且坐喫茶-shazakissa-

且坐喫茶-shazakissa-

絵空で他愛ない事を書いています。どちらかと言えば不道徳な話を好んで連ねています。

突然の砂嵐に眼を病み

身を焦がした春

負った痛みよりも空虚に耐えられず

口元を手で覆い咽び泣いた月日


どうせ眠り滅ぶこの身体

今今は眠る事が困難と

すぐさま開く瞼

駆け巡る情緒発作に胸ぐらをを掴まれ

呼吸の仕方すら覚束無かった皐月の宵



しかし突然また風は吹いた


傷だらけの身体のまま

強く踏み締め舞い戻った懐かしい区域

予定の時刻を過ぎても

終わらない夢展望の温床

-分かっている、いつもそう-

妻神を焦らした生温い梅雨前夜



蒼白い影は長く美しく

本当にいやらしい


辛いのは独りではなかったと

そぼ降る性を垣間見て

逃れられぬ我々は

きつく抱き合い舐め合った



曖昧な夏の頃

同じ空を飛べずに

こんなにも欲っしていたと知っては泣き

こんなにも心奪われていたと知っては泣く

目の前に鮮やかにある光景は見事に歪んだ

愚かで哀しい昼下がり



振り返ればその空白は短いが

かの日々は千秋であり

今尚燻る三千世界


傷跡が語る不安

傷跡をなぞり疼く

君はそのケロイド状の様式美に

これから何度

口付けしてくれますか?




そして四度目の

冷たい吐息の季節になり

突風に怯えながらも

今日もまた飛び立ち

君に逢うのです

逢ったのです





目に見えないものを手繰り寄せるため

童謡で昔覚えた糸巻きの仕草をしてみたり

古いドラマで観たような

毛糸の巻き直しの手動きをしてみた


見えないから

見えないからこそ

手繰り寄せたと思う

巧く行ったと思う


それでいいのだ

万事思い込みが重要だから

江戸から明治に変わる頃の事。

日本のある漁村の一角に

薬草を煎じ、日々村民を看病する女がいたのだそうです。名前は琴といいました。


朝早く琴は海辺と反対側の山辺断崖に薬草を摘みに出かけ、帰宅してからは家々を周って

患いのある者、痛みを持つ者を診る生活です。

医者と言うには学が足り無い身の上ながら、先人の手解きにより得た知識を基に、民達からは厚い信頼を寄せられておりました。


人の為に生き、自らを顧みず暮らす彼女。

日のあるうちは忙しく、また他者を癒す事で自分が

癒される事もありましたが、人知れず月を見ながら孤独を抱え涙する夜もあったのだそうです。


そんな琴のもとにある日、

沖合漁で生計を立てる年若い男が深い傷を負い運ばれてきたのです。

彼女は民達にも変わらず十分気を配りながら

懸命に男を看病し続けました。


男は日に日に回復します。


男は琴に

彼女が知らない海の話を聞かせ

彼女の知らない世界をふんだんに想像させます。

彼女にとってそれはとても刺激的であり

その話を聞かせてくれる男もまた

若く凛々しく勇ましい魅惑の人でありました。



琴の献身は実を結び、男は程なくまた海原へ

戻る事ができました。


男は漁から戻った折には必ず、元気な姿を見せに琴に会いにゆき、魚介を贈るのを常としました。



しかし幾度目かの季節が過ぎた頃、

彼の行方が聞こえなくなり

彼女の胸のうちが再び開く事はありませんでした。


彼女はまたひとり。


そのまま生涯をひとり過ごしました。



互いの生き様に尊敬と学びを感じ、また歳の差故か気づいていたかどうかさえもわからない不器用な愛を持った者同士は、魂の結びを来世へと渡したのです。






今夏の隙間に父が死にました。

2年前の冬の隙間には叔父が死にました。

石に並んで刻まれた兄弟。

その石には父の父が、父の母が、父の妹が。

かつての家族が水入らずで並びました。


きっと今この家族は幸せだろうと察しています。

冷たい土に座しても

狭いながらも楽しい我が家がそこに有るだろう、と。時間の無い世界で急ぐ事のない団欒を、と。


どうか、どうぞ皆安らかに。