「私らは法では裁けない悪を裁く事を裏家業としている。この都会においては悲しい事にあまりにも悪が繁栄し過ぎている。私達親子でも限りがあるので君をスカウトさせてもらうよ」 マスターは静かに口を開いた。
竹田には断る理由もなかったが、「もし断ったら?」
マスター
「君には申し訳ない。不本意ながら全てを知ってしまった以上消えてもらう」

竹田
「面白いなぁ 俺が負けたら仲間になろう。但し俺が勝ったら、俺がここのボスだ」

瑞貴「ちょっと待ちなよ!何で二人が争うんだよ」

マスター
「ハハハ 冗談だよ!冗談」そう言うと竹田に握手を求めた。

竹田も
「瑞貴さん 冗談ですよ!マスター宜しくお願いします」
そう言うとお互い力強く握手した。
マスター
「では 本題に入る。今回のターゲットは、仁流会の早川、倉石、杉谷、小菅の4名と後一人、その組長の小林周三だ。こいつらに限っては完全に抹殺し社会から消す。報酬は一人100万円だ。では幸運を」
由美子は、600万円の現金を置いた。
竹田、瑞貴、彩葉、マスターは店を後にした。

翌日、竹田は一日中警察の事情聴取を受けていた。


それから解放されたのは夕方近くだった。


幸い、急所が外れていたのか理沙は一命を取り留めたが意識はまだ戻らなかった。

O型だった理沙は、マスター、彩葉、瑞貴から輸血を受けることが出来た。


竹田は、絶対に犯人の名前を言わなかった。

チンピラ同志の喧嘩に巻き込まれたとしか・・・・

彩葉にも、堅く口止めをしていた。


竹田はその足で病院へ行くと、理沙を見舞った。

まだ、面会謝絶という事だったが 理沙には身寄りがいなかった為 

輸血をしてくれたマスターが身元保証してくれたことで理沙に何とか会うことができた。


理沙が何とか助かったのは嬉しかったが、輸血に関しても 昨夜の件に関しても

何一つ理沙を救えなかった事に関して竹田は悔いた。

自分の力はその程度なのか?

愛する女一人さえ守れないのか?


眠り続けている理沙の頬を優しく撫でながら、泪が溢れてきた。


(理沙、この敵は俺が討つ・・・だから、警察にも誰にも言わなかった)


もしかしたら理沙と会えるのもこれが最後かも・・・・・・


どちらにせよ、ここでケジメをとらなければ、竹田にとって先へは進めなかった。

ここから先、理沙を幸せにする自信も無かった。


彼は自衛隊を退役後、フランス外人部隊で戦地を転々としていた。

国家の許可を得ているとしても、敵の死、仲間の死が終わりなく繰り広げられる

そんな世界に嫌気がさし日本へ帰ってきたのだった。


昨日までの平和な日々・・・・

それは、ほんの一瞬の束の間だった。

また、戦いの世界へと足を踏み入れなければならない自分の運命を呪った。


静かに病室を後にする。


竹田の行き先は決まっていた

仁流会の組事務所。


長い病院の廊下を静かに歩く竹田。


その時、後ろからマスターの声が竹田を呼び止める

「竹田君、彩葉から聞いたよ。

君は今復讐を考えているだろう?馬鹿な事は辞めなさい。君の拳法の腕前からしても

只者ではないことは察しがつく。しかし、復讐は良くない。そんな事で君までが傷ついたら

理沙さんも、そして私達も悲しんでしまう。ここは私達に任せてみないか?」


竹田は、ピタリと足を止めた

「これは俺の問題です。」


マスター

「今日、深夜0時私のバーへ来なさい。絶対だよ!それまで無茶は絶対にするな」


マスターの鋭い眼光が竹田を諭した。


そして、深夜0時

竹田以外の客を帰すと、行灯の明かりを消した。


マスターは、竹田をカウンター内へ招きいれると、棚のオールドクローのボトルの向きを変えた。

すると、地下へと続く隠し階段が現れた


竹田

「マスター、これは?」


マスター

「いいから、付いてきなさい」


地下3階まであろうか?

