早く老人に、なりたい。~涙は枯れない

早く老人に、なりたい。~涙は枯れない

あれから、もう16年。
決して早くなんてなかった。
でも、15年が過ぎる。
一日も忘れるなんてなかった。

先の見えない棘の途を、
どれにも縋れず、
だれにも語れず、
あてなき彷徨う。

昨日は一番大好きだった姉の二十九回忌だった。


仕事だったから前の日にお墓参りしてきた。

誕生月も星座も血液型も名前の最初の「み」も同じで、優しくて少し抜けてて、僕を一番に可愛がってくれてた姉。

子供の頃、それもまだ小学校の低学年の頃の僕は、日曜日にお出掛けしようとしていた姉を襖の影から見ていた。

「行ってきま~す」と玄関を出た姉のあとをいそいそと半ば隠れながら追いかけた。

その頃、我が家に自転車は父の一台しかなく、姉はその自転車で出掛けようとしていた。


「どこ行くの?」

「友達と約束したの」

「どこ行くの?」

「急いでるから」


そう言って自転車にまたがって行こうとした。


僕は一言も何も言わずにあとを追いかけて走った。

少ししてすぐ気がついた姉は自転車を止めこちらを振り向いた。


「駄目だよ、帰りな」


ハアハア言いながら僕は無言でニタぁ~とした。


「ダメダメ!家に帰りなよ!じゃあね」


そう言ってまた自転車を走らせて行った。

そして、またあとを追って走る僕。


振り返った姉はすぐにブレーキを踏んで止まった。


「駄目だってぇ!」


追いついて、さっきよりも息をきらし、膝に手を置いてゼイゼイしてる僕。


その繰り返しを何度かしても、大丈夫な姉。


そして、友達が集まってる場所に着いた。


「どしたのぉ?弟連れて」

「もぉ、ついてくるんだもん、ごめんね遅くなって」

「いいよ、連れて行こうよ」

「ええ!でも」

「いいよ、いいよ、行こう!」


記憶にあるのは、僕はほとんど言葉を発しなかった。

「わーーい!」も、「やったーー!」も「ありがとう」も。


荷台に座り、姉のお腹に手を回しつかまって走った。


秋だった。

秋の日曜だった。

着いた所は低い木々で覆われてる山みたいなところ。

本当に幼い僕からしたら、山の中としか記憶にない。

周りが畑なのか田んぼなのかも記憶にない。

そんな田園風景の中、低い木の前にゴザのようななにかを敷いて鞄を置き、陣取った。


ここからの記憶は定かじゃないけど、みかんと栗を採って食べた。(漢字が決まってないみたいなので「採って」を使います)

いいの?勝手に採って?

あとあと教えて貰ったのは、友達の家の敷地内との事でした。


まだ少し青いみかんは酸っぱくて、でもみずみずしくて、貧乏だった僕んちでは滅多に食べない物だったから、美味しすぎました。

それがあったので、大人になってからいつでも好きなだけ食べれるようになって、僕は酸っぱいみかんが大好物になっていた。


誰かが持ってきてくれた卵焼きが入った海苔巻きも食べれて嬉しかった。

貧乏だった僕んちでは滅多に食べない物だったから美味しすぎました。

それがあったので、大人になってからいつでも好きなだけ食べれるようになって、僕は海苔巻きの太巻きが大好物になっていた。


お墓参りのあと、スシローで太巻きを見ながら、あの秋の日曜を思い出した。


胃ガンになってしまった姉が手術をして再発するまでには短い期間だった。

最後に旅行した松島で、姉が立ち寄りたがった「田里津庵」と言う「ホヤ貝」を当時食べれる店に行った時には、ほとんど食べ物を受け付けなかったが、好きなホヤ貝を美味しそうに食べていたなぁ。

今一緒に住んでる姉は気が利かないって言うか無神経って言うか思いやりが全く無いって言うか、ほとんどの料理を「うまい!うんまいねぇ、ここ」と爆食いしてるのも記憶にある。

それをうらやましそうに生唾を飲み込む姉を僕は忘れない。

それもあってか、姉が食欲無い時や具合悪い時は、わざと目の前で爆食いしてる(笑)自分がいる(爆笑)


記憶は流れて、亡くなった朝の事も続けて甦る。


そんな1日だった。


なにかをしてあげれたのかなぁ。

何もできないでいた僕。


そのまま意識は母へと続く。

なにかをしてあげれたのかなぁ。

何もできないでいた僕。


そして、チャマへと続く。

なにかをしてあげれたのかなぁ。

何もできないでいた僕。


この三人は、僕には本当に大切な人。

当時は僕の中で出きることは限界までやってたと自分では思っているけど、今現在思い返すともっとあれもこれもできたじゃないか!と自分を責めている。

そこも、髭男のあの歌に感じる物があるんだ。

「たら」、「れば」、ばっかり。

そう、後悔ばっかり。


僕は匂いに敏感なのと、音にも敏感。

お墓参りのあと、スーパーで買い物をして車に荷物を入れていたら、甘いかほりが漂ってきた。

これは、、、キンモクセイだ!

母の好きな花。

車を運転し始めて辺りを見回したら、あ、いた!1本だけ。
他の木に紛れて、いた。
家に戻って母と散歩して、
座ったベンチの、
いつもの、
キンモクセイの、
木の、
ところに行ったら咲いていた。
気がつかなかった。
見上げた花に向かって空気を吸ったけど、なんでか近いと匂いはあまりしなくて、離れると強烈に香ってくる。
何も気にしてない時に限って、香ってくる。
不思議な花。


思い出そうとすると、なんだっけ?どこだっけ?てなるのに、ふいに何気に記憶が甦る時みたいだ。

まるで、思い出みたいだ。

前回と同じ写真使ったからね