モデルが好きだしファッションフォトも好き。フォトグラファーの名前も何人かだけは知ってる…。

現在活躍してるフォトグラファーしか知らないし、昔のフォトグラファーや写真はとっつきにくくて…。
ましてや写真技術やスタイルのことなんてわかりゃしない！この目で見て美しいと思えばそれでいいのさ…。

そんなアナタ！今日はそんなアナタの為の記事。

ファトグラファー名を検索して、『～誰々のスタイルを彷彿とさせる』『～に影響を与えた』などなどの文字が出てきてもいまいちピンと来なかったりすることはございませんでしょうか。

アヴェドン、ペン、ホルスト、ソコルスキー、と聞いても「じゃあ具体的に奴らは何が凄いんだ」と思われるでしょうか。

そんなアナタ！今日はそんなアナタの為の記事。というかそんなワタシの為の記事。

私自身まったくのずぶずぶずぶぶぶぶのトーシロではございますが故、今日は『猿でもわかるファッション写真史～アーヴィング・ペン編～』とまいります。

まず、アーヴィング・ペンとは誰ぞやと。

ファッション写真の第一人者として多大な貢献をした伝説的なフォトグラファーです。

アヴェドンが動だとしたらペンは静。ペンの写真の特徴は静寂と緻密さ、シックで指先や衣装の端に至るディティールまでを綿密かつ優美に捉える、といったところでしょうか。

じゃあ具体的に彼はどんなところがゴイスーなわけ？現代までどんな風に影響を与えてるわけ？

言葉じゃなくて実例だしてよ！写真だしてよ！しゃしん、しゃしん！

この写真はペンがVogueに頼まれて1947年当時にトップモデル達のグループショットを撮ったもの。

そう、このグループショットは後年まで多大な影響を与えているものなんです。

（ちなみに右中央の襟がＶ字のブラックドレス着て座ってる人が奥様のリサ・フォンサグリーヴスです）

これはスティーヴン・マイゼルによるネクスト・トップモデル特集のショットですが、お分かりの通り彼の影響を強く受けているのが明らか。高低差やハシゴ(?)の使い方とかもそう。というかこのショットは上のペンのショットの再現なのかな。でもマイゼルの撮るこういうストーリーなしの正統集合写真はみんなペンっぽい。

マイゼルについて言えば、彼はペン大好きだと思います。

多分ペンの時代のモデル（ドヴィマ、ジーン・パチェット、リサ、スージー・パーカー等々）が大好きだから、自分のモデル達にもその時代のポージングや身のこなしを再現させようとしてるんだろうけど、痛いくらいそれが伝わるんですよね。

デマルシェリエ伯によるUS Vogue100周年のときのもね。

リーボヴィッツのVanity Fair恒例女優軍団とか。

99年での新旧スーパーモデルズ特集とか。

リーボヴィッツがやるこの手のショットもペンの時代から変わっていないかな。

でもこういうモデルのグループショットって昔のヨーロッパの宮廷画が根っこだよね、多分。宗教画の類なんかだね。

そしてもうひとつ、ファッション写真でのスタジオ撮影の定石となっているのがこれ。

床との継ぎ目をなくした大きな背景幕を一枚だけ置き、無駄な情報を削ってモデルと衣装を写したもの。

背景幕の色を光で白く飛ばす技術、スタジオ撮影で窓からの自然の光を取り入れたこと、当時これは革新的なことだったそう。

この写真が撮られたのは1950年でありますが、現在ではこの撮影方法は典型的なアプローチとなっています（なんだか急に真面目な口調に）。

Woke Up In the Beautiful World-2010 by meisel and elgort

左はモデルをキャロライン、フリーダに置いたアーサー・エルゴートによる撮影。右はスティーヴン・マイゼルによるマリアカルラです。

床と壁に継ぎ目がなくて一体になっているのがわかりますよね？こういうことです。

(左)ブルース・ウェーバー（モデル：ステラ）も(右)グレッグ・カデル（モデル：ヴラダ・ナターシャ・ヴァレンティナ）も。

(左)イネス＆ヴィノードも(右)デマルシェリエも

左）ハンナ・ホールマンをモデルに、パオロ・ロヴェルシ。右）カーリーを撮るのはクレイギ・マクディーン。

グレーとか白といったシンプルな色で背景布を使うっていうのもペンの功績だそうで。

左はティム・ウォカーによるステラ・テナント、右はティムのお師匠さんでもあるアヴェドン（マルゴシア、ジゼル、2000年）。ペンっぽいアヴェドン…笑

右のティムのショットはお手本みたいなペンスタイル。

ペンによるキャロライン、リサ・カント。

ついでにモデル達の証言を載せておきましょう。

カロリナ・クルコヴァは今まで会った中で、一番興味深い人は？との問いに

『一緒に撮影してるアーヴィング・ペン。16歳のときだったけど、素晴らしかった。彼にモデルとして選んでもらえるのは本当に光栄なことだもの。彼の撮影は古典的で音楽もなくて、誰も喋ってはいけない空気で、みんな小声で囁くの。とても統制されていて、落ち着いた撮影だったわ』

リンダ・エヴァンジェリスタは

『アヴェドンやアーヴィング・ペンのようなマスター達と仕事したことは…偉人と仕事をしたようなものよ。それにとても有難いと思ってるわ』

キャロライン・トレンティーニは（92歳の神のようなフォトグラファーとの仕事はどうだったかとの問いに）

『タイムトラベルしてるみたい。彼のスタジオは全てが年代物で、映画の中みたいなの。歩くスピードはゆっくりで、別の時間が流れているように見える。50年前と変わらず、モデルは待たされっぱなしだけどね。まず彼は絵を描いて私に見せてくれた。モノクロ映画を撮って、見せてくれて、ネガをチェックするの。彼にとって絵を描くことは１番大切なことなのよ。すごく楽しんだわ。』

ジーン・シュリンプトンは彼との仕事はどうだったかとの問いに
『ペンはとても良い人よ。ペンとは温かい気持ちになるわ。』

キャロルも言ってますが、ペンは綿密に練った構想をスケッチで描いてから撮影に入っていたそうです。直感で瞬間的に絵を捉えるのではなく、事前に細かく計画した上で撮るんですって。恐らく、デザイナーの予想の斜め上行くぐらいその衣装の可能性を写すことが出来た人なんじゃないかなと思います。

そしてモデルは待機が非常に長いんだとか。当時飛ぶ鳥落としてた怖いものなしのスーパーモデルズも容赦なく待たせてたんでしょうね。名誉ですから。

【お詫び】

９、10月と私生活が忙しく、なかなか更新できない日々が続くと思います…。

再開したばかりなのにごめんなさい。

では。

Irving Penn