少し前のことになってしまいましたが・・・
昨年末から家の近くの大きな公園の傍に３つつながったキャンピングカーのようなバンが「定住」するようになりました。
テロ等のこともあり、最初は不審に思い、なるべく近づかないようにしていたのですが、どうしても通り道であることもあり、少し観察するようになりました。
３つのバンは家族が住んでいました。彼らの世帯構成は、どうやら両親と子ども３名。一番上の兄の彼女？と思われる６名暮らし。一番上のお兄ちゃんは20代前半か10代後半？２番目は小学校高学年から中学生、一番下は小学校３－４年生といったところでしょうか。
このバンはまさに彼らのお家であり、「家」にはテレビ、キッチンはもちろん、ガスボンベ、自家発電機等々が備えられていました。
水を流していた様子はありますが、トイレや生ごみをどうしていたかはわかりません。あまり異臭が強くなった印象もありませんでした。
時が過ぎるに従って、この「新たなご近所さん」の小さな男の子と顔を合わせる度に笑顔で挨拶をするようになっていきました。
そんな矢先の４月のある日、５か月住んだ公園の一角から突然彼らは姿を消しました。心を開き始めていたところだったので、勝手になんだか寂しくなってしまいました。
ぼーっと考えながら散歩をしていた２週間後、近くのショッピングセンターであの子を見つけたのです！
つい、「How have you been recently?」と声をかけてしまったところ、近くにいた男の子のお兄さんに思いっきり怪訝な顔で「Huh? Who are you? What’s happened?」と凄まれてしまいました。
「Nothing」と答え、立ち去ったものの、あの強烈な自己防衛とも言える凄み方と子供達の肥満、兄の彼女の身なりなどが気になり・・・、同じクラスの友人の力も借りて、調べ始めました（笑
イギリス国内にはアイリッシュ・トラベラーという移動型の生活体型を取る集団が存在し、ヨーロッパ国内では同様に移動型の生活を送る人たちのことはジプシー、ロマなどと呼ばれます。ナチス時代にはユダヤ人と同様に迫害の対象になり、現在ではだいぶ見えづらくなったものの、社会的な偏見は未だに残っています。
なかなか実情を捉えるのは難しいですが、統計上、アイルランド人口の0.5%程度を占めると言われているようです。Office for National Statistics(ONS)というイギリスの統計局によると、全員が全員移動型の生活を送っているわけではなく、基本的には約60％が家やバンガローに住んでいて、一年間のある時期だけバンで他のところで暮らすなどの生活様式を持っており、全体の20-30%が常にバンで生活をしているようです。
近くにいてみて、まず疑問に思うのは子供たちの教育。子供達は平日の昼間も公園に出ていたり、「家」の中でテレビを見ていたり。
実際の政府報告書を読んでも、義務教育を修了していない人がアイリッシュトラベラーコミュニティでは約60%。UKの一般人口でも23%ですが、それをはるかに超えています。女の子たちの結婚年齢は16-18歳と早く、学校を離れる年齢は約11歳ととても早く、ひとり親になる確率も一般人口に比べて1.5倍です。
フリーの医療サービスを受けられるNHSへの登録、GP(一般総合医)への登録は一般人口はほぼ100%ですが、Traveler communityでは約７割。（Peters et al. (2009)）無料で受けられるワクチンですら一般人口の80%にとどまっています。（Dar et al. (2013)）
最初は住んでいた土地の飢饉から逃れるために定住から移動型になったと言われていますが、今も様々なルールから外れることを好んで生きています。
国としてどこまでカバーすべきなのか、コミュニティの中の医師としてどこまでフォローすべきなのか、なんだか色々考えさせられてしまいました・・・
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%A9%E3%83%BC
なかなか表に出て来ない彼らですが、彼らのことを追いかけたドキュメンタリー番組がいくつかあります。しばらくはまっております。
https://www.youtube.com/watch?v=rseKD_nkzlQ