。この学校では下山兄と下山
父だけじゃないの?」
実は、この学校には下山兄弟の父、下山悠が教師と
して働いている。集会でしか見たことがないが、日
本とフランスのハーフらしく、千暁の持つ碧眼。七
生の持つ栗色の髪である。三年生の担任で数学担当
。なので一年生の私たちとはあまり関わりがない。
「今日、声聞いたかもしれないんだ」
「えっ、どういうこと!?」
保健室であったことを美帆にすべて話した。まぁ、
一番重要な部分は最後のところだけど。事の成り行
きを誰かに聞いてほしかった。
「聞き間違いじゃないの?一瞬だったんでしょ?」
「そうなんだけど……」
あの声は千暁のものではないし、三人以外その空間
にはいなかった。
「聞き間違いじゃない、と思う……」
「まぁ、香恋が言ってるなら本当だろうけどね」
着替えた後に一緒に持ってきた昼食を中庭で食べる
。実は中庭での昼食は初めてだ。
他愛のない会話で時間がすぐに過ぎて、五時間目の
授業が始まる時間になった。ギリギリで教室に戻り
、急いで席につく。
ちらっと七生のほうをチラッと覗いてみたが、いつ
も通りの無表情で黒板を見つめてる。と思ったらい
つの間にかこちらを向いていた。
「……………」
無言でこちらを見る七生。何かを訴えているようだ
。言ってくれなければわからない。
「ど、どうかした?」
授業中のため七生にしか聞こえないような声で聞い
てみるものの、答えてはくれない。その代わりにノ
ートの端にメッセージを私向けて書き、それを私に
見せてきた。
『教科書忘れた、時々見せてほしい』
それを見て私は少しおかしくなった。喋ればいいの
に。申し訳なさそうにこちらの様子をうかがう七生
に、前まで抱いていた感情は何だったのかとさえ思
う。
「いいよ、いつでもどうぞ」
そう言って私は、少し机を近づけた。