そこまで来ると、更に扉があった。

そこの扉を開けると、目の前には異様な光景が目に入った。


様々な計器。壁には銃やナイフ、手裏剣などの暗器


そして、そこには

あの「ゆみちゃん」の女将さんの

由美子さん、バーテンダーの彩葉ちゃん、瑞貴君がいた。


竹田

「マスター、これは?」


つづく


竹田と理沙は駅までの道のりを歩いていた。




2人の会話と言えば


明るい未来に満ち溢れていた。


竹田

「まだ理沙とは付き合って間もないけど理沙の事は守るよ」

理沙

「ありがとう。そんな竹田さんが好き。でも無理しないで」



竹田は理沙を抱きしめると熱くキスをした。

束の間の静寂が続く。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








「ヒューご両人さん!熱いですなぁ」

突然の怒声が二人の間に広がる静寂を裂いた。

4人の不審な影が竹田と理紗の行く手を阻む。






竹田


「君達は誰だ?ちょっとどいてくれないかな?」




しかし、この男達の顔に竹田は見覚えがあった。




理紗にとっても同様だった。




ほんの数時間前に瑞貴に叩きのめされた、早川、倉石、小菅、杉谷の4名。




この辺りを根城にしている仁流会のチンピラだ。




早川


「へへへ、兄ちゃんに用は無いんだわ。お嬢ちゃん、俺達と遊ばないか?」






理紗は怯えながら、竹田の背に隠れた。






竹田


「お前ら何言ってるんだ?どけよ」






竹田は早川を突き飛ばした。






早川


「痛ってぇ おいおい。暴力は良くないなぁ 暴力はよぉ!あちゃ~腕が上がらんわ。どう、落とし前とるんじゃ」






竹田


「お前ら、さっきもやられたばかりだろ?まだ、凝りてねぇのか?」






早川


「ははーん、やっぱりお前、あの場所にいたよな!この可愛いお嬢ちゃんは、はっきり覚えていたんだけどな。てめぇ!俺らを馬鹿にする発言してたよなぁ


なら、お前は生かしておけんわ」






倉石


「お嬢ちゃんは、後で俺達と楽しい事して遊ぼうね」






そういうと、倉石は理紗の後ろから理紗を羽交い絞めにした。






竹田


「辞めろ、理紗に手を出すな!」






早川


「へへへ、だったら俺達から奪い返してみろよ」






倉石

「へへへ!兄貴ィこの女いい体してますぜ。早いとこそいつ片付けて楽しみましょうぜ」



竹田

「止めろぉ!理沙に手を出して見ろ。絶対に許さないからな」

早川

「おいおい、この状況で何言ってやがる」

早川

「怪我しないうちに女置いてお家に帰ったほうがいいんじゃないか?なぁそう思うだろ」



倉石

「兄貴、この女ええ乳してますわ。この尻たまんねぇ」

倉石は股間をこすりつけてくる。

理沙

「嫌ぁ!止めてぇ」



倉石

「へへ、いい声で哭くなぁ」



竹田

「お前らぁ」



竹田の怒りは頂点に達していた

理沙

「だめぇ!竹田さん逃げて!」



倉石

「へへ、聞いたか?うちらとやりたいから、お前は邪魔だとよ」

竹田

「理沙は俺が守るっていっただろ!理沙ぁ」

早川

「いい加減くたばれやぁ」

p>そういうと



いきなり殴りかかってきた。






「キャーー!」

理沙は悲鳴を上げ顔を背けた。好きな男が殴られる姿など見たくもなかった。逆に竹田を救う為なら、こいつらになぶられる覚悟も出来てた。

竹田は、一呼吸すると強烈な前蹴りを早川のボディに入れた。カウンター気味に突き刺さる前蹴り。




一瞬の事だった。




誰もが唖然とした。

あの理沙ですら、竹田の行動は予測出来なかった。

と言うのも、会社での竹田は温厚かつシャイで物静か。どちらかと言うとトロいほうで同僚にいつも構われてるような存在だったからだ。

瑞貴の放った蹴りとは、また違ったタイプのハンマで叩きつけるような蹴りだった。




獰猛直進。






そんなニュアンスがぴったりだった。






早川は、悶絶しそのまま意識を失った。






竹田は上衣を脱いだ。そこには外見とは非なる男の姿があった。着痩せしてる身体つきとは違い、研ぎ澄まされ肉体が力強く躍動する。





竹田は拳法の構えをとった。ボクシングでもキックでも、空手でも無い未知なる構え。

これこそ、戦場用に日本拳法をベースにあらゆる格闘技を取り入れ改良した自衛隊の徒手空拳の構えだった。しかも竹田は、現役時代は特殊部隊レンジャーにも所属していた男だった。

