概念を愛している彼もしくは彼女についてだが、私はそれっきり考察を止めた。凄まじく時間を無駄にするし、彼もしくは彼女ひとりに潰されるような戯曲ではないからだ。私には私が愛する概念があるので、あなたにはどうか邪魔をしてほしくない。

 だいたい、関わらなければ他人のままでいられたはずなのに、どうしてわざわざ喧嘩腰でマウントを取ってくるのだろうか。私はひどく理解に苦しむ。ただし、それはコミュニケーションの放棄ではない。ましてや、恋人同士の擦れ違いなどでもない。むしろ、くだらない争いに近い。

 私が関わらないところで、せいぜい概念についての愛を語っていればいいではないか。すべてを自分の信じている概念にまとめようとするのはちゃんちゃらおかしな話であり、議論の場を無理やり公に設定するのも支離滅裂で、まるで相手にならない。どうしたものか。

 

 私はワインの入ったグラスを仰ぐ。すると手が滑って、床にグラスが落ち、割れてしまった。片付けが面倒なので、そのままにしておく。

 

 中身が入っていないのがせめてもの幸いだ。私は割れたワイングラスを一瞥すると、研究室へとまた消えていったのだった。