Rhapsody in Blue

Rhapsody in Blue

スジュonly小説ブログです。
ウネとかキュトゥクとかイェウクに愛。

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キッチンでコーヒーを淹れようとしていたら、腰のあたりが急に重たくなった。
いや、年のせいとかそういうわけではなく。
ついでにいうと、肩口もずしっと重たくなった。
いやだから、年のせいとかそういうわけでは断じてなく。





おだいじに。





「………キュヒョナ?」
首だけで後ろを振り返ってみる。
がっちりと腰はホールド。見覚えのある茶色の頭、つむじが見えた。肩口に埋められた顔は窺えないけれど、どうやら末の弟がまた件の「発作」を起こしたらしい。
イトゥクは、わざと明るく笑った。

「なに、どうしたの?
何か欲しいものでもあるのか?」

茶化して言ってみるけれど、いらえはなく。代わりに、ぎゅううう、と腕のしめつけが強くなった。
出る。中身出る。
兄さん中身出ちゃうよ!
それでも振り払うことはできなくて、イトゥクはされるがままになる。
仕方ない、これも長兄の務めだ。
観念して、イトゥクは腹の前にまわされた手をやさしく叩いた。



キュヒョンは時折、こんなふうにイトゥクのもとへやってくる。
ふらりと部屋にやってきて、しばらく黙り込んでいたかと思うと、イトゥクに抱きついて離れなくなる。
最初のころこそ、からかったり、無理矢理引っ剥がしたりしていたのだが、理由を知ってからはそう無碍にもできなくなった。

(ヒョン、)
(どうしよう、俺、)
(トゥギヒョン、)
(辛い)

ある日、イトゥクに抱きついたまま、虚ろにつぶやかれた言葉。
辛い、という声があまりに無表情で、イトゥクは胸が締め付けられるようになったのを覚えている。


普段はスジュのブラックマンネとして、自由に振る舞っている印象の強いキュヒョンだが、根が真面目で、なまじ賢いがゆえに考えすぎてしまう。
マイナスを溜めに溜め込んで、消化しきれずに爆発する。
そうなる度に、キュヒョンはイトゥクのところへやってきた。
砕けて散り散りになる自分をどうすればいいのかわからずに、それでも繋ぎ留めようとすがる寄る辺を求めているように思えた。

「そういえば、キュヒョナ」

とん、とん、と緩やかに、キュヒョンの強張った手を叩いてあやす。
背中に感じる体温とはうらはらに、その手はひんやりと冷たかった。

「ミュージカル、評判いいみたいだな」

ぴくりと手が動いた。
大丈夫だ、安心しろ。
怯えることなど何一つないのだ。
そう教えるように、冷たい手を握る。
普段身を置く場所が過酷な世界だ、壊れそうなときに飴玉のひとつ差し出すくらい、許されたっていいと思う。


「俺もこないだ観に行ったんだよ。
すごく良かった。いつものお前じゃないみたいで、不思議なかんじだったけど」

「ほら、掛け合いになって歌うところがあっただろ、前半の。
あれ良かったな。相手の女優さんとも息があってて絶妙だった」

「がんばったな」


自分が今、この子に与えてやれるものはなんだろう。考えながら、ゆっくりと言葉をつむいだ。
伝わってくれればいい。
おまえをちゃんと見ている人間が、少なくともここにいるのだと。

この、自分にしがみつく末っ子を愛おしく思う。
普段は生意気極まりない弟が、こうして最後にすがる場所が俺なのだ。
守ってやりたいと思う。
守ってやらなくてはと思う。


(ごめん)
(俺が不甲斐ないから、)
(俺が守り切れてないから、)


「違うよ」


唐突にキュヒョンが言った。
「違うよ、ヒョン」
細い指が、イトゥクの指を柔く掴んだ。
悟られて、諭された。
違うよ、ヒョン。繰り返し訴える。
優しい弟だ。俺もまだまだ未熟だな、と内心苦笑した。

「……うん。
うん、ありがとうキュヒョナ」

ゆっくり腕を解いて、ようやく末っ子を正面に見やる。
先程までの、まるきり子供のような仕草にはあまり似つかわしくない背丈の弟。

それでもやっぱり、俺はこの弟が可愛い。

「ヒョンももっとがんばるから。
お前もまだ頑張れるな?」
「………はい」

弱々しいけれど笑ってみせるキュヒョンに、よし!と歯をみせた。

「コーヒー飲むか?」
「あ、俺が淹れます」
「なら任せた」

キッチンを明け渡して、ソファへ向かおうと踵を返した。

「トゥギヒョン」

なに、と振り向くと、軽く唇が触れた。

微かに触れてすぐに離れた。末っ子が長子に仕掛けるにしてはなかなかの暴挙だ。
目をしばたかせると、キュヒョンは少し悪戯に笑った。
仕方のないやつ。
くしゃくしゃに頭をかき回してやると、キュヒョンはこそばゆそうに目を細めた。


(あいつ、意外と甘えっこなんだよな)
(普段あんなことしてこないのになー)
(いつからあんなに甘えたになったかな)
(そんな甘やかしてきた訳じゃないはず、なんだけどなー)


コーヒーを待ちながら、イトゥクは呑気に考えた。
出会った当初に厳しく接したこともあって、そんなに懐かれているとは思っていなかったのだけれど。

普段から仲のいいソンミンや、気が合うらしいイェソンのところへ行くのが妥当な気もするのだが、やはり自分が一番年上だから甘えやすいということなのか。
うーん、なんだか腑に落ちない。
慕ってくれるのは嬉しいことだけれど、一体なにがきっかけだったのだろうか?

(まあ、いいか)
(元気になったんなら)

コーヒーの匂いが漂って、イトゥクは満足げに目を閉じた。













“You are a cure for me”end.


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キュ→トゥク短編でした。
ギュが後ろからトゥギに抱きついてるのがすごく好きです。