竹田は小菅に近寄ると、静かに首を?むとムエタイの首相撲の体制に移った。2本の前腕刀をもって小菅の頚椎をしっかりと締め上げ、首を左右に揺さぶり


体制が崩れた箇所への容赦ない膝蹴り。




そのまま首投げでぶん投げる。








倉石は、刃物を抜くと




理紗の喉元へ当てた




「へへへ、や、やるじゃねぇかよぉ 兄ちゃん。




これ以上近づいてみ、見ろぉ お嬢ちゃんの命はねぇよ」








一瞬怯んだ。

その背後を木刀を手にした杉谷が身構える。

杉谷は剣道の有段者だった。

倉石は杉谷に目で合図すると不適な笑みを浮かべた。杉谷に顎て合図を送ると、杉谷の発声音とともに、木刀を脳天めがけて降りおろされた。



「キャー」

理沙の声が響き渡る。

直撃の寸前、竹田は首を傾げた。

杉谷の剣は竹田の肩に寸前で止まった。

竹田

「剣術ではないスポーツの悪いところが出たな」

そう言い残すと木刀を握りしめた。



竹田は力強く引くと杉谷も盗られまいと木刀を引き寄せた。その瞬間、竹田が手を放すと杉谷はよろけて後方へ吹き飛んだ。




倉石


「おい、まじでここまでだ。やんちゃが過ぎたようだなぁ


惜しい女だったがな。」




倉石はナイフを振り上げた




「ねぇ お兄さんったら?」




背後から女性の声が聞こえてきた。




倉石


「なんだ?」




倉石は一瞬振り向いた。


その瞬間、散手が倉石の目に当たり視界を失った。




「うーーー 誰だぁ」




その女性は、そのまま倉石の右手首を持つと捻り上げ、もう片方の手で肘間接を浮かせ背中側へ腕を持っていく。




少林寺拳法の金剛拳の吊上捕という技である。


「いててててて・・・・・・」




女性は、さらに深く締め上げると倉石の手からナイフが抜け落ちた




チャリーン




理沙はその隙をついて竹田のもとへと走り去った。




女性


「もう大丈夫よ」




倉石


「は、離せぇ いてててて・・・・ 誰だてめぇは」




倉石の影となって良く見えなかったが、背中越しからあの愛くるしい顔がヒョコっと現れた。




OLD CROWのバーテンダー彩葉である。




彩葉


「このサディスティック男の始末はどうしようかしら?」




竹田


「まかせるよ」




彩葉


「そうね、二度と悪さが出来ないように肩関節でも破壊しておく?」




そういうと


倉石の肩関節を外してしまった。




「ぐふぁ」


倉石は、右肩間接を庇うようにして、その場に倒れた。


追い討ちをかけるように無防備になった男性自身を踏み潰した。
声にもならず失神した。
彩葉
「これで懲りるかしら?」

竹田


「理沙、大丈夫か?」




理沙


「うん、大丈夫。ありがとう」




竹田


「いっただろ?理沙は俺が守るって」




理沙


「でも、驚いた。竹田さん、全然会社の時と雰囲気が違うんだもん」




竹田


「ちょっといろいろ事情があってね」




竹田


「理沙・・・」




杉谷はゆっくり這い上がると兄貴分の早川の腰元を探った。そこには重い鉄の塊が冷酷な表情で収まっていた。それを抜き取ると竹田めがけて、銃を構えた。


「て、てめぇぇ コケにしやがって・・・


ぶ、ぶっ殺してやるぅぅ・・・・」


そう呟いた。




竹田からは死角になっており気づかなかった。




杉谷は震える手で引き金をゆっくりと引いた。




引き金の遊びの部分まで引けたが、それ以上はなかなか引けなかった。




こんなに引き金って重いものなのか?


