靴箱の奥に、ずっと置きっぱなしのスニーカーがあった。
底がすり減って、紐もほつれて、
もう履かないとわかっているのに、なぜか捨てられなかった。

たぶんそれは、思い出が染みついていたから。
雨の日も、迷った日も、
あの靴はずっと私の足もとにいてくれた。

けれど今日、思いきって袋に入れた。
軽い音を立てて、底が少し沈んだ。
不思議なことに、その瞬間、
胸の奥で何かが“カチッ”と動いた気がした。

人は、過去を捨てることでしか、
未来にスペースを作れないのかもしれない。

靴を手放したら、玄関が少し広く見えた。
そしてその広さの分だけ、
私は前に進める気がした。