事件前から当日、被害者から見た高石容疑者はとても穏やかに見えた。
束の間の幸せだった頃の優しい彼を思い出し、安堵した。
会うことに不安はあったが、今の彼なら大丈夫…きっと彼も反省し、立ち直ろうとしているのだろう…そう思っていた。
しかし高石容疑者の心の中は違っていた。
穏やかに取り繕った微笑みの裏では、激しい嫉妬に燃えていた。
今まで自分の力で支配していた彼女が、自由になってしまう。自立し、新しい生活をスタートさせようとしている。
そしてそのことに喜びを感じ、自分から離れることを強く望んでいる。
それがどうしても許せなかった。
誰も自分の味方はいない。
独りよがりな思いを、最後に彼女にぶつけてしまった。
被害者は、今も子どもたちのことを心配している。
今まで苦労させたぶん、一生懸命幸せにしてあげたかった。
それが叶わなくなってしまったことを一番悲しんでいる。