今日はまるで春みたいな温かさだね~
とか満面の笑みで言ったらバイトの子に真顔で
春ですよ
と言われた。
やかましわ!
アルバイトの子でY田君という子がいる。
トンチのできない一休さんというあだ名を授かった子なのだが今日はその子のお話。
彼が本当不器用な子でねぇ。
まじであり得ないくらい不器用なのよ。
どんくらい不器用かって言うと錠剤を飲もうとして最初に水を口に含むんだけどいざ錠剤を口に入れようとしたらその前に水を飲み干してしまうくらい不器用。例え話をもってきら余計わかんなくなっちゃったけどとにかく不器用。
朝一緒に仕事しててミスするじゃん。ほいで軽く注意して成り行き見守ってたらまた同じミス。厳しく注意してもまた同じミス。
これは僕の教え方に対する一種の反攻かと思えるくらいのミスっぷり。さもなきゃテロ。
やいのやいの口うるさく言ってたら会うたびに開口一番で
「すみませんでした」
とか言うくらいになった。
うん、ここまでくると敵ながらあっぱれという感じだね。
で、最近なんとか形になってきてほっと胸をなでおろしてた矢先に何を思ったか心機一転の丸坊主。坊主に毛の生えた程度の見まごう事なき丸坊主。
一瞬俺を巻き込んで解雇(クビ)になるくらいのミスをやったかとヒヤヒヤするくらいの坊主だったからね。
それにうちのBOSS(上司)が一休とあだ名をつけ、でもあいつトンチできないからトンチのできない一休と正式名称がきまったのよ。
そんな彼が先月の末くらいから研修旅行とかの名目でパリの方へ旅行に行くと。
一休パリへ行く・・・。
すっげーシュール。
「これや、一休。目の前のかの有名なエッフェル塔はパリジェンヌなのですよ。お前のテクニックでエッフェル塔を逝かせてみなさい」
とか言われてもうまい返しなんて出るわけない。
セーヌ川の水をぶっかけて
「いっぱい濡らしてやりました、将軍様」
とか気の利いたことすら言えやしない茶坊主ですから。
大丈夫かな~フランス人にトンチできないとか馬鹿にされていないかな~とこひそかに心配してたわけですよ。
そんなはた迷惑な心配を余所に、こうして一休は新衛門さんのお供もつけず単独でパリに行ったみたいなのね。
で、今日いきなり帰ってきて、僕が休憩してエロ漫画を熟読してるとこにのしのしとやってきてエッフェル塔やばいっす~とかのたまいてたからどうやら無理難題は言われなかったらしい。
可もなく不可もなくというところか、クソ!
で満面の笑みでパリの(主にエッフェル塔)の良さを語ってくるんですよ。長ウザい。
でもいい上司としてハニカミ王子以上の気まずそうなはにかみで応えてあげてたんですね。歯がゆかった。
土産でも置いてけぇれ!!
「忘れてました。お土産です。何がパリっぽいかなと考えたら結局これになりました」
とかいって取り出したものを見た瞬間あれだね。脳が震えた。全米が震撼した。パリが萌えてた。
今から書くけど気の弱い奴は見ない方がいい。もしくは心臓しっかり叩いとけ!!
ミスド(ミスタードーナツ)だった。
・あぁ~あ、ロデってば。少しでもわらかそうと必死だよ。
・つまらん!!お前の話は実につまらん!!
とか思わないでほしい。マジでミスドだった。しかも半分チョコで塗られたやつと砂糖まぶしたやつ。エンゼルなんちゃらとかオールドファッションとかの王道から完全に外れ切ったやつ。
それを各6個くらいずつの2種類。バラエティーの欠片もない。酷い。
その後
「うそです、こっちがほんとです~凱旋門饅頭」
とか期待したけど、マジでその後何にも出てこない。
ミスドオンリー。
日本に帰る日の朝、ちょっとしんみりした。
「異国の地に来たてで心細かった時に食べたミスド。おいしかったなぁ~。離れてみてバイト先の上司ロデさんの優しさがわかった気がするよ。厳しかったけど僕のために言ってくれたんだよな。僕だって歩き出せてるのに・・・。そうだ!ロデさんにこの味を食べさせたい!僕のために心を鬼にして言ってくれたロデさんに!あなたの優しさに気付きましたよって!!」
そう思うとぼくはつい駈け出していた。
後ろからセバスチャンが声をかけてくる。
「一休殿~もう電車に乗らないと、飛行機に乗り遅れますぞ~」
「セバスチャンごめん、先に行ってて!どうしてもあの味を食べさせてあげたい人がいるんだ。大丈夫飛行機の時間までには戻るから」
「やれやれ、またいつものことか~。わかった一休殿!心おきなく行ってきなさい!荷物は私に任しといてください!」
「メルシーボクゥ。君は最高だセバスチャン!!」
一瞬振り向いてそう告げた。
にこやかに右手をあげていた。
・・・それがセバスチャンをみた最後だった。
僕はこの時後ろからつけてくる黒い影にまだ気づいていなかった。
とかすっげー必死で妄想してみたけど無理だった。つーか誰だセバスチャンて。
店名確認したら普通に職場のはす向かいにあるミスドの名前書いてあったから。歩いて3分じゃん。
「それは、彼のフランス土産ですか?」
「いいえ、パシリです」
どうやら一休はパリに行ってトンチではなくアメリカンジョークを身に付けた模様。
しっかり帰宅する頃には奇麗に無くなっていてなぜか俺がアルバイトのみんなからお礼言われた。差し入れありがとうとございますとか。
一休のパリ土産っつたらみんなハトが豆鉄砲食らったような顔をして愛想笑いくれてた。
違うから、何のギャグでもなくリアルだから。俺それよかも少し気の利いたこと言える子だから!!
結局そのまま一休はシフトの確認をして時差ボケを引きずりながら帰ってった。
そんな彼の楽しそうな後姿をみで思った。
土産なんてものは何でもいいのです。その人の楽しかった話、びっくりした話、思い出。そんなもんでいいのです。だってあなたが無事に帰ってきて、今私の目の前にいるのですから。それが何よりのお土産なのですよ。ミスドなんざテイクアウトせんでいいからパリジェンヌをテイクアウトしてこい、ペーペーめ!
そんなことを思いながらかみしめたドーナツはパリの味がしました。
いつか僕がパリに行くようなことがあったら、ケンタッキーをパリから着払いで彼に届けたいと思います。
トリコロール!!