後、1cm引き金を強く引くことで銃弾が発射する。


この重さは、人一人の命の重さでもあった。


重いはずだ。




杉谷は、


目を瞑り


「うわあぁぁぁっぁぁぁぁ」


言葉にならない奇声をあげ、最後の一線を越えた。




バーーーン




・・・・・・・・・・




長い沈黙が続く。




銃口から立ち上る硝煙の匂いが杉谷を正気にさせた




「うわああああああぁぁっぁ」


そういうと、杉谷は走り去った。




静かに崩れる美しい肢体。




竹田では無かった。




銃弾が発射されると同時だった。


いち早く気が付いた理沙が、竹田を庇ったのだった。




「ぐふっ・・・・」


理沙の口から潜血が飛び散る。




理沙の腹部から血が滲む。




竹田は怒鳴った


「理沙ーーーー!!」




彩葉は、杉谷を追おうとした




竹田


「もういい。それより早く救急車を。救急車を呼んでくれ~」




彩葉


「分かったわ」




しかし、もう手遅れだという事は見てすぐに分かった




理沙


「竹田さん、楽しかったぁ。今日、告白してくれてありが・・・・と・・・・・」




竹田


「理沙、喋るなぁ!理沙。ゴメン、ゴメン


俺、俺守ると言ったのに、守るって言ったのに・・・」




理沙


「わ、わたしね。王子様に抱・・・かれて眠るのが夢だったの・・・変でしょ


でも、最後にゆ、ゆめがかなっ・・・・・ハァ ハァ・・・・」




理沙


「あり・・・が・・・・と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・-」




理沙の体は、竹田の胸元に重く寄りかかった。




竹田


「理沙ーーーーーー!!!!!!!!!!」




静かな闇の中、けたたましいサイレン音がいつまでもいつまでも鳴り響いた。




つづく



いつ来ても、優しく迎えいれてくれる。


マスター

「いらっしゃいませ。竹田様。お待ちしておりました。」
彩葉

「いらっしゃいませ」

そこには、いつもいる瑞貴の姿は無かった。


今日もマスターのセレクトしたジャズの音色が店内の時を優しく刻む。

2人はボックス席ではなく、敢えてカウンター席へと座った。


竹田
「マスター、食事は済ませたから何か彼女にお勧めを!
そうだなぁ 僕はちょっと強めの酒を。今日はワイルドターキーをロックで」


マスター
「かしこまりました。
彩葉は竹田さんにターキーロックを」


彩葉
「ねぇ 隣の彼女、紹介してよ」


竹田
「こちら、水口理紗さん。さっき告白したんだ」


瑞貴
「で、どうだった?」


その声に、ふと見上げるとあの瑞貴が立っていた。
竹田の顔を見ると、人差し指を口に押し当て、ウィンクした。


マスター
「こら! 今日も遅刻だな」


瑞貴
「へへへ、ごめん。ちょっとな。
ところで竹ちゃん、どうだったんだい」


竹田は満面な笑みで親指を立ててみせた。


瑞貴
「ヒュー」


理紗と竹田は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


瑞貴
「竹ちゃんも、やるねぇ。こんな美女を」


彩葉

「ほんと、まさに美女と野獣カップルね」


マスター
「こら、彩葉!」


彩葉
「エヘっ」舌を出す。


瑞貴
「じゃ、今日はちょっとサービスしちゃおうかな?」


そう言うとブランデーのボトルをくるりと投げると空中でキャッチした
鮮やかな手つきで、シェイカーやボトルが空中で交錯する。


理紗
「すごーーい」


彩葉
「もう、お兄ちゃんはすぐ綺麗な女性が来るとフレアをやるんだから!」


竹田
「へぇ すごいですね。瑞貴さんて僕とそう年齢は変わらないのに何でも出来るんですね」


瑞貴
「ほら、うちの親父厳しいから、何でも仕込まれたんだよね。彩葉だって出来るんだよ。
まぁ これは基本的には店ではやらないんだよね。今日は特別。
婚礼とかのイベント会場で彩葉と2人でやってるから。是非、その際はご指名を!」


彩葉
「もう、ちゃっかり営業しちゃうんだから!」


竹田
「いや、その・・・・」
婚礼という言葉に妙に意識してしまう。
理紗も同じようだった。
(まだ、ほんのさっき付き合ったばかりだというのに・・・)


