これは今年の夏、私が実際に体験した話です。
その日、仕事を終えた私は毎週月曜日に行っているフットサルをして汗を流していた。
7月下旬ということもあり、夜とはいえ酷く蒸し暑くこの国特有の過酷な熱帯夜だったのを覚えています。
フットサルも終わり、普段運動をする前になるべく食事を取らない私は激しい運動をしたうえにたくさんの汗をかいたこともあり、とてもお腹が減っていた。
着替えを済ませ車に乗り込んだ私はすぐさまエアコンを全開にし、遅めのディナーをどうするか考え始めました。
汗をかいたことで身体は塩分を欲していた。
コンビニで適当に済ませるのではなく、いっそガッツリとラーメンなんか食べたいとも思いましたが、空腹と同じだけ疲労も溜まっていたので車の乗り降りの必要がないドライブスルーのあるところに絞りました。
しかしこんな時間に営業している店はほとんどなく、結局赤い背景に黄色でMと描かれた看板の、国内でもっとも人気のあるファーストフード店になるのはもはや必然だった。
ちょうど帰り道に店もあり、もうお腹がすいてたまらない私は急いで店へと向かった。
車を走らせ10分もすると例の看板が見えてきました。
昨今、人員不足などの影響で深夜の営業を取りやめているコンビニも出てきている中で、ドライブスルー限定とはいえ24時間営業をしてくれていることは非常にありがたい。
そうしてまだ見ぬ深夜営業のスタッフさんにありがとう、と感謝の気持ちを噛み締めているうちに店に到着しました。
どうやらドライブスルーは店の裏側にあるらしく、私は道路に描かれた矢印に従い車を進めた。
そして店の角を曲がったその瞬間、背筋が凍った。
思わず急ブレーキを踏んで、私は目の前の光景を凝視した。
人がいる。
40半ばくらいのハーフの様な顔立ちの男がドライブスルーのメニューの前で立っていた。
夜中に予期せず人に出くわした事にまず単純に驚いたのだが、私も昔歩いてドライブスルーを利用したこともあったので"それ自体"は特段異様なことではない。
異様なのはそのあとの男の行動だった。
男は私に気づくなり、驚いたような顔をしてメニューの裏に隠れたのだ。
しかし、隠れるにはもうだいぶ手遅れであり、もはや男自身も隠れられているという自覚はないだろう。
なにより、その間、私と男はしっかりと目が合い見つめあっているのだ。
これはもう隠れてはいない。
時間にして10秒ほどだったのだろうが、私には永遠に感じられるほどの理解不能な時間を過ごした。
すると、男が唐突にメニューの裏から出てきた。
私は咄嗟に身を構え、男の行動に注目した。
酔っ払っているのだろうか、
目はやや虚ろになっていて、なにやらフラフラとしていた。
本能が察知した。
関わってはいけないタイプの人だ。
逃げ出そうか思案していると、よく見ると男はなにやら車の中の私に向かって何かを言っている。
私は恐怖に慄きながらも、非常に理性的だった。
男が何をしてくるか全く見当もつかないので必要最低限の隙間を確保して恐る恐る窓を開けた。
耳を澄まして聞いてみると、ようやく男がなにを言ってるのかがわかった。
私は再び戦慄した。
男はこう言った、
「大丈夫、大丈夫、カモンカモン。」
私の人生において、これほどまでに大丈夫ではない大丈夫は聞いたことがなかった。
愕然としながら震える私をよそに男は更にジェスチャーを加えながら決してだいじょばない大丈夫を投げかけ続けた。
そして、少し落ち着きをとりもどした私は窓をゆっくり開け、なんとか男に対して一言絞り出した。
「大丈夫です。」
ここからはもう地獄だった。
しばらく意味不明な遠慮の応酬を繰り広げ、もう精神がおかしくなりそうになっていたそのとき、事態は唐突に終わりを迎えた。
メニューのスピーカーから女性の声で、
「徒歩でお越しのお客様、そのまま注文を承りますので角を曲がってお進み下さい。」
と。
男はその女神の声に言われるがまま、フラフラと千鳥足で角を曲がっていった。
気のせいかもしれないが、男は去り際に私に向かってテヘッとした顔をしていたような気がした。
呆然としていると、女神は続けざまに私にも注文を聞いてきたので、すかさず、
「クーポンの〇〇番をお願いします!」
と伝え、今度は店員さんと要領の得ないやり取りを展開している男に充分すぎるほどの"車間距離"を空け、確実に店から離れていくのをしっかり確認し、自分も女神から商品を受け取り店をあとにした。
そして緊張状態を維持しながら自宅へと向かっていると、ハンバーガーを頬張りながら信号を渡る先程の男を発見した。
絶対に気づかれてはいけないと思い、急いで男の脇を通り過ぎ、よくわからないが男が見えなくなるまで私は息を止め続けた。
fin.
たまにはこうやってダラダラと文章書くのもいいな( ˘ω˘ )