〈末延さんのカード〉


末延さんにとって、羽生さんとの交際はつらいものだった。


誰にも言えない、秘めた恋愛。


後ろめたさや、誰にも相談できない苦しみを抱えていた。


それでも、完璧主義で隙を作れない彼を支えてあげたいと思った。


結婚を申し込まれた時は驚いたし、嬉しさもあったが不安の方が大きかった。


2人なら幸せになれる。そう、2人だけなら。


末延さんにとっての障害は、いつでも羽生さん側の家族だった。


何度も厳しい事を言われ、交際に反対されているのは明らかだった。


それが結婚となると何を言われるか…


それに突然結婚なんて、メディアやファンの人々に受け入れてもらえるのか…


でも大丈夫。きっと彼が守ってくれるはず。


しかし、その淡い期待はすぐに消えてしまう。


まず、徹底して隠された自分の存在。


日本を代表するフィギュアスケーターであり、アイドル並みの影響力を持つ彼と結婚するのだから


多少制限があるのは覚悟していた。


しかしこれでは結婚前より酷い生活だ。


ひっそりと、誰にも言えない交際をしていた時と変わらない。


それどころか、自分1人で行動するのも制限がかかってしまった。


つぎに、家族やメディアの反応に対して。


彼なりに頑張ってくれているものの、頼りないものだった。


次第に世間に暴かれていく自分の素性。


周囲からの好奇の目と誹謗中傷の嵐。


もうそれは恐怖でしかなかった。


助けを求めた時には、彼はもう自分のことで精一杯になっていた。


これではだめだ。共倒れになってしまう。


お互いに過度な期待をしすぎて、きちんと向き合えていなかった。


彼と離れてからは、少しずつ元気を取り戻していった。


辛かったけれど、後悔はしていない。


今は前向きに生きることを決め、過去と決別して頑張っている。