いよいよ手術日が決定し、全身検査が始まる。眼の手術は通常部分麻酔(局所麻酔)で行うと通知された。血液検査はあらゆる項目、感染症の有無、糖尿病の有無、血圧、心電図、内臓機能検査等にわたるものであった。その検査は手術二週間前に行われた。手術に耐えるかどうかを判断するものである。

 

私は不安なので音楽をやっている眼の手術経験のある同僚に細部にわたって聞いてみることにした。「麻酔はどんなふうなの」とか「手術椅子に座って1時間半も動かずに耐えられるのか」とか情報を集めた。特にイラチの私は本当に耐えられるであろうかという思いがよぎってとても不安であった。

 

医療スタッフから、術前の、目薬ケアの要領を説明された、抗菌剤を目薬でさすのである。それは手術4日前から実施され当日まで続けるものであり目の周りおよび目の表面等すべての雑菌を殺す役目を担っていた。もちろん私は忠実にそれを守った。

 

いよいよ手術日を迎え、手術2時間前までに来るように指示された。白内障のみの手術と異なり、網膜硝子体の手術は難しいのだろう。無事に終わり成功するのかという不安がよぎっていた。

 

まもなく手術待機室に通され、そこで手術対応着に着替えさせられる。この手術待機室で私は音楽家として貴重な体験をした。それはまず患者の気分をいたずらに高揚させない何種類の音楽がかかっていたことである、主に三拍子系の穏やかな舞曲風の音楽がたくさんかかっていたのである。ボッケリーニのメヌエット、ベートーヴェンの七重奏曲のメヌエット、など親しみやすくあまり刺激的でない音楽がたくさん流されていた。

 

これは医療スタッフの配慮なのであろうが、特殊な環境における精神や心情に訴えかける適正な音楽だという印象を抱き私は少しずつ安堵して行くのである。

「音楽療法」というのが現場に生きる体験を初めて理解したのであった。そして「どういう音楽がこういう場にふさわしいのか」というヒントも得たのである。

 

そして、二度にわたる「精神安定剤」の投与があった。やがて点滴の管と心電図連用の血圧計がつけられた。第一回目の左眼の手術の際はこの点滴の管はベテランによって通されたのでうまく装着されたのであった。(続)