仮面の下(2) / ギブソン・ギターの穴 | おんがく・えとせとら

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 50年代のギブソンは,レスポールに代表されるように,ソリッドギターにおいてもエスカッション(PU搭載用の枠)でピックアップを固定し,表面には極力穴(キャビティ)を空けないという伝統的な仕様を守っていたため,大きなピックガードを持つモデルはあまりありません。

 しかし,製造コストを下げ生産効率を高めるためには,フェンダーのようにボディの共通化 (例えばエスクワイアとテレキャスターは同じボディ)を図り,別に作ったアッセンブリーを後でハメ込むだけでよい仕様の方が断然有利です。
 ギブソンは楽器然とした丁寧な造作で,ライバルであるフェンダー社製品とは一線を画していたのですが,結局,60年代中期以降は,増加する需要に応えるために,大量生産志向の効率追求路線に転換していくことになります。


MM
59mm 59年製
 50年代のギブソンで例外的(カラマズーなどのサブブランドは除く)に,ローコスト追求仕様になっているのが,初心者向けモデルのメロディメーカー。
 写真はシングルカッタウェイ期のメロディメーカーII。ネックが外されてますが,ボディトップのキャビティに,2つのピックアップと2V2Tコントロール,PUセレクターおよびジャックを組み込んだピックガードが被さってきます。
 1PU版はフロント部にキャビティのない別ボディになります。これを2PU版と共通仕様にすればもっと生産効率が上がってくるのですが,この時期はそこまでには至っていない。

exp
59exp 59年製
 50年代ギブソンの別の例外品は58年に登場したエクスプローラーとフライングV。どちらもPUはエスカッションで固定されていますが,大きめのピックガードの下には配線用の溝が掘られています。
 フラットトップ・ボディで,デザイン上のアクセントとしてピックガードが重要な位置づけにあることから,これを積極的に利用したのではないかと思われます。

 続いて,60年代中期以降の例。

sg69
71sg 71年製カスタム
 66年にラージピックガードに変更されたSG。
 61~65年まで,PUはエスカッションに搭載されていましたが,第2世代では予めピックガードに組み込まれるようになります。
 ボディのPUキャビティは最初から3個分,通しで空けられており,ジュニア,スペシャル,スタンダード,カスタム,各モデルで使い回しが可能になっています。「前のモデルの方が好きだから、ピックガードを交換して昔のスタイルに戻しちゃおう」と思ってもダメなワケです。
 写真は2PUのスタンダードもので,センターPU部だけネジ足が入る穴が掘られてません。PUの数に応じて,穴開け工程を追加していたのかもしれません。
 この時期は,さらにトグルスイッチの直近まで配線用の溝が掘られています。ラージサイズのピックガードはブリッジ下まで広がってこれらを隠しており,まさに「お化粧上手」という感じです。

fb
66fb 66年製VII
 65年にデザインの変わった所謂「ノンリバース」ファイアバードの場合は,もっとすごいことになってます。

 ファイアバードはグレード別にI,III,V,VIIの4タイプに分かれています。初期のリバース・ファイアバードはすべてミニハムバッカーでしたが,ノンリバースではピックアップの仕様と数も変化し,IはP-90が2個,IIIはP-90が3個,Vはミニハムバッカーが2個,VIIはミニハムバッカーが3個となっています。
 これらを同じボディで賄ってしまおうというのが,上記写真の構造。

 一皮剥いた姿ははっきり言って不細工です。何十万も出して買ったのにこれはないやろ!と思う人も多いかと…。かろうじて各PU間の仕切りは残っているものの,あとから追加してある埋め木はいったい何?…って,これはP-90ピックアップ固定用の副え木ですね。
 ミニハムバッカー(V,VII)の場合はPU裏にポールピースが飛び出しているのと,ピックアップ横に1個ずつ固定用ネジが伸びているため,その部分を一段掘り下げておく必要がある。従ってこの副え木は不要。
 しかし,P-90の場合(I,III)は,固定用ネジがPU本体を貫通して真下で止まるようになっており,底が深すぎるとPUが埋もれてしまうので底上げ用の副え木が必要になります。

 家電品では「故障の原因になるので分解しないでください」という注意書きが多いですが、まさかピックアップを外して,こんなところまで見られるということはメーカーも想定してなかったでしょうね。「これが何か悪い影響を与えてるのか? ちゃんと音が出るんならそれでいいじゃないか! 」と言われればそれまでですが。
 このタイプは復刻版が作られてないようですね。単に人気がないだけなのか,製作が面倒なのか,理由はよく分かりません。

fv 68年製
70fv
 最後はフライングV。
 これも65年頃からの再生産時に仕様が変わり、PUがピックガードに組み込まれるようになります。ピックガードで隠せるぶん,ルーティング(穴空け加工)も大胆になってます。
 エスカッションを使用するモデルでは,穴を大きく空けちゃうと枠からはみ出して,下手するとエスカッションがネジ止めできなくなってしまう。作業員にもある程度の熟練が必要だったのです。


 ギブソンは70年代に入るとさらに効率化を押し進め,ついにはデッチャブル・ネックを採用したモデル(マローダーなど)まで発売します。効率化の進展に反比例して品質はどんどん低下し、それにつれて評判も低下し暗黒時代に突入していくことになります。で,結果としてオールドモデルの評価が高まり,ブームが起こっていく…。