幕が開いた瞬間、少しだけ息が浅くなった。
懐かしいはずの場所なのに、どこかよそよそしくて。
それでも一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わるのがわかった。
ああ、ここだ。
そう思った。
10年ぶりに立つ劇場のステージ。
何度も立っていたはずなのに、身体が覚えている感覚と、心が追いつかない感覚が入り混じっていた。
照明の熱、床の硬さ、袖から聞こえるざわめき。
全部、知っているはずなのに、全部が少しずつ新しかった。
あの頃の私は、この場所に立つことが“当たり前”になっていたと思う。
毎日のように繰り返されるレッスンと本番。
うまくいかないことに悩んで、立ち位置や振りを気にして、ただ必死で。
ステージに立てること自体がどれだけ特別なことなのか、正直、ちゃんとわかっていなかったと思う。
ただ、そこにあるものだった。
でも今は違う。
時間が流れて、離れて、違う景色をたくさん見てきたからこそ気付く
あの頃、当たり前に感じていたすべてが、当たり前なんかじゃなかったこと。
スポットライトが当たることも。
名前を呼んでもらえることも。
誰かが時間を使って会いに来てくれることも。
その一つ一つが、本当は奇跡みたいな積み重ねだった。
ステージの上に立ちながら、ふと客席を見たとき。
あの頃と同じように、でも少し違う温度で、視線が返ってきた。
懐かしさだけじゃない。
ちゃんと“今”として、そこにある景色だった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
ああ、私はこの場所に立たせてもらっていたんだなって。
ずっと、誰かに支えられていたんだなって。
当たり前なんて、ひとつもなかった。
むしろ、全部が奇跡だった。
20年という時間は長いようで、でも一瞬みたいでもあって。
その間に、たくさんのものを手にして、たくさんのものを手放してきた。
でも、あの日のステージに立った瞬間、
確かに全部が繋がった気がした。
過去の自分と、今の自分が、同じ場所に重なったような感覚。
あの頃の私は、きっと知らない。
この景色の尊さも、この一瞬の重みも。
だからこそ、今の私は、ちゃんと知っていたいと思う。
この場所に立てること。
誰かに見てもらえること。
想いを届けられること。
そのすべてが、決して当たり前じゃないということを。
ステージを降りたあとも、しばらく余韻が残っていた。
夢の中にいたみたいな、不思議な感覚。
でもきっと、あれは夢なんかじゃなくて。
ちゃんと現実で、ちゃんと“奇跡”だった。
