がんと闘わない生き方(8)がんの自然史からみる早期発見・早期治療の無理
――検診でがんが見つかっても治療するかどうかは自分で判断を――
渡辺容子 2009/05/02

前回記事:がんと闘わない生き方(番外編)子宮頚がん治療も自分で決める

≪がんのダブリングタイム≫

 私は5ミリで発見したしこりを6年間放置していたので、がん細胞の分裂にかかる期間(ダブリングタイムという)やがんがいったいいつ頃できたのかを計算することができます。それによると、私の転移がんは原発がんができて4年後の直径40ミクロン(がん細胞は64個)の時にできたことがわかります。つまり、5ミリの時に原発がんを切除しても、転移を止めるには遅かったということなのです。今回はその話をしましょう。

 5ミリで発見したしこりは6年後に4×4.5センチになりましたが、計算しやすいように、6年間で直径が5ミリから4センチ、つまり8倍になったとします。直径が8倍になれば体積は8の3乗で512倍(8×8×8=512)になり、これは2の9乗です。がん細胞は2倍、2倍と分裂していくので、つまり6年間に9回分裂したことになります。1回の分裂にかかった期間は6÷9=0.67年=約8か月です。これをダブリングタイムと言います。

 がんは直径が10倍になると10回分裂したことになります。なぜかというと、直径が10倍になると体積は10の3乗で10×10×10=1000。この1000になるには2倍、2倍と繰り返して何回分裂すればいいかというと、2の10乗で1024という数字があり、これが一番近い。だからだいたい1000になるには10回分裂することになります。

 がんが最初に誕生した時の大きさは10ミクロン(1ミリの100分の一)。その10倍の直径100ミクロンになるのに10ダブリング。さらに10倍の1ミリになるのに10ダブリングしています。

 ではこの1ミリのがんが5ミリになるまでに何ダブリングしているかを計算すると、直径が5倍になると体積は5×5×5=125で、2の7乗が128なのでこれを取って7とします。つまりがんが5ミリになるまでには10+10+7=27ダブリングしていることになります。27ダブリングするまでにかかった時間は、ダブリングタイムの8(か月)×27=216(か月)=18(年)。

 ちょっと計算が面倒でしたが、94年に5ミリで発見した私のがんが最初に誕生したのは18年前であり、1976年、私が22歳の時ということになります。(どちらかと言えばもっと若い時だった可能性があります。がんは大きくなる途中で栄養が行きわたらずに死んだりしており、この計算ではそれを考慮していないからです)。このがんが2000年に4×4センチ(計算上使った大きさ)になるためにかかった年月は24年です。

 また、2000年には腋の下のリンパ節に転移があり、これを1センチとして計算すると、1センチになるまでには30ダブリングしており、4センチだった原発がんの36ダブリングとの差は6ダブリング。つまり6ダブリングした時に転移したことになり、それはがんの誕生から4年目で、その時のがん細胞の数はたった64個(直径は40ミクロン)でした。それは私がまだ26歳の時のことでした。

 このリンパ節転移のダブリングタイムも計算できます。私は原発がんが4センチになったところで治療し、その時転移がんは1センチでしたが、抗がん剤で触れなくなり(エコーには映っていた)、その後放射線治療を行い、エコーにも映らなくなりました。しかし治療から3年後、また5ミリとなり、それをまた放置したところ、その5年後に2.5センチになりました。つまり5年間で直径が5倍、体積は125倍で2の約7乗、7回分裂するために5年かかったので、つまりダブリングタイムは8.5カ月です。

 この計算式は近藤誠医師に確認していただき、「だいたい合っている」と言われました。(計算方法は『患者と語る ガンの再発・転移』(近藤誠著・三省堂・1994)に基づいています)。

≪がんの自然史から早期発見・早期治療は無理である≫

 がんの成長速度や成長の特徴について考えたところで、がんと言えば「早期発見・早期治療」だと思い込まされていますが、それはがんの自然史から無理だということについて触れたいと思います。

 一つのがん細胞が生まれ、それが1センチになるまでには30ダブリングしていることを証明しました。その1センチのがんが10センチになった時に、ほぼ人間は滅ぶといわれています。それは30ダブリングにさらに10ダブリングした時です。つまり人間の寿命で例えると平均寿命を80歳として、1センチで「早期発見」した時は60歳になっているということなのです。そしてこの1センチのがんの中にあるがん細胞の数は、いくつか? がん細胞1個が10ミクロン、1センチは10ミクロンの1000倍、直径が1000倍になれば体積はその3乗で、1000×1000×1000で10億個。これが「早期発見」と言えるかどうかは大いに疑問です。

