side…M
自分で言うのもナンだけど。
翔ちゃんはボクのことが大好きだ。
それはボクに注がれるまなざしや言葉や態度に溢れていて、いつもボクを幸福感で包み込んでくれる。
もちろんボクだって翔ちゃんが大好きだし、世界で一番大切な人だと胸を張って言える。
そんなボクらのお互いを想う気持ちは、同じくらいの重さで程よくバランスを保っている、と思っていた。
週明けの気だるい昼下がり。
土曜にあったクリスマスイベントの報告会がようやく終わり、ひと息つこうと会議室の窓から外を見下ろすと。
クリスマスムード一色の街がいつもよりキラキラと輝いて見えた。
「アイバセンパイ?ため息なんかついてどうしたんですか?」
「あ、マリウス。お疲れ様ぁ。」
広報部付きの通訳をしているマリウスが背後からにょっきりと長身をかがめてボクの顔を覗き込んできた。
コーヒーブレイクしましょ♪と微笑む彼の両手には湯気たつマグカップがふたつ握られていて。
鼻腔をくすぐる芳しいコーヒーの香りに疲れが癒えていく。
「アイバセンパイ?また何かお悩みですか?」
「うん…ちょっとね。」
心優しき後輩マリウスくんはボクが思い悩んでいると、いつも寄り添うように側に居てくれる。
その笑顔は人懐っこい大型犬を思い起こさせる。
「クリスマスイベントの時にね。翔ちゃんの上司の編集長に久しぶりに会って、会社での翔ちゃんの様子を聞いたんだけどさ。こんなに付き合いが長くても知らない事がまだあるんだなぁって思い知らされちゃって。」
「アイバセンパイの悩み事って、いっつもダーリンの事ですねぇ。」
マリウスは呆れた様に笑いながらもボクの話に耳を傾けてくれている。
「翔ちゃんってさ。ボクとふたりでいる時は明るくてニコニコしてて冗談も言うし、甘えん坊なんだけどね。会社では目立たないように気配を消してて、すっごく寡黙なんだって。」
「えっ?アイバセンパイ好き好き星人のあのダーリンが?」
驚いた表情でマリウスが目を見開きボクを見る。
「この広報の仕事って人前に立つ事が多いからさ。不特定多数の人の目に晒されて、自分の意思とは別のところで目立ってしまうでしょ。」
「確かにアイバセンパイはメディアに引っ張りだこですもんね。」
「翔ちゃんが会社の人と深く付き合わず、恋人の存在やプライベートな事を一切言わずにいるのは、ふとした自分の発言からボクとの関係が知れ渡ってしまうのを恐れているからで。それはボクが好奇の目に晒されない様に守るためなんだよって。編集長がこっそり教えてくれたんだよね。」
ボクの言葉にマリウスが優しい笑みを浮かべる。
「アイバセンパイ、めちゃくちゃ愛されてるじゃないですか。」
「そう!そうなんだよ。ボク、翔ちゃんからめちゃくちゃ愛されてんの。」
「…で。アイバセンパイはいったい何に悩んでるんです?」
マリウスはまばたきを2回した後、訳が分からない!と言いたげに肩をすぼませながら琥珀色の瞳で問いかけてくる。
「だからぁ。ボク達はお互いに同じくらいのエネルギーで好き合ってるって思ってたけどぉ。翔ちゃんはもっと大きな愛情でボクを包み込んでくれていたんだなぁってすっごく感激しちゃってさぁ。」
「………。」
「でもね!ボクだって翔ちゃんの事、大好きで大切で愛してるんだよ!だから、その翔ちゃんからの大きな愛にどうやって応えたらいいんだろうって考えてたのっ。」
「………。」
神妙な様子でボクの話を聞いてくれていたマリウスがぽかんと口を開けている。
「ねえ!ちょっとマリウス?聞いてんの?」
「アイバセンパイ?それはただの…ノロケですね。」
吹き出して笑うマリウスにつられてボクの頰もゆるむ。
「そういう風にアイバセンパイがダーリンに何ができるかを想い続ける事が、一番のお返しになるんじゃないですか?」
「そんな事でいいの?」
「もうっ。相変わらずのラブラブばかっぷる!」
そう言ってマリウスがお手上げのジェスチャーをしながらあっかんべーをする。
そんな彼に負けじとボクもあっかんべーで応酬していると。
「おーっす!お疲れ、マーサキくん♪」
ノックの音と同時に会議室のドアが開き、真っ赤なハイヒールのつま先が目に飛び込んできた。
あけましておめでとうございます♪
こちらは2023年10月に書いてストックしたままになっていたものです。
相変わらずラブラブばかっぷるでしたね(笑)。
このお話を完結できたら…とは思っているんですが、長らくお話を書いてないのでリハビリから始めないと(笑)。