
今日ジムでのこと。
大浴場の体洗い場。
誰もいない。
鏡の前にピンクの石鹸箱。
持ち主が忘れていったのだろう。
藤紫色の小さな石鹸箱を思い出した。
母の帰宅が遅いので、一人で行った銭湯。
1週間以上も風呂に入っていなかった。
ま、ウチでは普通のことだった。
9歳ぐらいだったか。
帰宅した母が藤紫色の石鹸箱を見つけた。
「これどうしたの?」
「オバさんがくれたの。」
「嘘だ。盗んだんじゃないんだろうね。」
「違うよ。ゴミ箱に捨ててあったんだい。」
「本当?嘘は、泥棒の始まりだよ。」
「絶対、人様のものをとったりしちゃいけないよ。」
「たとえ、ゴミ箱からでも。次銭湯に行く時、
返しておいで。」
「・・・・」
半世紀前の記憶。
そう、誰かが鏡の前に忘れていったのだ。
風呂場に入って行った時から私は気づいていた。
30分経っても誰も取りに来ない。
私は、その鏡の前に腰を下ろし、
体を洗った。そして、立ち上がりかけに、
その藤紫色の小さな石鹸箱を持ってきた自分の
桶に入れた。浴場を出た。
胸が高鳴った。泥棒だ。
着の身着のままで、
引っ越してきた。
家には何もなかった。
石鹸箱はあったと思うが、親戚のお古で、
パッとしないものだったのだろう。
私はその「藤紫色」に魅せられた。
あんなに美しい色の石鹸箱を見たことがなかった。
心の底から欲しい、自分だけが使う石鹸箱に
したかった。