『人を挙(あ)ぐるにはすべからく退を好む者を挙ぐべし』

―挙人、須挙好退者―

<宋名臣言行録>

「退を好む者」とは、控え目で、”おれがおれが”としゃしゃりでない人間である。人を推薦するときにはそういうタイプを選んだほうがよいというのだ。宋代の張詠(ちょうえい)という大臣の語った言葉であるが、これも一つの見識であるかもしれない。

何故かと言えば、その理由はこうである。

「退を好む者は廉謹(れんきん)して恥を知る。もしこれを挙ぐれば、志節いよいよ堅くして、敗事あること少なからん」。欲がすくなく、与えられた職責をきちんと果たすので、結局、失敗が少ないという。

これと反対なのが、おれがおれがと競争心をむき出しにするタイプである。これを「奔競(ほんきょう)の者」と呼んでいるが、何故これがまずいのか。

「奔競の者は能く曲げて諂媚(てんび)を事し、人の己を知らんことを求む。もしこれを挙ぐれば、必ず能く才に矜(ほこ)り利を好み、累(わずら)い挙官(きょかん)に及ぶこと故より少なからず」

たしかに一理あるかもしれない。

廉謹：(れんきん)無欲で慎み深いこと。
諂媚：(てんび)こびへつらうこと。

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守屋洋 (著)
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人を挙ぐるにはすべからく退を好む者を挙ぐべし