「歯医者さんは通ってますか」
担当医は尋ねて来た。お盆休み前に夏にぼーっと痛くなった。歯医者は夏休みに入ってしまうし、あまりに暑くて通えないと思い、そのままになっている。


「…まだ、行ってません。だって、痛くなくなったし。先生に言ったら怒られるなと思ってたし…」
「いや、僕は○○先生じゃないから、怒りませんよ」
「○○先生は怒りませんけどお?」


○○先生は言わずと知れた膠原病医。一年前にちょっと失言してから、金田一君はあの申し送りの原因がどうやら膠原病医であるらしいと勘づいた様だ。ちらちらと探りを入れてくる。
敢えて怒られたと言えば、それは前任の明智君だろう。「ああしろ」の「こうしてはいけない」のと口煩かった。


「身体の痒みはありませんか」
「あります」
「薬のせいだと思います?」
「う~ん、ちょっとやっぱりそうかなという気はしますね。サリグレンを一生懸命飲むのが数日続いたりすると、ひどく痒くなる」


「皮膚科は行ったんでしたっけ?」
「去年、行きましたよ。家の近所の皮膚科。でもね、『薬の名前を言われても私は判りません』って言われちゃったから、その後行ってないです」
「え、随分冷たいですね、それが仕事なのに…」
「でしょ~?」


その話は前にもしただろう。あの時、「そんなこと言う医者はいませんよ」と言ったのは君だろうが。「そんなこと言うのは医者じゃないですよ」とも言ったっけ。
開業医って面倒な患者はイヤなんだなあと思ったものだ。それともあの医者がやる気がないだけか。


「う~ん、薬を飲む・飲まないはもう、うきさんにお任せします。痒みと相談しながらになるから」
いや、私はとっくにお任せされていると思っている。明智君は言ったものだ。「目を取るか、唾液を取るかの二者択一になるかもしれないから」と。
ありがたいことに目の方はサリグレンの副作用はないようだ。「痒みを取るか、唾液を取るか」になりつつあるのが今の状態だ。


「今日はこれから内科ですか?」担当医は聞く。
「はい、そうです」
「そうですか、大変ですね」
「何がですか~?」
「だからその、以前、『あの先生は怖い』ってその…」
「言いましたっけ?」言いました。でも、それはナシなの。
「…苦手だと仰ってましたよ」
「うん、先生の方がずっと親切だから好き♥」


好きと言われても困るだろうなあ…。まあ、オバサン相手に腹を探ろうとした罰だ。