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考え中

基本的に感情論…本能論。見たもの感じたもの触れたものに関する感想。
素直に心に忠実に言葉を吐くだけ。
ストレス発散のページ。

理想的な夏に始まる恋のシチュエーション ブログネタ:理想的な夏に始まる恋のシチュエーション 参加中
本文はここから

水田の間を抜けて、嫌な坂道を登りつめた先にある
だだっ広い営業所。

決して綺麗とは言えないけれど、
ある意味精鋭部隊のようなメンバーの集まる
ちょっとした熱気の溢れる営業所。
エアコン設定は28℃が鉄則。

「あーあ。夏かぁ。昔みたいに夏ってだけでドキドキするなんて
すっかりなくなったなぁ…。残業続きだし、花火大会だって平日の夜に
やりやがる!!イベントなんて所詮、若い子だけのモノよ…。」

心の中でどっさりと愚痴る。
山積みになった書類を横目で睨みながら、溜息をついた。

「あ…。この書類、あいつに聞かないと処理できないんだっけ…。
面倒だなぁ。」

電話をかける。
「あ。お疲れ様です。今電話大丈夫ですか?」

「おぅ!OK。どした?あーあれか!!もうすぐで会社戻れるから
もうちょっと待っててな。ごめん。こんなイベント日和の夜に」

あーあ。何だコイツ。嫌味だけは3人前だわ。
ま、いいや。他の書類もあるし…。

パソコンを叩く音がやけに響きわたる。

「あ…いつのまに。」

工場へ電話を書けながらメールを打ち、
書類を作成しながら客先へ電話をかける。
気がつくと、同僚と話す余裕もなく、たまった業務を必死に片付けていた。

「みんな、デートか。京子ちゃんからメール来てるわ…。」

(忙しそうだからメールにした。お先に…。無理しないでね)

無理してるのかな。自分の仕事はどうしても、営業マンと直結の業務が
多くて、最終判断が営業マンのため、帰りも必然と遅くなる。


花火の音…。
きっと大きな円を描いているのだろう。
爆撃のような破壊音がする。

こんな田舎まで…。

「ちっ…。今頃みんな浴衣着て…。
いいや!そんなの知らない…!!あと30分集中だ!!」

カタカタ カタカタ カタカタ…
「○○さん、2番に工場から電話入ってるよ」
「はい!!出ます」

泣きそうになった。
寂しすぎる。
(はいはい…出ますよ、出ればいいんでしょ。)

「はい!!○○です。お疲れ様です。
…ん… ??
もしもし…?え…?もしもし…?」

「○○さん?お疲れ様です。俺だ。」

騙しやがった…。
この忙しい時に!!
イライラが最高潮に達した。

「怒らないで聞いて。俺、今営業所の裏に車停めてるんだ。
あと1件行かないといけないんだけど、忘れ物して…。
中に部長いるでしょ?あと1件受注とらないと戻れないから
こっそり俺の机にある書類と、倉庫の□□持ってきてほしいんだけど…」

(怒るわ!何だ!コイツ!)
内心もうあきれ果てていた。

「いいですよ。はい…はい…はい…OKです。じゃ…」

言われたものをこっそりメモして、それを用意して急いで営業所裏に
まわった。

奴がいた。

「あ!これ。持ってきた。で、私は後何時間待てば帰れるんですかね?」

ドアを開けろって奴が目で合図してる。
また誰かと電話していた。
よけいにイラついた。

(人にモノを頼む態度か!!)

助手席のドアを開けて用意したものを置こうとした。


急に力強く腕を引っ張られた。
思わず助手席に座ってしまった私。

車が発進した。

反射的にドアを閉めた。

「は??何してんの??
客先行くんでしょ?私まだ業務終わってないよ。何考えてんの?」

訳のわからない状況にすっかりプライベートの喋りになっていた。

奴はまだ電話をしてる。

「あー殺されるー」
嫌味に呟いてやった。

20分ほどした時、花火が見えてきた。
田んぼの真ん中だ。

車が止まった。

「花火あと30分くらいかな…」
電話をしてるフリをしていた奴が言った。

「え…。そのためにここ来たの?」

「そ!!見せてあげたかったの。いつも俺のために必死に
嫌なお客さんでも逃げずに対応してくれてるおまえに」

(私のため…?)

「間に合って良かったぁ…。あぶないとこだったんだよ。
例のお客さんとこ最後でさぁ。」

「あぁ。つかまると長いもんね。」

心臓が変に騒いでいた。
可笑しい緊張感に包まれた。

よくわからない涙がこぼれた。

奴が私の頭を撫でた。

嬉しかった。
ムカついたけど、でもすごく嬉しくなった。

浴衣でもない、しかも営業所履きの古びたサンダルのまま…
疲れ果てて、髪もボサボサだった。

(信じられない…!!)
(でも…)

「…ありがとう。…すごく…嬉しい。」
小さくお礼を言った。

「かわいいトコあるじゃん。おまえ!!
ありがとう…って涙目かぁ!!似あわねーぞ(笑)!!
そんな顔するんだねー!鬼の目にも涙…だっけ(笑)??」

その明るさに、よけい泣けた。

(あー悔しい!よりによってコイツがこんな演出するなんて!!!)


奴が私を強く抱き寄せた。

涙が止まらない私は、観念して奴の胸を借りていた。

背中で大きな花火の音が響く。
時折、光が二人を大きく包む。

ホントよくわからない。
でも、それでいて、不思議な愛情を感じた。

「好きだなー。そーゆー意地っぱりな可愛さ。」
おまえも俺に惚れただろ!!あははは。今なら俺、夏の大特価だ」

(夏か。ドキドキしたわ。久しぶりに。
こんな私にもまだ夏が残ってたか…)

「大特価ならとりあえず買ってやるわ。使い捨てかもしれないけどね」
(コイツなんかに主導権握られれたまるか!!)

返事に変な力が入った。

奴は営業所で一番人気のある営業マンだ。
私だけが大嫌いだった。
どこかキザな人だと思っていた。

キザかどうか、これからはしっかり見極めてやる!!

封印されていた恋心が
ここに、急に溢れだした。

そんな奴と今、
大空の花火を二人、貸し切りで眺めている。