疲れていたから近道しようと暗い道に入った。
ガラガラと自分の引っ張っている荷物がうるさい。
が、その音よりも大きい声が辺りに響き渡った、
と思うより早く、近くの路地から何かを叫びながら男が飛び出してきた。
自分の横を走り抜けて行く、そうであって欲しい、と願ったが男は私を追い越すなり立ち止まり、また叫びはじめた。
声を限りに、言葉にならない何かをうわごとのように周囲に撒き散らしている。
ざわっ、と嫌な予感がする。
このまま、この道を進むのは良くない。あの男が振り返る前に、逃げよう。
まるで何事もなかったかのように。
今来た道を慌てて引き返した。ガラガラと音を立てるスーツケースが忌ま忌ましい。
早歩きで、大きく明るい道路に出た。少しほっとする。
1番怖いのは、理解できないことだ。目の前にある出来事の背景が見えない時、とても混乱する。
先程の男は20代~30代くらいに若く見えた。恋人に急に別れ話でも切り出されたか、或いは親しい者が急に亡くなったか。
何かしらの、彼には受け止められない衝撃が、不可思議な行動を引き起こしているようでもあった。
ただ、答えはわからない。刃物でも持たれていたらかなわない。
とにかく怖かった。
さあ、もうすぐ家だという所になって、血の気が引いた。
正面から、先程の男が歩いて来るのが見えた。距離にして3mも無かった。待ち伏せされていた訳ではないだろうが、心底びっくりした。
B級ホラーだ。
逃げようと、背中を向けたら逆上されるかもしれない。それなら、何食わぬ顔をしてすれ違ってしまえばいい…。
しかし、今日の私には、スーツケースという嫌な特徴がある。
先程逃げた奴、と認識されていないとも限らない。
こんな時、どうしたら良いのか。
わからない。
心臓は勝手にドキドキしている。交通量の多い道なのに、激しく心細い。
ぐるぐると対策を練っている数秒の間にも男は奇声をあげている。
なんでだよお、とか、うわぁあ、とか、こちらが聞き返したいくらいだ。
小走りに横を走り抜けよう、と決意した瞬間、予想外の事が起きた。
男が突然、倒れて道に座り込んだのである。
もう「どびっくり」以外のなにものでもない。
文字数がいっぱいになったので、つづく。