青白く綺麗な寝顔の雄鷹を見ながら、錦糸雀はひとしきり泣く羽目になった。
寝息さえ立てない、凹凸際立つ美しい横顔。
育ちが良いのか本当に行儀良く静かに眠る姿。
錦糸雀がそれを見るのは別に初めてではない。
しかし、今夜は錦糸雀の目から涙が溢れ、拭っても拭っても止まらない。さらさらさらさらと涙は続く。
不仕合わせの中の仕合せなのか
不仕合せには不仕合せしか無いのだろうか。
錦糸雀は、歌を忘れたフリをしていた。
ひとつの歌に囚われたくなかったからか、今まで沢山の歌を唄って来たからもう十分と閉したつもりだったのかは分からない。
金糸雀は口先から音色を出す事はできるが、歌を思い出す事は到底無いと長年雄鷹は思っているだろう。
第一、金糸雀がそう惑わせたのだから。
幾年経ち、勇ましくなった雄鷹の声と姿、逞しさと狡さに完敗した事を、今生此の夜にはっきりと金糸雀は思い知った。そして自身が歌を忘れてなどいない事も痛切に。
金糸雀は自身の腕を啄ばみ、未だ涙を止められないでいる。
金糸雀はもうすぐ滅ぶに値するだろう。
沢山の歌に埋もれゆくこの音を、自分を、雄鷹にはずっとずっと忘れて欲しくないと、眠る雄鷹の首筋を覆い、滑らかな肩に額を付けて、静々啼いた。
すでに白み始めた明るい明日が、雄鷹の真実なのだ。