殺気すら覚える熱波を凌いで凌いで
ようやく夏が遠ざかっていくと
すぐそこに年の暮れが待っている

その頃になると
またも聞こえてくる
ジョンレノンのハッピークリスマス

まるでクリスマスが
ジョンの命日であるかのように
凶弾に倒れ
伝説となった音楽家を追悼する
讃美歌のよう

毎年テレビ局が
オノヨーコにインタビューを求め
ヨーコが沈黙に臥す一線は
やはり崩されない

その光景を目にするたび
ジョンとヨーコが出会う前
互いに存在した家族は
どんな気持ちでいるのだろう
と考えてしまう

夫または妻そして子供を捨てて
いっしょになったジョンとヨーコ
ふたりのラブ&ピースな活動と
悲劇の幕引きが
フューチャーされるほど
白けた気分になる

事が起きる以前から喪失感に泣いた人物は
きっといたと思うよ

あんがいドライに
サヨナラしてるかもしれないけど
愛してたのに
突然決別を宣告されたのは
ヨーコだけじゃないのにさ

“想像してごらんなさい”
から始まるヨーコの詩は
何十年たった今でも
最先端の外交術だと思う

ハッピークリスマスは
ヨーコのスピリッツから派生した
ジョンとの共有楽曲だと
勝手に思ってる

だけど
クリスマスムードに受かれた最中に
あちらこちらで流されると
ほんとうに白ける

さあ隣の人と抱き合おう
讃えよう
みたいな空気を煽るやり方は
ますます気持ちが
トーンダウンする

戦場の兵士は
クリスマス休暇で帰郷するのか
銃弾から逃れ続ける子供に
サンタクロースは訪れるのか
年が明けたらまた
銃撃戦が再開されるのか

誰も望まなければ
戦争なんて起きない
シンプルなジョンのメッセージが
新人歌手のプロモみたいに
メディアに大量生産されるクリスマスは
好きじゃない

流れてる裏では
戦争が続いてる
浮かれてるのは
平和ボケした戦争と無縁な人々ばかりじゃないか
ドキドキする
ゾクゾクする

てめぇの存在が
誰かにそんな波紋を
広げてるって
嬉しいことだよ
くすぐったい

うつうつと
カルマに絡めとられてると
てめぇの存在が
確認できなくなる
いなくてもいいと
思えてくる

たまに
はしゃげる相手がいないと
人間業なんて
やってらんない

かつて
痛烈な存在感を
知らしめてくれた
あとにもさきにも
唯一のたからもの

きのうという日を
かってにきみの記念日にした
謝罪と感謝をこめて

きみのアプローチはただひとつ
絶対的な幸福感を放っていたこと

映画も音楽も
どんな特上のデートにもない感動を
教えてくれたこと

だから
きみの記念日は
1年先も
その先も
つづいてゆくのです




いっしょうけんめい顔をぬぐう
拭いても拭いても
きれいにならない
だってハンカチが汚れてたんだもの
きたないハンカチだけを
握りしめていたんだよ


狭所恐怖症のくせに
うずくまって丸まって
待ち続けているんだって
袋小路の先に
期待をこめてあとずさる

きみはみつけてくれるかい
不毛なぼくを
笑い飛ばしてくれるかい

相変わらずだねって
肩を抱いてくれるかい


漠然と
近い将来、
遠い未来に
期待できなくなったのは
としをとったのかな
ねえきみ。
きみの相槌を聞きたいよ