マスター
「はい、お待たせ致しました。
こちらが、アレキサンダー。そして、ターキーのロックです。」


2人の前に、カクテルが出された。

マスターと彩葉、瑞貴。
そして竹田と理紗。
楽しい一時がバーのでの時の流れを速める。


ふと、腕時計を見ると時計は日付変更線をすぎていた。

理紗
「今日は、ありがとう。すっごい楽しかった。
もう、帰らなくちゃ」

竹田
「まだ、いいじゃん。明日休みだろ?」


理紗
「うん、明日はちょっと予定があるの。ゴメンね」


竹田
「じゃ、駅まで送るよ」


理紗
「うん、ありがとう」


マスター
「駅までタクシー呼ぼうか?」


竹田
「うん、ありがとう。でも大丈夫。
僕が送っていくから。ちょっと酔いも覚ましたいし」


マスター

「そっか、気をつけて
ありがとうございました。」


竹田
「こちらこそ、楽しい時間ありがとう」


彩葉、瑞貴
「竹ちゃん、理紗ちゃんとまた遊びに来てね。
うちら、応援してるよ!」


竹田
「彩ちゃんに、瑞貴、ありがとう」

そういうと2人は、バーを後にした。

つづく

竹田と理紗はバーまで歩くことにした。

後少しで、目的の「OLD CROW」
という時だった。
妙に周辺が騒がしかった。

飲食店が並ぶ一角の雑ビルの前に人だかりが出来ている。

竹田は、理紗にちょっと待つように言うと
人ごみの中へ消えて行った。

理紗
「もう、ちょっと待ってよぉ」
そういうと、竹田の後を追った。

そこには一人の青年とホスト風の男が4人いた。
何やら揉めているようだった。

その中の一人の青年に、竹田は見覚えがあったからだ。

キャップ帽を深く被ってはいるが、あれはOLD CROWのバーテンの瑞貴だ。
間違いない。

(どうしたんだろう?)
どうやら、瑞貴が4人の男達に取り囲まれるように立っていた。
喧嘩というより、一方的に絡まれているような様子だった。
これではどう見ても、瑞貴が不利だ。

竹田は同じように野次馬に紛れて傍観している、男に尋ねた。
竹田
「いったい、どうしたんです。何があったんですか?」


「誰?あんた、あいつらの知り合い?」

竹田
「いや、ちょっと知っているもんで」

男は竹田をジロリと睨むと
「ふーん、まっ、只の喧嘩っていうか。
ひどいもんだよ。すれ違い様に肩が当たったのどうのって、一方的に4人で絡んでいるだけさ。
こんなに人通りが多いんだから、仕方ないのにな」

竹田
「そ、そんな事で?大人げないなぁ」


「おい、シー!声がでかい!発言に気をつけろよ。お前知らないのか?奴らはこの街を取り仕切っている仁流会の若い奴らだぞ。ホラ、今因縁つけているあいつの胸にバッチがついているだろ?」

竹田は男のほうを見ると
仁流会の男と目があってしまった。

そして男は竹田を睨みつけた。

というより、その隣にいる理紗を舐めるような、ねちっこい視線で見つめていた。
しかし、竹田にはその男の視線の先に理紗が映っていることには気づくはずも無かった。
そして、野次馬達に向かい
「こるぁ 何を見てるんじゃぁ 見せもんじゃねぇぞ 怪我しねぇうちにとっとと去れや」
そう一喝すると、舎弟らしき3人が追い払う仕草をした。

この一声で、今まで50人ほどいた野次馬達は半分に減った。
一方、それまで隣にいた男は、急に俯いたまま足早に群れの中から逃げるように行ってしまった。
それでも、まだ好奇心旺盛な輩は遠巻きに 男達の行動を見ていた。

仁流会の男は舌なめずりをすると、理紗から再び瑞貴のほうに向き直った。

理紗
「竹田さん、私怖いわ。もう行きましょ」
そういうと竹田の腕をギュッと強く抱きしめた。
その腕が小刻みに震えていた。
竹田は、理紗を強く抱きしめると
「もう少しだけ」

竹田は瑞貴がどういう行動をとるのか、すごく気になっていた。
結果がどちらであるにせよ、最後まで見届けるつもりだった。

「へへへ、兄ちゃん。どうよ。これが俺達の力よ。
早く謝って出すもん出しな。そうしたらちょいと痛めつけて解放してやるよ」

瑞貴
「ふん、お前の力は組織の力だろ?
そのバッチがなけりゃ 何も出来ん屁垂れだろ。」


「何じゃとぉ 言わしておけば!おいやっちまえ。後で泣き面を掻いても許さねぇからな」

瑞貴は不敵に笑うと
「お前は来ないのか?」

そう言うと拳法の構えをとった。

4人のチンピラのうちの一人である小菅は怒声をあげると瑞貴の胸倉を掴むと後方の壁に押し付けはじめた。

身長差からも、小菅が有利なのは誰の目からみても明確だった。
小菅の利き腕が青年を殴りかかろうとしたほんの一瞬だった。
「うっ!」

「ぐうぁ・・・・・ イッ イテテテテテ・・・・・・」

「ぐぅ ぐへぇ ガハ カッカッ ゴホ」

小菅は地べたに脇腹を抱えて悶絶している。

何が起きたのか?