 がん治療が難しいのは、原発がんを切り取っても、その時点で体のどこかに微細な転移がんが潜んでいて、それが後になって大きくなってくるためです。転移がんというのは1つしかないことは非常にまれで、普通は多数散らばっており、そのすべてを切り取ることは不可能だからです。そして、先ほど証明したように、がんの転移というのは原発がんが何ミクロンという大変小さいうちに起こっているのです。

 私のリンパ節転移は原発がんの直径が40ミクロンの時に起こりました。原発がんが40ミクロンになる前に発見して切り取れば、転移は起こらなかったということになります。しかし、現在の技術で40ミクロンになる前のがんを発見することは無理です。私が最初にしこりに気づいた時、つまり原発がんが5ミリの段階で切り取っていたとしても、転移を止めるにはすでに遅かったのです。

≪がん検診無効のデータからも類推できるがんの性質≫

 近藤医師も岡田正彦教授(『がん検診の大罪』新潮選書)も、論文の統計データが信頼できるかどうかを判断するためには統計データの読み方に習熟している必要があるとしています。そのため、統計データの読み方を詳しく説明し、だまされないようにと説いています。そうやって統計データを正確に読んでいけば、がん検診には効果がないことが証明されています。むしろ症状がないのに検査を受けることによって、手術する必要のない病変を発見されて手術されてしまったり、誤診によって手術されてしまったりする例もあります(検診で見つかって手術した乳がんには誤診も多い。さらに言えば検診で見つかったものでない乳がんにも誤診は多く、1割とも言われている)。

 二人とも、肺がん検診によって生存率が上がったというデータに対し、総死亡数を見ると検診群の死亡の方が多く、生存率が上がったという結論はまやかしであると述べています。生存率が上がったように見えるのは、検診を行えば、早期がんをたくさん発見することになり、それを勘定に入れているからです。もし、早期発見によってがんが治っているならば、検診群の総死亡数が大幅に減るはずです。それなのに逆に検診群の方が、総死亡数が多いというのは不思議ではありませんか。なぜこんなことが起こるかと考えてみると、がんは症状のない「早期」に検診で発見して治療しても、症状が出てから治療しても成績が変わらない。つまり、治る「早期がん」を放置しても転移は増えないということになります。ということは、がんというものは転移するものは「早期発見」の前に転移しており、転移しないものは放置しても転移しないということになるのです。

 さらに、それだけなら検診群と検診しない群とで総死亡数は同じになるはずですが、検診群の方が総死亡数が増えるのは検診の被曝による発がんのためと考えられています。

 つまり、倍、倍、と分裂していき、早期にはゆっくりと体積を増やし、比較的長い間ミクロンという大きさにとどまり(1ミリまでに20ダブリング)、ある程度の時間が経ってからでないと発見可能な大きさにならないというがん細胞の性質が、発見した時(5ミリで発見してもすでに27ダブリング。あと13ダブリングで人を死に至らせる)にはすでに転移するものはしているという運命を作っているのだと言えると思います。

≪検診で「早期がん」が発見されても治療するかどうかは自分で決めよう≫

 この考えに基づくと、転移するがんは「早期がん」として発見されて治療しても、後で転移が出てきて治らないのであり、「早期がん」として治療して「治った」とされたものは、もともと転移する能力を持たないがん(がんとも言えない良性腫瘍)であり、検診で発見しなくても症状が出てから治療すれば治るのだということになります。

 また、「早期がん」として治療して「治った」とされるものの中には、近藤医師が「がんもどき」と名付けた、治療せずに放置しても大きくならないもの(命取りにならない)や自然に消えてしまうものも含まれています。治療する必要のないこのような「がんもどき」の存在は近藤医師だけでなく、現場の医師なら誰でも経験しているものだそうです。近藤医師と対談している医師たちの中にはそのことを認めている医師もいます。しかしそのことを国民に知らせれば、医師の仕事がなくなってしまうので、大部分の医師は否定し、知らせないのでしょう。

 放置しても大きくならない「早期がん」ならば、手術などによって体を傷つけられ、後遺症に苦しめられるのは大損です。検診には意味がありませんが、安心したいなどの理由で検診を受け、もし「早期がん」を発見されたとしても、それが本当に治療の必要なものなのかどうか、医師のいいなりにならず、本などを読んで勉強し、治療を受けるかどうかは自分で決めることをお勧めします。

(筆者注:ここで「早期がん」と言っているのは症状がないのに検診を受けて発見されたもののことです。)