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 住友商事の保科一明さんの 『国際ビジネスマン』 (潮出版) を読んで以来、商社マンが書いた書籍は、非常に興味をそそると思っている。本文中にI 商事と書かれているので、著者さんは伊藤忠商事の方なのでしょう。


【政変遭遇】
 1965年のインドネシア、そして1968年のチェコスロバキアで、元首の首がすげ替わる政変に遭遇したそうです。チェコでは、使っていたフォルクスワーゲンはロシア軍の戦車に潰されてしまったが、ドイツのVW社は、大盤振る舞いで新車を無料提供してくれたそうです。


【観光や食事のおつきあい】
 1985年から5年間、パリ支店長の期間は、日本から来る要人の、観光や食事のお付き合いが任務だとか。そんなわけで、この書籍の26頁以降は、大部分がフランスの芸術文化に関わる観光案内です。つまり、この本は、チャンちゃんが期待していたようなビジネスマンの奮闘記ではありません。ややのけぞってしまいました。


【エッフェルさんが作った女神の骨】
 パリ万博以来、フランスのシンボル的建造物であるエッフェル塔をつくったエッフェルさん。それより先に、有名なものを作っていた。フランスがアメリカに贈った、自由の女神像の「鉄の骨組み」 である。見えないけれど。
 エッフェルさんの本職は橋づくりです。当時の機関車は、推進力が強くなかったので、勾配をつくらないための橋梁建設は重要な建設土木工事だったそうです。エジプト、ベトナム、ペルー、ボリビアなど、国内外に31本の橋を作ったそうです。エッフェルさんは1832年の生まれ。西欧諸国が殖民地拡張でおおいに沸きかえった時代です。


【オルセー美術館】
 ルーブルの方がやや有名かもしれないけれど、日本人にとっては、マネ、モネ、ルノアールなど、光の芸術、印象派絵画の殿堂であるオルセーの方が、好みに会うように思います。
 このオルセー美術館の前身は、1900年に落成したパリ~オルレアン鉄道の終着駅兼ホテルでした。大改造は1973年。


【ル・マン】
 オトキチのレースのル・マン24時間耐久レース。1989年の2輪車決勝出場マシン55台はすべて日本車だったとか。ホンダ23、スズキ18、カワサキ9、ヤマハ5という内訳。ただし、ライダーで日本人は3人だけ。


【ドイツ vs フランス】
 プロイセンを撃破してヨーロッパの覇権を確立したフランス軍のナポレオン。クライゼビッツの戦争論を編み出し、ナポレオンに報復したドイツ参謀本部。この本には、このような戦争に関わる独仏間の歴史が書かれているわけではありません。陶磁器とエッフェル塔に関するものです。
 ドイツのマイセン。私にとっては骨董価値の高い陶磁器というより、製作技術の漏洩を怖れて職人は職場から宿舎への移動時に鎖で繋がれていたという、以前読んだ本に書かれていた話のほうが印象的です。それはともかくとして、ドイツのマイセン磁器に対抗して作られたのがフランスのセーブル磁器です。つくりたがった人は、ルイ15世の寵愛を一身に受けてヴェルサイユ宮殿に君臨したポンパドール侯爵夫人だそうです。
 第二次大戦中、パリは5年間ドイツ軍に占領されていました。その間、エッフェル塔のエレベータは故障していて決して作動しなかったそうです。故に “愛国者エッフェル塔” と言われているそうです。


【世界を目指す君に贈る?】
 と本の横帯に書いてあるのですが、この本の内容を読んだ私としては、やや憮然とせざるをえません。なぜって、この本の内容は、商社マンの仕事ではなく殆どが職務を兼ねた趣味にまつわるものだからです。「大手商社の海外駐在員のトップは実に優雅な生活ができるのだなぁ」 という読後感です。
 商社が仲介してきた、今日の日本の高度な工業技術開発に現場で汗を流しつつ携わってきた技術者だったならば、私程度の読後感ではすまないのではないでしょうか。
 この本を読んで、「世界を目指す商社マンになりたい」 と思う青年がいたとしても、そのような青年に余り期待はできないように思います。あたかも天下りを目指して官僚になりたがるような若者と同列にしか思えないからです。

 

<了>