瑞貴は小菅が襟を掴んで押した瞬間、先ず相手の内掌に親指が入るように下から添え右手手刀で男の喉下を叩きつけた。
「うっ!」
一瞬動きが止まる男。その手を返して両手で相手の手を挟み込み横にずらしながら自分の胸で手首を打って殺し固定させたまま体を捌いて引き倒した。

一瞬の激痛に男は溜まらず両膝をつき右手で地面をタップした。
「ぐうぁ・・・・・ イッ イテテテテテ・・・・・・」

次の瞬間
瑞貴は、小菅の左脇腹目掛けて思い切り蹴り上げた。
「ぐぅ ぐへぇ ガハ カッカッ ゴホ」

一瞬、時が止まったように静寂がはしった。

瑞貴は静かに、その仲間の倉石に近づく。

倉石はジワリジワリと後ずさりをしたが後ろはビルの壁。
後が無いと思った倉石は、「うぉぉぉ」と声を張り上げると瑞貴をめがけて拳を振り上げた。しかし、瑞貴はボクサー並のフットワークで軽く拳をかわす。
そんなフットワークも狭い路地では役に立たないのか瑞貴の背後にビルの壁が迫った。
息をきらしつつも倉石は、追い詰めたとばかりに大きく腕をふりかぶり瑞貴目掛けて拳を振り下ろした。
またしても次の瞬間男の断末魔が路地裏に反射する。どうやら追い詰められていたのは、男のほうだった。狙ったように青年は、身を翻すと倉石の振り下ろされた拳はビルへと激突した。そのまま、青年は相手の痛めた手首を掴むと片手を添えて内側に捻りながら左足を深く踏み入れて体を反転し、片膝をついて膝を持ち上げるのと同時に手首をさらに殺す方向に引き込んで投げる少林寺拳法の五花拳の一つ片手投」だ。

倉石の体は胴回転するように背中から地面へ叩きつけられた。
そのまま、青年は腕をとったまま仰向けに倒れる男の水月(胃)にむかい踵で踏みつける。

後2人・・・・

もう一人の男、杉谷は怖気づいて逃げてしまった。

最後の早川は、他の男とは違っていた。
伊達に仁流会のバッチは付けていなかった。

早川は瑞貴よりも20cmほど身長が高くリーチも長い。
そしてどうやら元ボクサーらしかった。

ポケットから拳へナックルを嵌めこむとファイティングポーズをとった。

そして鮮やかにステップを踏むとシャドーボクシングを始めた。
そしてゆっくりゆっくりと青年に近づいた。

シュッ 
シュッ
と拳が空気を切り裂く音が聞こえる。

早川のジャブを何とか交わすが、あの素早いジャブはそうそう交わしきれるものではない。
被弾した頬から血が滲みだす。
瑞貴は血を腕で拭うと突然左方向へ大車輪で移動し距離をとった。

何を思ったのか瑞貴は突然片膝を立てもう片方の膝を地につけた伏虎立ちにて構えた。属に言う後伏虎の構えだ。

これでは早川の拳は届かない。が
瑞貴もまたこのままでは避けることが出来ない。
すると早川は瑞貴の顔面をめがけて回し蹴りを仕掛けてきた。
それを十字受けで受け止めると、そのまま足を掬い、早川の無防備の金的へ蹴りを軽く入れ軸足を払った。
早川はたまらず尻もちをついて後頭部を強打した。これでは得意のボクシングも通用しない。


早川は、かろうじて起き上がると
腰元からドスを取り出した。
刃渡りが20cmほどあり、それを抜くと不気味に刃先が乱反射した。

早川と瑞貴との間に一瞬の緊張感が走った

簡単にあしらわれ恥を掻いた早川は
「ぶっ ぶぶっ殺してやる」
と叫びちらした。
目が異常に血走っている。薬でもやっているのだろうか?

