<どっちもどっち>ストーリー編
オレはごくごく普通のサラリーマン。
オレの嫌いな同期が同じ部署にいる。
そいつのことを「ヤツ」と呼ぼう。
ヤツは、ちょっとしたミスでも部下を𠮟りつけて
精神的にボコボコにする悪いやつだ。
あの感情むき出しの声は、
みんなの集中力も削ぐ。
許せん。
だけどすぐ風邪を引く。
午後病院に行ってそのまま直帰したりして、
仕事をすぐさぼる。
女子の前では、
昨日仕入れた食べログ情報をひけらかす。
ミシュラン一つ星の店がすぐ近くにある
とか言って、デートに誘おうとしてる。
でも女子社員はみんな、
ヤツが信頼できないことを見抜いているので、
相手にしていない。
今オレは自分の部下を
引き連れて飲みに来ている。
いつものようにヤツの非道さを
酒の肴にして盛り上げているところだ。
「課長、ちょっと飲み過ぎですよ」
と部下が興ざめなことを言う。
「バカ言え、まだビール2杯だぞ。
終電って時間でもないし」
「課長、明日が早いので
この辺で失礼します」
部下のひとりが席を立つ。
「アレアレ? 帰るの?
もっと盛り上がろうぜ」
ま、いつものことだ。
若いやつらは今一つ根性がない。
ヤツのことなら朝まで話せるぞ。
一番イヤなとこは、言葉の端々に
自慢を差し込んでくるとこだ。
自意識過剰ってやつだな。
ウザすぎる。
そのくせ、ヤツのスラック見たことあるだろ?
中身空っぽ。評論ばっかしやがって、
具体案はゼロなんだよ。
ヤツの口癖聞いたことあるか?
"口より先に手が出る" ってさ。
今の時代じゃもうパワハラだぜ。
知能低すぎなんじゃネ?
「課長、私も帰りますよ。
もうやめときましょ。
ホントに終電なくなるから」
「はあ? イヤイヤまだワイン2本だし。
タクシー代出してやろうか?」
(何かつぶやく)
「どっちもどっちって今聞こえたぜ。
おお、見上げた度胸だ。
もっと盛り上がろうぜ。
Come on! Babe!」
「失礼しまーす」
「なーに言ってやんだい。
まだビール2杯ですよ。
終電って時間じゃありませんよって。
ひっく・・・うう・・・
アレアレ? これ誰の卵焼き?
いいか、もう食っちまうぜ」
その問いに答えはなく、
マスターが店の入り口にかけていた
暖簾を中にしまっている。
「あれ?閉めるの? マスター。
ねえ、マスター」