複雑な思いを胸に、大間に着いた。さすがは北国の年の瀬、とんでもなく寒い。横殴りの雪が吹雪く中、ぼくは自分の出したお歳暮の住所を頼りに、その家に向かった。そこは真新しいアパートの一階だった。玄関を開けると…。

そこには……また、どん兵衛をすする人がいた。今度は女の人だった。
“また?…ぼくは今年2回も引越したのか?”
いったい今年のぼくに何があったのか?本当のぼくの家はどこにあるんだ?と、自問自答しているうちに、その家にいた女の人が話かけてきた。
『あなた。おかえりなさい!!』

………⁉。……あ、、あなた⁇。
結婚したのか?ぼくが?この人と⁉
…この、ばばぁ…いや、この、どん兵衛ばばぁと??
だからか!!だから待ち受けが、広末から蓮舫になってたのか!!
今年、急激に年を熟した人が好みになったのか?
本当に今年は何があったというのだ!?


『2日間もどこいってたの?』
と、今度は玄関の奥から声がした。
奥の部屋から出てきたのは、小学校中学年ほどの男の子だった。

子供まで?ぼくの?息子?こんなに大きいの??

『2日もいなくなってさ…別に心配してた訳じゃないけどさ…。鍋島さん…』

!?。“さん付け”!?。…なるほど!連れ子か!!子持ちと結婚したのか?そして、ぼくはまだ父親と認められてないのか…。情けない…。
一体、何をやってたんだ?ぼくは……。

ぼくは、躊躇することなく…その連れ子に「ぼくは、つるの剛士と親友なんだよ!」とウソをついた。
連れ子は『本当に?スゴイよ‼お父さん!!』と、すぐにぼくになついた。
所詮は田舎の子供、有名人の名前に弱い。思った通りだ。
どん兵衛ばばぁ……もとい、愛する妻も、とても嬉しそうに2人を見ていた。
ぼくは調子に乗って「裕木奈江は生き別れたぼくの姉ちゃんなんだよ!」とも、嘘をついた。
『はぁ??誰それ??』と、連れ子に少し軽蔑された。無理もない、世代が違い過ぎたのだ。
しかし、ウソをつけばつくほど喜ぶ連れ子…。気付くとぼくは、
“つるの剛士の親友で、姉が裕木奈江、元シャズナのギターでテレフォンショッキングに2回出たことがある父親”になっていた。
その頃、連れ子はとても楽しそうに…ぼくの事を、尊敬し過ぎたのか“お父さん”を通り越して、もはや“大王”と呼んでいた…。
それでも、愛する妻……もとい、どん兵衛ばばぁは、とても嬉しそうだった。

どん兵衛ばばぁ……もとい、クソばばぁは泣いていた。
『あの子が…あんなに笑ってる…今まで一度も笑った事の無いあの子が…あなたといてあんなに笑ってる!!
こんなメデタイ事はないわ!!今日は外食にしましょう!!』
クソばばぁ……もとい、クソは言った。

そしてぼく達家族3人は車で最寄りの、つぼ八に行った。
さすが田舎だ。車で居酒屋に行けるのだ。
『こんなにメデタイ日だもの!!今日はとことん飲むわよ!!代行だって頼んだし!さぁ飲みましょう!!』
クソ……もとい、愛するクソは言った。
そして、彼女は店員に注文をした。
『この、飲み放題のコースで!!…この“忘年会コース!!!”』と。
 



あぁ……また明日、振り出しに戻るのか………。

~終~。