恐怖で気をおかしくしているのは早川のほうであった。

そして瑞貴めがけてドスを振り下ろした。

(あーー、もうダメだぁ・・・)


竹田と理紗は顔を背けた

しかしながら

瑞貴は、臆することなく早川の間合いに1歩踏み込むと
上受けをすると中段の直突きを早川の水月に叩きこんだ。

そのまま、上受けした手で手首を下からつかみ、一方の手を強く引くように
使って早川の肘間接部の急所を攻め手首を殺しながら、急速に肘を出させることにより体勢を崩し、体裁きで投げると金剛拳の閂固で急所を決めた。

早川の手からドスが抜け落ちた。

最後に使った技は、その中でも剛柔一体とした五花拳の「上受投」という難易度の高い技だった。

竹田は久しぶりに素敵なバーを見つけたおかげで気分は上々だった。


是非、ここは意中の女性と2人で一緒に通いたい。


これは、どの男にも共通する事だ。



先日、奥手の竹田は意を決して社内の受付嬢の水口理紗に


「素敵なバーがあるんだけど?一緒にどうかな?」


と誘った。


どうせ、駄目と半ば諦めはしていたのだが、


以外なほどすんなりとOKをもらえた事に目を丸くした。



水口理紗は、竹田と同時期に入社した、アルバイトの受付嬢だ。







小説 武道派バーテンダ- code name「Old Crow」




とにかく人目を引くほどの美人だ。


理紗には、才知に優れた清楚な女にありがちな態度の冷たさや、つんつんしたところがなかった。


愛らしい顔立ちに清楚な雰囲気を漂わせ、社内報にも「社内のアイドル」として写真が掲載されるほどだった。


身長は160㎝位だろうか。



丸みを帯びた臀部を優しく包むタイトスカートから伸びるしなやかな脚。。


括れたウエスト。


そして、男達の視線はついつい男心をくすぐる豊満な胸へと行ってしまう。



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そんな理紗とデートできるなんて、竹田にとっては奇跡に近かった。


デートの日取りは休館日前の月曜日に約束した。



後3日後である。



竹田は、どうしたら理紗を喜ばせることが出来るだろうか?


様々なデートマニュアルをこの3日間読み漁った。



素敵なロケーション。美味しい料理とお酒。飽きさせない楽しい会話。



そして特に重要な事は賭け引き。


時には優しく、時には強引に女性をリードする。


その結果



竹田は、最近出来たスカイタワーの最上階の人気リストランテへと彼女を連れていった。



360℃の東京の夜景が一望出来る世界一高いタワーのレストラン。



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晩秋の中、東京においても空は高く空気は澄み切り、絶景の夜景を理紗にプレゼントをした。



これだけのロケーションだ。


野暮な会話はいらなかった。



ショパンの幻想即効曲が静かに流れる。

酒の力もあってか


理紗の愛くるしい顔は、ほんのり赤みを帯び、若いながらも大人の色気を醸しだしていた。


竹田は


「そろそろ行こうか」



理紗と店を後にした。



そんな理紗のほうは、酔っているのだろうか



コートは片腕にもう片方の腕を僕に絡めてきた。



そして竹田の腕に寄り添うと



「私、少し酔っちゃった。竹田さん少しこうして歩きましょ。」



そういうと、上目使いで竹田を見つめた。



竹田の心臓はドキドキと高鳴り、体中の血液という血液が下半身の一部に集中しだした。



竹田の思考回路は、卑猥な妄想から自分を取り戻そうと必死だった。



これは夢なのか?


晩秋とはいえ、酔いもあってか寒くはなかった。



ましてや、今僕の隣には あの理紗さんが密着している。



竹田の腕へと伝わる幸恵の胸の感触が、形や柔らかさをリアルに伝えてくれる。



竹田と幸恵は、少しの間 街路樹の並木道を2人で歩いた。



このまま永遠に時間が止まってしまえばいいのにと、竹田は真面目に考えてしまうほどだった。



もう後1ヶ月もすれば、この並木道もクリスマスの明かりで幻想的な通りになる。



竹田は意を決めて


立ち止まると



理紗と向き合った。



実際には、ほんの短い一時だったのだろうが


竹田には一番長い時間が続く。


時が止まってしまったかのようだ。



そしてようやく重い唇を開いた



「理紗さん、俺。俺、


理紗さんの事が好きです。愛してます。


もうすぐクリスマスです。クリスマスは俺と一緒に過ごしてくれませんか?」



理紗は黙ったまま、俯いた。


長い長い沈黙が続く。



(神様、どうか俺に奇跡を。奇跡をください)


竹田はひたすら心の中で神に誓った。



理紗は改めて竹田を見つめると一言


「ありがとう。私で良かったら!」



竹田は何度も何度も自分の顔をビンタした。



「痛ってぇ・・・ これって夢じゃないよな」



理紗は優しく微笑んだ。



竹田は、思わず大きな声で


「ヤッター」と叫んでしまった。



まだ、


あの長い長い夜は始まったばかりだった。

眠らぬ街大都会東京。

地方から多くの若者が憧れ希望をもち年間にどの位の人口がこの街を訪れるのだろうか?


ある者は夢を摑み、ある者は志半ばにして挫折する。


夢と挫折、希望と妬みが混沌とこの大都市を支配する。

東京都の人口、約1300万人うち270万人が年間自殺をしている。

その推移は、年々増え続けている。1日約8000人弱の人々達が

この都会の片隅で命を絶つ。

この世に恨みを残しながら・・・・


それでも、多くの人々は明日を夢見続けて

一生懸命に生きている。


そんな喧騒から離れた暗い一角に、人々の解決出来ない悩みや恨みを晴らしてくれる

バーがあるという。

そのバーは存在感を隠すように静かに佇む。



唯一自己主張をしているのは、


入り口に埋め込まれた、ウィスキーボトルの空き瓶で作られた行燈だ。



小説 武道派バーテンダ- code name「Old Crow」


その店の名は


「バー OLD CROW」


OLD CROWという酒は、アメリカケンタッキー州で生まれた


バーボンという酒だ。


彼のの名は、竹田拳。


某商社で営業の仕事をしている。

極めて普通の27歳のサラリーマン。

職を転々とし続けて、現在に至るが過去の職歴は一切不明だった。



彼の楽しみはというと馴染みの居酒屋「ユミちゃん」で、焼酎を少々と女将の作る手料理を食べる。


女将の由美子さんは、歳は50代半ば位。


なかなか、器量も良く キップもいい。

オフクロのような存在で、いつも相談にのってもらっている。

時には、叱咤をうける時もある。

その後はバーへと赴く。


最近見つけたお気に入りのバーがここだ。


「ユミちゃん」の紹介なので、間違いはない。


やはり初めて入るバーというのは、ちょっと怖い?


バーというのは、「hide out」ギャングの隠れ家という意味も持つそうだ。


だから、どんなバーも華やかなネオン街から一歩離れた処に存在を消すように明りを灯している。


一度、バーの重い扉を開くと


外の暗い陰惨のイメージとは裏腹に幻想的な世界が広がる。


そう、マッチ売りの少女が、寒い路地裏でマッチを擦った時にのみ広がる、あの世界。


竹田はバーに入ると いつもの現実の自分から離れて、別の人間に慣れた気になれるのだ。


「OLD CROW」は、歳の項は60歳だろうか?


白髪をオールバックに固めたイカツイ顔のマスター、竹内さんとバーテンダーの瑞貴君、妹の彩葉ちゃんと3人の親子で経営している。


入った目の前には、5人ほど座れるだろうか?


大きな檜の板で作られた豪勢な一枚板のバーカウンターがその存在を主張している。


店内の照明は、バーカウンターを照らすダウンライトと、壁のあちこちに埋め込まれたボトルのキャンドル。


オレンジ色の暖かな明かりが店内を灯す。


バックバーには、大小様々なボトルがオーダーしてくれと言わんばかりに自己主張するかのように


ラベルはお客様へ向けられ、一斉に右へ習えをしている。


主にウィスキーの品ぞろえが多く。


バーボンを始め、スコットランド、ジャパニーズと言ったほとんどの銘柄が置かれていた。


奥を除くと大きなウィスキーバレルで作られたボックスが3つほど置かれている。


そこの壁には、大きな「故・松田優作」さんの肖像画が掛けられている。


マスターは、松田優作さんのファンであったのだろう?


だから、店名も優作さんが愛したバーボンウィスキー


「OLD CROW」の名が使われている。


そう、そして今日は奇遇だろうか


11月6日


あの松田優作さんの命日ではないか?


バーカウンターの片隅には、「OLD CROW」のボトルと


ショットグラスに酒が並々と注がれていた。


竹田はマスターにオールドクロウをいただくと 隣のグラスに献杯をした。

今までいろんなバーを見たけど ここが一番だ。
一人で静かに飲むのもいいけど、やっぱり 彼女と二人で来たいものだ。
竹田は咄嗟に会社のマドンナ水口理沙をイメージしていた。

つづく